SDGsとキッズデザインの関連性【前編】

掲載日: 2022.3.25

SDGsとキッズデザインの関連性

はじめに

キッズデザイン協議会は2021年12月14日、「SDGsとキッズデザインの関連性」をテーマに経営者による意見交換会をオンラインで開催しました。プログラム前半では第15回キッズデザイン賞内閣総理大臣賞受賞講演と基調講演、後半は経済産業大臣賞受賞講演と講演者らによる意見交換を行いました。

今や社会活動や経済活動と切っても切り離せないSDGs。次世代を担う子どもたちが安心・安全に、また、創造的に暮らせる社会を実現しようとするキッズデザイン協議会の山本正已会長は「キッズデザインが溢れる社会の実現とSDGsの達成が、いかに関連深いものであるか実感しています」とこれまでの活動を振り返りました。

SDGsとキッズデザインの関連性

キッズデザインはSDGsの基盤

プログラムに先立ち、経済産業省デザイン政策室調整官の青﨑智行氏が登壇しました。
昨年を上回る400点超の第15回キッズデザイン賞応募作品への熱意に敬意を評すると同時に、「受賞作品の中には、コロナ禍による新たな生活様式にも対応する教育やプロダクト等が見られ、デザインが持つ時代性を改めて認識させられた」と作品のデザイン性を称賛しました。

また、キッズデザインとSDGsは極めて親和性が高いとし、「キッズデザインに取組む企業・団体は、SDGsの観点からも先行している」との考えを述べました。経済産業省は、キッズデザインを推進する企業・団体を引き続き応援していく方針です。

SDGsとキッズデザインの関連性
【事例紹介1:新渡戸文化学園】
―VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT―
新渡戸文化学園プロジェクトデザイナー
VIVISTOP NITOBE チーフクルー
山内佑輔氏
SDGsとキッズデザインの関連性

Happiness Creator

新渡戸文化学園(東京都中野区)は、子ども園から短期大学までの総合学園です。小規模ながら敷地内に多様な子どもが集い、「刺激的な出会いに毎日ワクワクする」と山内氏は学園の魅力を紹介します。
学園は現在、「Happiness Creator 子どもたちが幸せを作る人になろう」という目標を掲げて、改革に取組んでいます。「自律型学習」の視点から、学園で学んだことを生かして、将来、自分の大切な人や社会を幸せにすることを通じて幸福な人生を描いてほしいという願いが込められているといいます。
こうした学園の改革に、「Conviviality(自律共生)」をミッションに掲げるVIVITAJAPAN株式会社が参画。両者のキーワード「自律」が一致し、VIVISTOPでの協働が実現しました。

VIVISTOP NITOBEとは

VIVITAとは、子どもたちやクリエイティブな人々で構成される自律共生のためのグローバルコミュニティです。専門家のグローバルなネットワークを活かしながら、子どもたちのアイデアの実現をサポートするクリエイティブツールの開発や、クリエイティブ空間「VIVISTOP」を運営。現在、エストニア、シンガポール、リストニア、フィリピン、ハワイ、日本(金沢や博多、東京学芸大学内)で展開されています。
2020年9月にオープンしたVIVISTOP NITOBEですが、学校というカテゴリーでは新渡戸文化学園が世界で唯一だそう。
一体、どのような「場」なのでしょうか。
「Convivialityを達成するための環境で、先生はいない、カリキュラムもありません」という山内氏は、こう続けます。
「子どもたちに限界はありません。『とにかくやりたいこと、好きなことをとことんやってごらん』という環境を準備しています。子どもたちの場所という位置付けで、オーナーシップ、メンバーシップを大事にしているのがVIVISTOPという場です」

SDGsとキッズデザインの関連性

学校内にあるので授業でも使用しますが、地域のクリエイティブ拠点として展開するために、VIVISTOP NITOBEという場作りを更に盛り上げていきたいと言います。
「STEAM(注)のアート、サイエンス、テクノロジーを加味しながら新しい学びを作っていきたいと思っています」と山内氏は話します。

(注)サイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・アート・マセマティックスの5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。分野横断的な学び。

FURNITURE DESIGN PROJECT

9月のオープン当初、ガランとした何もない空間でした。

SDGsとキッズデザインの関連性

・子どもたちに環境づくりを任せることでオーナーシップ、メンバーシップを養い、同時に教科横断的な取組みを展開したい学園の想い
・VIVITAJAPANの木を使った活動を通して林業への関心につなげたいという想い
この2つの想いに高知県佐川町のデザイナーが賛同し、3者によるFURNITURE DESIGN PROJECTが進行します。

授業は子どもたちによる椅子づくりからスタート。5人1チーム、12脚の椅子が完成しました。

完成までのプロセスは、大きく5つ。
1. 作ってみたい椅子を工作用紙で試作
2. 図面化し、レーザーカッターを使いミニチュアを作製
3. オンラインを通じて、実用可能か佐川町のデザイナーに相談
4. デザイナーが起こしたCADデザインを基に切り抜いた部材が学校へ届けられる
5. 子どもたちが自らの手で組み立てて完成

SDGsとキッズデザインの関連性

例えば、ブランコを作りたいと考えたチーム。
「室内にブランコを置くのは大きすぎるね」――実現できるかどうか話し合いを重ねて、ミニチュアを作製してみます。
ブランコの「揺れる」要素は絶対に守りたい、という想いを核にデザインを変更していきました。

SDGsとキッズデザインの関連性

さらに、そのデザインを基にオンラインで佐川町のデザイナーと「危険じゃないかな?」「転ばないかな?」「すぐにぺちゃんこにならない?」と話し合います。プロの手でデザインが出来上がり、さらに対話を重ねてブラッシュアップしていきました。
出来上がった図面通りに木材が切り抜かれ、佐川町から中野区の学園に届けられます。
子どもたちは届いた部材にヤスリを掛けて組み立て、「つらないブランコ」と名付けられた椅子が完成しました。
12脚の椅子には、子どもたちのアイデアや工夫、ワクワクが込められています。

佐川町とのオンラインでは、実際に木が伐採される様子を見たり、林業についてインタビューしたり、子どもたちは遠く離れた山について学びました。
山内氏によると、伐採の様子や林業の学びは社会科領域、インタビューを基にした作文は国語領域。このように教科横断の学びが実現しています。

完成した12脚の椅子は、同学園のポートフォリオサイトで紹介されていて、学園を訪ねれば実際に座ることも出来るそうです。

FURNITURE DESIGN PROJECTとSDGs

SDGsとキッズデザインの関連性

このプロジェクトをSDGsと対比させると6つの目標が当てはまると山内氏は言います。 一方で、「このプロジェクトはSDGs教育のためのプログラムでもなければ、STEAM教育のためのプログラムではない」とも。

「私は小学生を相手に授業をしています。SDGsもSTEAMも、それ自体を目的にする授業をしていません。教科横断と何度か発言しましたが、これも『手段』だと思っています」

プロジェクトでは、子どもと大人が、デザイナーと同じ目線でモノづくりに取組んできました。「こども×おとなの共創」も『手段』だといいます。

『目的』は何でしょう?

「究極的に突き詰めると、より良くしたい『well-being』じゃないかと思っています」

VIVISTOP NITOBEが誕生し、「子どもたちにとってより良い環境であってほしい、自分ごと化してほしい」という想いからFURNITURE DESIGN PROJECTがスタートしました。

本当に必要なことをより良くしたい、より良い社会にしたい、より良い学校にしたい、より良い授業にしたい、と考えるとあらゆるものを越えていくのだと山内氏は言います。
今の環境をより良くしたいと考えたら、SDGsもSTEAMもジェンダーもダイバーシティも解決されるのではないでしょうか。

「FURNITURE DESIGN PROJECTは、子どものための授業ではありません。子どもと共に環境を作る、林業を学ぶ、環境を学ぶ授業です。これから手掛ける授業も子どもと共にモノづくりをしていく、子どもと共に未来を創る、『共創』を大事にしたいと思っています」

「子どもと共に」がこれからの時代のキーワードなのかもしれません。

【基調講演:キッズデザインでSDGsの扉を開ける】
一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 共同代表理事
SDGs推進円卓会議構成員(ジャパンSDGsアワード選出メンバー)
三輪敦子氏
SDGsとキッズデザインの関連性

このままでは未来は続かない

「今の私たちの暮らしが次の世代の負担になる、あるいは、次の世代は今と同じような生活が続けられない、だからこのような暮らし方を見直して改めましょうというのがSDGsです」
「国連は30年前から持続可能な開発を提唱しましたが、実現していません。今、決定的な危機を迎え、このままでは未来は続かない状況が目前にあります」
と三輪氏は訴えます。

「誰一人取り残さない」ことを前提としたSDGsですが、コロナ禍の影響もあり格差や不平等が拡大しています。三輪氏は、子どもの貧困が世代を越えて継承されるのではないか、日本の少子高齢化問題は「日本社会の持続不可能性の深刻な課題」だと指摘します。

ウエディングケーキモデル

SDGsとキッズデザインの関連性

図は、スウェーデンのストックホルムにあるレジリエンス研究所が発表したウエディングケーキモデルです。下から生物圏、社会圏、経済圏が積み重なり、3層が相互に関連し、依存しています。一つの目標は、他の幾つもの目標に波及効果を与えるため、相互の関連・依存に目を向けないとSDGsは実現できません。

「3層の関連性・依存性・波及効果を理解し、総合的なアプローチで子どもと共に世代を越えて取組む必要があると考えています。まさしくキッズデザインが大きく貢献できる分野だと思っています」
三輪氏はキッズデザインに大きな期待を寄せます。

気候変動を目標相互の関連性から考える

2021年は「気候変動」が大きな話題となりました。 というのも11月のCOP26に先立ち、8月にIPCCが「人間の活動が地球温暖化の原因であることには疑いの余地がない」とする報告書を出したからです。「私たちの生活を変える必要がある」ことが突きつけられ、開催されたCOP26は大きな注目を集めました。 「気候変動」を例に三輪氏は目標の相互関係を説明します。

SDGsとキッズデザインの関連性

気候変動によって海水面が上昇し、太平洋の小島嶼国は死活問題に直面しています。 COP26のオープニングイベントでも小島嶼国からの参加者が次々と登壇し、現状を訴えました。「先祖代々、暮らしてきた島が沈みつつあるという状況を前にして、私たちは子どもを産むという決断をしていいのか」と訴える若い女性が印象的だったと三輪氏は振り返ります。

SDGsとキッズデザインの関連性

日本でも実感できる変化です。毎年のように発生する激甚災害がもたらす被害や耐えがたい暑さ。植生の変化による農業生産への影響も懸念されます。

SDGsとキッズデザインの関連性

水源の枯渇が世界各地で起こっています。特に、途上国とされる国々では非常に深刻な問題。水汲みは女性の仕事であることが多く、遠方の水源に頼らざるを得なくなり、これまで以上に長時間の重労働となっています。農業生産にも影響が及んでいます。

SDGsとキッズデザインの関連性

温暖化による感染症の拡散が懸念されます。日本でもデング熱やマラリアの発生が危ぶまれるなど、これまで経験することのなかった健康問題に向き合う可能性が高まっています。安全な飲料水が十分にない場所では子どもの健康が著しく損なわれ、死に直結することに。

SDGsとキッズデザインの関連性

水汲みや薪集めをする女性たちの労働負担の増加は、健康の悪化や生活水準の低下につながります。女性が世帯の食料生産に責任を負っている地域は多く、農業生産への影響は家族の生存を脅かす要因となります。

SDGsとキッズデザインの関連性

上記の様々な問題によって生計が立ち行かなくなると、特に女性の教育機会が失われます。すでに、パンデミックによって女性の就学率が下がっているというデータもあり、これは日本でも懸念されることです。

SDGsとキッズデザインの関連性

ゲリラ豪雨や巨大台風といった激甚災害により都市インフラが大きな被害を受け、都市機能が麻痺。日本でも頻発しています。

SDGsとキッズデザインの関連性

海水面上昇の問題は、小島嶼国だけの問題ではありません。日本の港湾設備の多くが使用できなくなることが懸念され、貿易立国の日本にとって深刻な問題になる可能性があります。

SDGsとキッズデザインの関連性

洪水と干ばつの繰り返しが気候変動の非常に深刻な問題で、農業生産に深刻な影響を与えます。サプライチェーンの崩壊にもつながり、工業生産にも影響が。生計手段の喪失は飢餓に直結します。

SDGsとキッズデザインの関連性

20世紀最大の環境破壊といわれるアラル海の喪失は、人々の生計手段を奪い、多くの移民・難民を生見ました。今後、同様の問題が世界各地で発生することが懸念されます。

SDGsとキッズデザインの関連性

これまでに述べた問題は、元々、脆弱な国や人により大きな影響を与えます。それが不平等や格差の拡大につながると懸念されます。

SDGsとキッズデザインの関連性

気候変動の核心問題です。クリーンで安全なエネルギーの確保、安定供給への取組みは世界、日本の課題でもあります。

SDGsとキッズデザインの関連性

台風や洪水、海水面の上昇は、港や生産工場、物流、サプライチェーンにダイレクトに深刻な影響を及ぼします。

SDGsとキッズデザインの関連性

歴史的にも水問題は国際紛争の主要原因の一つ。新たな国際紛争の発生を防ぐためにも気候変動への対応は重要な課題です。

SDGsとキッズデザインの関連性

16の目標全てを政府、企業、市民社会組織、研究者等が力をあわせ、パートナーシップで実現する必要があります。

16の目標全てを政府、企業、市民社会組織、研究者等が力をあわせ、パートナーシップで実現する必要があります。 「誰かに任せるのではなく、それぞれが自分の問題、自分たちの組織の問題として取組むことが重要です。SDGsの各目標の相互の関係を理解し、遠い場所の問題に思えても実は様々な形で私たちにも影響が及ぶ身近な問題だと気付いていただければと思います」

未来が続くこと = 企業が続くこと

「未来を担う子どものため」、そして「日本と世界の未来が続くため」にも、キッズデザインとSDGsは深い関係です。SDGsは「続く未来への変革のためのツール」であり、三輪氏は「未来が続くことは、企業が続くこと。そして、変わらないと続きません」と強調します。
そして、今、SDGsに取組まないと未来はないと危機感を滲ませます。

キッズデザインに取組むに当たって、「続く社会への変革」という視点を加えてほしいと言います。
子どもが夢と希望を感じられる社会を作ることはいつの時代も大人の責任でした。それに加えて社会と世界が将来も続くための変革は、「今を生きる私たち大人」の重大な責任です。

三輪氏は、キッズデザイン賞受賞団体が連携すれば素晴らしいマルチベネフィットが生まれるのではないか、相乗効果を生み出す様々な活動が一つのコミュニティで展開する未来が実現すればSDGsの達成は手が届くのではないかと期待します。

「『子どもを巻き込んで、共に変革を』。これを強調したいと思います。子どもには何でも理解する、吸収する能力が備わっています。変革を牽引する一歩進んだキッズデザイン・未来を拓くキッズデザインによってSDGsを達成すること、キッズデザインが豊かで平和で公正で幸福な未来の担い手になることが、山内さんがお話されたHappiness Creatorに重なるのではないかと感じました」

後半に続きます。

    
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