SDGsとキッズデザインの関連性【後編】

掲載日: 2022.3.25

SDGsとキッズデザインの関連性

前編からの続きです。

【キッズデザイン紹介】 キッズデザインに取組むことはSDGsに取組むこと
キッズデザイン協議会理事
株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所社長
高橋義則氏
SDGsとキッズデザインの関連性

キッズデザイン3つのミッション

現在、小学3年生(8歳)の子どもは、SDGs達成目標の2030年に18歳。これからの社会を担っていく年齢となり、2030年は直近の未来です。
2030年がゴールではなく、その先の10年、20年をどのように生きていくのか—という点に視座を置きキッズデザインとSDGsを語っていく必要があると高橋氏は話します。
その上で、キッズデザインの3つのミッション(注)は独立したものではなく、相互に相乗効果を生みながら社会に浸透していくべきもの、と言います。

(注)①子どもたちの安心・安全に貢献するデザイン②子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン③子どもたちを産み育てやすいデザイン

視座を広げ、デザインを考える

キッズデザイン協議会は2021年度にSDGsプロジェクトを発足しました。キッズデザインとSDGsの連携を推進し、受賞企業・団体にSDGsへの意識調査や事例分析を行います。目標1から目標17まで自社の取組みがどの目標に当てはまるか回答をしてもらい、業種ごとに比率を算出したものが下図です。

SDGsとキッズデザインの関連性
SDGsとキッズデザインの関連性

業種ごとにSDGsへの傾向が見えてきます。
高橋氏は、自認する項目に留まらず、視座を拡張して見ることが非常に重要だと訴えます。

17の目標に「子ども」「子育て」という視点を入れると、出来ることがより鮮明になり、「子どもの目線で子どもたちがつくる未来、子どもたちと共につくる未来」を考えることがキッズデザインとSDGsを考える上で大事だと語りました。

【事例紹介2:エレコム】
SDGsとキッズデザインの関連性
エレコム株式会社
商品開発室 オーディオ&生活家電課 オーディオチーム
チームリーダー 島村晃氏
SDGsとキッズデザインの関連性

子ども用ヘッドセット開発

GIGAスクール構想(注)と、新型コロナウイルス感染症によって、オンライン授業の普及が急速に進みました。そこで課題となったのが、学習用のヘッドセットです。
島村氏によると、音楽を聴くための子ども用ヘッドフォンはあったものの、海外製で派手な色だったり、マイクが付いていなかったり、授業や学習に適したものではなかったそうです。そこでエレコムでは、子ども用に最適化されたヘッドセットの開発に着手しました。

(注)義務教育を受ける児童生徒一人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境を整備する2018〜2022年までの5ヵ年計画

子ども目線、子ども視点の3つのコンセプト

開発にあたって同社では子ども目線、子ども視点を重視したといいます。

SDGsとキッズデザインの関連性

①成長に伴う体格の変化に合わせた専用設計
ヘッドセットは、サイズ・装着感で聞き取り性能やマイクの集音性に大きく影響します。成長に合わせてフィットするよう、サイズ調整機能や可動式の耳当てを採用。1,790人の小学生の頭部サイズを計測し、データを基にストレスなく使える設計にしました。

②子どもの仕様に配慮した製品仕様
ヘッドフォン難聴やイヤフォン難聴に配慮。音量を絞った低音量仕様(85デシベル)で、難聴リスクから子どもを守ります。
大音量で音楽を聞き続けると聴力が低下するこの難聴は、成長過程の若年層への影響が大きく、WHOの発表によると、世界の若い世代の半数近い約11億人が難聴リスクに晒されているといいます。

③子どもが使いたいと思うカラーリング
子どもが使いたいカラーリングを展開。水筒や筆箱など子どもの持ち物で人気のあるカラーを参考に、実際に親子にアンケートやヒアリングを実施し、5色を決定しました。

SDGsを意識

子ども用学習ツールは、ヘッドセット以外にもイヤホンタイプ、片耳モデル、両耳モデルなど揃えており、島村氏は「オンライン授業をサポートできるような商品を開発し、子どもたちの学習をサポートしていきたい」と展望します。

以下は、同社が取組む4つのSDGs目標です。

SDGsとキッズデザインの関連性

コロナ禍で、1回目の緊急事態宣言による休校で学習機会が止まったものの、4回目の緊急事態宣言ではオンライン授業を導入した自治体が増加。オンライン授業という環境に添える商品となりました。

SDGsとキッズデザインの関連性

特に意識したのはカラーリングだといいます。いじめの対象や教師からの指摘の可能性を考え、派手な柄・子どもじみたデザインではなく、子どもがほしい色、落ち着いたカラーリングを採用しています。

SDGsとキッズデザインの関連性

提供する商品・サービスは使う人に分かりやすく、使う人が満足するまで徹底的にサポートすることが同社のポリシーだと言います。開発プロセスには、ユーザビリティーチェックという審査項目があり、使用者目線でのフィードバックを商品開発に繋げています。

SDGsとキッズデザインの関連性

従来よりも環境負荷が少ない商品を示すため「THINK ECOLOGY」マークを設けました。天然由来の樹脂を採用、マニュアルのペーパーレス化、パッケージの小型化などで環境へ配慮しています。

【トークセッション】
ファシリテーター:高橋義則氏
パネリスト:三輪敦子氏/山内佑輔氏/島村晃氏
(以下、敬称略)

高橋
SDGsという大きな取組みの中で、自社における「子ども」の位置付け、また、今後の展開についてお聞きします。

山内
子どもたちにSDGsを知ってもらうことは大事ですが、「これはSDGsの何番の授業(勉強)です」というのは絶対に避けたいと思っています。
SDGsには答えがないので、子どもも大人も同じ目線で共に考えることができます。「教える」教育ではなく、「一緒に考えたい」というスタンスが必要ではないでしょうか。

三輪
「子どものため」と「子どもと共に」という2つの視点が大事です。SDGsに貢献するデザインを「子どものため」に作る大人の責任と、「子どもと共に」作るということ。子どもを持続可能な未来・社会の担い手として育てる大人の責任でもあります。キッズデザインは、その責任を達成するための媒体あるいはツールになってもらいたいと思っています。

SDGsとキッズデザインの関連性

高橋
世界的に11億人がヘッドフォン難聴の予備軍だそうですが、どのような問題意識・課題意識を持って子ども用の商品開発に取組みましたか。

島村
子どもと大人が一緒に学び、取組む「共創」が一番近いかもしれません。子ども用ヘッドセット開発に当たってサイズは計測データを基にしましたが、装着感や色は20〜30人の子どもたちに参加してもらい意見を聞きました。

高橋
三輪さんのお話には「統合的組合せ」、山内さんのお話には「教科横断」というキーワードがありました。統合によるシナジー効果はあると思いますが、授業のプログラムを組み立てる上で何に気を付けていますか。

山内
「今必要な学びは何か」と考えた時に、教科では収まらない問題がたくさんあります。伝えたい問題を明確にして、子どもたちにいかに分かりやすく、テンション高く、楽しく伝えるにはどうしたらいいか、を常に考えています。
例えば、僕は図画工作をメインにしていますが、そこに算数の要素があったとします。それを算数の授業で引き継げれば、きっと算数の授業も楽しくなります。こうしたことは学校教育の中で出来ると思っていて、子どもたちが楽しく、ワクワク学べる環境を作っていきたいですね。

SDGsとキッズデザインの関連性

高橋
SDGsに取組もうと考えている企業や団体が理想の事業活動を展開するためには、SDGsの相互の関連性をどのように活かしたらいいでしょうか。

三輪
これは多くの企業にとって非常に重要な点だと思います。SDGsの重大な課題は、「トレードオフ」です。一つの目標を重要な課題と位置付けて追求すると、他の目標部分に深刻な影響を及ぼすことがあります。例えば、気候危機への対応として世界的に牛肉を食べない人が増えています。気候変動の観点からは正しいかもしれませんが、畜産業にとっては死活問題です。
こうした課題との関連で重要になるのが「公正な移行」という概念です。脱炭素・脱化石燃料に向けて産業構造の転換を実現するためには、今の従業員の雇用問題まで考えた対策、移行が必要となります。サプライチェーン、バリューチェーン全体を考えて、どのような資源を使って誰が生産・就業するか、その際に起こるトレードオフにどのように対応するか。一歩先、二歩先を見据えて進む企業が、次の世代のリードを取ることになるでしょう。 2050年のカーボンニュートラル宣言については、企業の担当者と話していても、「課題なのは分かっているが2050年はまだ先。今すぐは、あまり考えたくない」といった反応が返ってくることがあり、残念に感じています。COP26で繰り返し強調されたのは、今すぐに行動を始めないと取り返しがつかない状況になるということ。その危機感が薄い。 SDGs相互の関連性を踏まえてキッズデザインに取組むことは、こうした課題を踏まえてキッズデザインに取り組むということでもあり、次の世代にとって魅力的な企業になり得るということでもあるのではないでしょうか。

高橋
今の子どもがさらに次の世代の子どもたちのための環境を残すためには、今の大人が動かなければなりません。教育が重要なのは当然ですが、モノづくりやデザイン等でアプローチすることも大切です。しかし、その想いが社会や消費者にうまく伝わらないジレンマもある。そこで、社会やステークホルダーに子ども目線でのSDGsを伝える良い方法はありますか?

山内
子どもたちに語り部になってもらう。例えば、「ゴミの分別は必要だ」と子どもが言えば、親や祖父母は「やってみよう」と変わるのではないでしょうか。今、「子ども」と呼ばれる年代にどれだけ響かせるかによって、時代が100年変わるという説があります。でも、暗い内容では子どもは語ってくれません。そういう意味で、子どものためのデザインの工夫は必要だと思います。

島村
情報を発信し続けることは大切です。正確な情報を子どもに伝え、それを子どもが理解して行動できれば、未来は続くのではないでしょうか。

SDGsとキッズデザインの関連性

三輪氏
情報発信は大事です。日本企業はもっとアピールできると思うことが多くあります。山内さんのプレゼンでも男児と女児が一緒に作品を作っている様子が窺えました。こうした実践をSDGsの目標5「ジェンダー平等」という観点で位置づけてもいいのではないでしょうか。こじつけは良くないが、積極的にSDGsに取組み、積極的にアピールすることで、多方面からフィードバックが得られ、それがさらなるSDGsの実践に繋がっていきます。
申し上げたいのは、SDGsは企業価値全体の話であり、企業存続の問題ということ。SDGsをCSRの観点で考えないでほしい。環境の持続可能性は環境だけの問題ではなく、人権問題でもあり、多様性と包摂性にも関係する非常に重要な問題です。

高橋
子ども用品を作っていないからキッズデザインとは関わりがない、ということがあります。しかし、社会のステークホルダーとして、子どもは重要な存在だということを認識すべきです。
2030年まで残り9年しかありません。2030年はどういう社会であるべきか、それが組織の中でどう生かされていくのか意見をお聞きします。

山内
未来は自分たちで作ることが出来ると思ってほしい。日本は、国を作るための参画意識が低く、自分の意見が世界を変えられると思っていません。それはSDGsの取組みにもつながっていて、世界を変えられる実感を持つ社会を作っていきたいですね。

島村氏
プロダクト商品を作っていて、近年のテクノロジーの進化には目を見張るものがあります。今後、さらに便利な世の中になり、SDGsがクリアできても新たな問題が発生し、そうした課題に取組んでいくことになるでしょう。

三輪
明るい未来を語りたいところですが、現状は難しい。これまでSDGsの進捗は緩やかで「2020年からの10年を『行動の10年』にしよう」と国連の事務総長が発表した矢先にコロナパンデミックに見舞われました。SDGsは今、大変厳しい状況に置かれています。
ただ、誰一人取り残さずにコロナ禍から回復することは、「誰一人取り残さない」というSDGsのメッセージが単なるスローガンではないことを確認できるチャンスです。
「みんなで未来を作れる」という山内さんの思いはとても大事で、子ども一人ひとりがそう思ってくれれば、未来は良くなるのではないでしょうか。誰一人取り残さないことを真剣に考えられる温かい日本社会をつくっていければ素晴らしいと願っています。

高橋
外部から見るとSDGsに取組んでいるのに、気付いていないというケースが多いように思います。気付くことで改めて積極的に取組む大きな一歩になるのではないでしょうか。このように取組むと自社の製品サービスがSDGs色を濃く出せるのではないか、というアドバイスやメッセージをお願いします。

山内
イノベーションで大事なのは、「既成概念を超える」「やっていないことをやる」こと。子どもはすでにその位置にいる貴重な存在です。子どもたちに「教えてください」というスタンスで付き合ってみると面白いものが生まれるのではないでしょうか。子どもたちと一緒にモノづくりをしてほしい。連絡をいただければコラボレーションしたいですね。

島村
当社ではプラスチック削減目標や、「THINK ECOLOGY」マークでペーパーレス化を会社の目標にして取組んでいます。これが結果としてSDGsにつながっています。

三輪
企業として次世代に続く、次世代を創造する、次世代を豊かにする存在になっていただきたいですね。子どもたちの夢を受け止め、子どもたちの夢を実現するような組織です。

高橋
キッズデザインは決して子どもたちのためだけのデザインではありません。社会そのものを変えていくためのデザインです。未来を見据え子どもたちと共に作る、子どもたちから学ぶという考え方は一周して自分に戻ってきます。その循環を作ることが、今、この時期に必要なことではないでしょうか。
自社の取組みや製品、活動をSDGsと子どもの視点で見直すと、製品開発のヒントや新たな気付きが生まれ、新しい局面が見えてくる。それは結果的に、サステナビリティにつながり、企業の永続性につながると思います。

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