仕事も子育ても、変化を前向きに楽しむ社会づくりへ~PeerCross
掲載日: 2025.12.9

出産、復職後のモチベーション低下を経験して
女性の出産、復職後のキャリア形成についての悩みはなかなか相談相手を探すことが難しい。キャリアの考え方や専門性について、個々の事情や要望が多く、組織としての対応がやりにくいという状況もある。
「PeerCross」はこうしたニーズに応えるべく誕生したサービスであり、子どもたちを産み育てやすいデザイン部門・優秀賞(男女共同参画担当大臣賞)を受賞した。サービスを展開する東日本旅客鉄道株式会社の堀元由梨さんはこう語る。
「8年前、私は仕事も家庭も諦めずにどちらも頑張りたいという思いを持ち、電車の運転士として時短を取得して第一子の育休から復職しました。しかし次の三つの要因からキャリアへの意欲が低下していきました。
ひとつめ、子どもの体調不良、ふたつめ、上司からの良かれと思った過剰な配慮、みっつめ自分自身で全てやらなければいけないというバイアスです。
新たな業務に挑戦する機会もないなかで、子どもを預けてまでこの会社で働く意義とは何だろうと考えこんでしまいました。そんな時、近い悩みを抱えていた元同僚が、同じような価値観、境遇の人にタイムリーに悩みを共有できる場があればと考え、このアイデアをJR東日本新事業創造プログラムON1000に応募して、PeerCrossが事業化されました。
私も手を挙げてこの事務局に異動しました。」

キャリア形成のモチベーションが下がってしまう要因は様々
マミートラックは社会構造が生んだ弊害である
「ライフイベントの後にキャリアへの意欲が低下してしまうというのは私個人の問題ではなく、社会構造が生んでいる社会課題です。
マミートラックという言葉がありますが、これは仕事の難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もない状態を指します。
出産後、復職した女性の実に半数近くがこの状態に該当するとも言われています。
これは危機的な状況です。日本の男女賃金格差は77.5%、OECD平均の88.4%に対して大きく下回っている現状があり、マミートラックはこの格差の原因の一つとも言われています。
女性活躍推進法の制定などの後押しもあり、制度面といったハード面は整備が進んできました。現在では当事者側の意欲、マネジメント面の意識改革といったソフト面へ課題が変化していると考えたのです。」

制度・ハードの支援からソフトの支援への転換が必要
キャリア形成については個々人に寄り添うことが大事であり、そのための仕組みが必要と考えた。具体的なサービスの内容について堀元さんはこう語ってくれた。
「PeerCrossは当事者側の意識から課題解決に取り組んでいます。
ワーキングマザーが変化を前向きに楽しめる社会をビジョンとして掲げ、大手企業のワーキングマザー同士が会いたい人を探して、1対1で相談ができるキャリア形成支援サービスです。主な提供サービスはマッチングと座談会です。
サービスの特徴は3つあり、1つ目が質の高い安全なコミュニティ、2つ目が9割を超える高いマッチング満足度、3つ目がキャリアにフォーカスしたネットワーキングです。
Peerという言葉には仲間とか地位や能力が同等・対等といった意味があります。職位や年齢が違ったとしても、1対1で対等に話すことができるサービスであることが特徴です。
10月現在、40社を超える多様な企業が導入しています。」

会いたい人と1対1のマッチングができる点が特徴だ
多様な視点や考え方から、自分なりのキャリア形成を
しかし個人のキャリア形成の悩みを社内に相談相手を見つけることはなかなか難しい。それを払しょくするためには、今の職場と直接関係のない相談相手を見つけることが理想だが、個人でそれを実行するハードルは高い。
本サービスの独自性はここにある。
「具体的な提供サービスのひとつがマッチングです。システムを通じて安心・安全に気軽に社外の方とつながることができます。累計で約6,900組、13,800名(2025年11月時点)のマッチングが成立しています。
価値観が多様化している今、ひとりのロールモデルを見つけることは困難です。システムを通じて複数のロールパーツと出会っていただき、様々な選択肢を得ることで自分なりのキャリアを形成することができます。
提供サービスの2つ目の座談会は、平日のお昼休みの時間帯にオンラインで全国から参加可能です。テーマはライフ、キャリアのそれぞれで実施しています。
ワーキングマザーのキャリアは、ライフとの両輪で作用していると言われています。家庭との両立に悩んでいる時、キャリアに対しても前向きになれないという結果もあります。
座談会の中ではお子様も参加できるものもあります。」

安全に社外の人とつながることができ、マッチング実績は6,400組

子どもと一緒に参加できる座談会も設けており好評だ
ライフ・キャリア共に前向きにチャレンジできた、という声も
実績も積まれていくなか、実際にサービスの効果を実感できていると堀元さんは言う。
「フルタイムで仕事をしていると、子どもに集中することができず、夏休みの過ごし方に不安になっていたが有意義に過ごすことができた、という感想も利用者から届いています。
マッチングと座談会を通して、利用者の皆様に提供している価値が主に3つあります。信頼できるマッチング、自社の良い点を再認識することによるエンゲージメントの向上、視野の広がり、です。
社内で話したところ、約8割の方が前向きなアクションを起こしているという結果も出ており、嬉しい声もいただいています。
キャリア面では辞退するか迷っていた昇格試験を受け合格した、出張やフルタイム勤務にチャレンジしたという声、ライフ面ではリスキリングとして資格試験の勉強を始めた、病児保育に申し込んだといった声です。」

キャリア形成も、子育ても変化を前向きに捉えてポジティブに生きる
キャリア形成に前向きになることで、子育てにも積極的になれる、それは子どもにとっても間違いなく幸せなことに違いない。堀元さんは今後の展望を語ってくれた。
「PeerCrossは、当事者同士のネットワークを通じて女性活躍のインフラとして、日本の女性活躍推進を実現していきます。
まずはワーキングマザーから、そして子どもたちも変化を前向きに楽しみ、社会で活躍することができる未来にしたいと考えています。」
