「クリエイター」から「クリエイター・クリエイター」へ。

STEAM教育が、社会のデザインを変える

掲載日: 2021.9.1

「すごい」は一度だけ、「楽しい」は何度でもをスローガンに

私たちがものを作るときに大切にしているスローガンは、“「すごい」は一度だけ、「楽しい」は何度でも”ということ。新しいものをやろうするとどうしても「すごい!」と言われるものを作りがちですが、私たちは楽しいと思ってもらえるものを作りたい。なぜかというと、「すごい」と言われるものは、同じものを2回目に見ると「これ知ってる、この前見た」と言われてしまう。でも「楽しいなー!」と思ってもらえると、次に見ても「これおもしろいんだよね、もう1回やろう!」となるし、「友だちを連れてこよう」と思ってもらえる。主語も違います。すごいのは「作った人」で、おもしろいのは「やった人」。だから私たちは、やる人に楽しんでもらえるものをいかに作るか、を考えてやっています。

楽器が弾けないコンプレックスから、楽器演奏ができるアプリを開発

私は大学では最初、建築を学んでいましたが、ちょっと違うと思い、福岡県にある九州芸術工科大学院の芸術工学科に専攻を変えて進学しました。芸術と工学を一緒にした「芸術工学」という学科は日本にしかありません。そこでメディアアートに取り組み始め、しくみデザインという会社を作りました。
私は楽器が弾けません。小さい頃からそれがコンプレックスでした。でもみんなの前で演奏するのがすごく気持よさそうなので、やりたいなと思っていたんです。だけど練習はしたくない(笑)。「ボクは練習がしたいんじゃなくて演奏がしたいんだ!」と思ったとき、「じゃあボクでも弾ける楽器を作ればいいんじゃない?」と思ったんです。それで2002年に作ったのが、「神楽(KaGuRa)」というアプリケーションです。

クリエイターを増やすクリエイターになる

一番最初に作ったアプリ、「KaGuRa」は時代が早すぎたのか、売れなかったのですが、その後どうなったかをお話しします。まずは、演奏を見ていただきます。

これは後に開発しなおして名前をKAGURAと改めたものです。パソコンの画面にアプリを立ち上げると、カメラで私が映ります。それで私が体を動かすだけで、楽器を演奏できます。これは、みんなの前で演奏する体験をしたいというその一心で、自分のために作ったアプリですが、今や誰もが楽しんで演奏できるものになりました。
(https://www.kagura.cc/)
KAGURAを世に出してから約10年後の2013年にIntelのPerceptual Computing Challenge というカメラを使ったソフトウエアの世界コンテストがあり、なんとグランプリを受賞。このおかげで、ようやく日本の一部のところで知られるようになり、その後、スペインで行われたSonar+Dという音楽コンペStartup Competition Awards 2016でもグランプリを受賞。さらにその翌年、中国から演奏してくれと招待されて、Future Maker(未来を創る人)として何百人もの前で、KAGURAで何曲か演奏しました。めっちゃ気持ちいいですね、楽器を弾くって。
この経験を通して私が思ったのは、夢を叶えるための道は1つではないということでした。楽器をみんなの前で演奏する体験をするために、コツコツ練習して、大会に出たり、友だちとバンドを組んで活動したりするのもいい。でも、自分しかできないルートを作って夢を叶える道もあると思ったんです。

創っている人が一番楽しい!

15年以上クリエイターとして活動してきて気づいたことは、「結局、創っている人が一番楽しい」ということです。だからみんなにも創る人=クリエイターになってほしいと思うようになりました。ところが、誰でも“自分の作りたい作品を作れるツール”が世の中になかったんです。ないなら、クリエイターが作るしかない。エンジニアが作るのではなくて、アートや建築、数学とか全部やっていた人が作りだせるもの。それが今日のテーマにつながる、「クリエイターから、クリエイター・クリエイターへ」。ものを創るクリエイターから、クリエイターを創るクリエイターになろうと思ったわけです。

STEAM時代のアプリSpringin’

そうして作ったのがプログラミングアプリSpringin’(スプリンギンhttps://www.springin.org/)です。絵を描くツールで絵を描いて、アイコンを組み合わせるなどのシンプルな操作でプログラミングができるアプリです。ゲーム専用ではありませんが、スマホゲームやカジュアルゲームと言われるものなら簡単に作れます。
さらに、作った作品をほかの人にも遊んでもらえるように、マーケットに売りに出せるようになっているのも大きな特徴です。現在、マーケットに共有された作品が累計で10万作以上ありますが、すごい作品が数多くあります。まさに「創る喜びを学べるアプリ」なので、STEAMそのままです。
Springin’はiPhoneやiPadがあれば無料で使えるので、ぜひ遊んでみてください。現在Android 版も開発中で、ベータ版ではまでは完成しています(2021年秋リリース予定)。
簡単に始められる入門書『はじめてのスプリンギン(技術評論社)』という本も書きましたので、ぜひ手に取ってみてください。私の4歳の娘も、普通に作っていたので、楽しんでいただけると思います。遊んでもらうだけで、「今世の中ってこんな風に作ることのハードル下がっているんだ!」「発信することもこんなに簡単にできるんだな」ということを体験してもらえると思います。

    
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