デジタルで遊ばれるのではなく、デジタルで遊ぼう

STEAM教育が、社会のデザインを変える

掲載日: 2021.10.1

デジタルゲームに没頭する光景が異様に見えて

デジタルと身体性を融合し、理想のSTEAM教育を形にしたい。フライングディスクでの運動、 3Dモデリング、3Dプリンターを利用したものづくりを組み合わせたプログラムが第13回キッズデザイン賞の最優秀賞(内閣総理大臣賞)に選ばれました。作品名は「フライングディスク運動型STEAM教育プログラム」。開発者である Terada3DWorks 代表の寺田天志さんは、徳島県神山町を 拠点に活動する3DCGクリエイターで、フリースタイルディスクのプレイヤーでもあります。寺田天志さんにお話を聞きました。
「きっかけは、自分が公園にいるときに、20人ぐらいの子どもたちが話もせずゲームに没頭していて、それがとても奇妙な光景に見えたことでした。デジタルに遊ばれている、現実世界での身体を含むコミュニケーションが見られず、 ゲームのルールの中でしか遊んでいない。自分が3Dモデラーというゲームと同じ仮想世界を扱う職業をしている経験から、何かできることはないかと考えました」。

モデリングと投げてみる、を行ったり来たりすることの意味

思いついたのが、フライングディスク運動型 STEAM教育プログラムだったそうです。コンセプトは「文武両道から、横断的な文武融合」。 現在のSTEAM教育はデジタル的な教育が主であり、より武の部分を導入したいと考えました。文と武の二つの要素を横断、往復しながら学習し、試行錯誤を繰り返しながら完成させていくプログラムに仕上げていったといいます。
「最初はフライングディスクで遊び、形によって飛び方が違うことを感じてもらう、身体的体験。その後、フライングディスクの断面図を見せ、CADソフトで断面図をなぞって、リバースエンジニアリング的な要素を含めて、モデリングの授業をします。次に生徒がモデリングしたフライングディスクを3Dプリンターでアウトプットし、最後はどう飛ぶかを実際に投げて、遊びます。投げ方や形状を変えるなど、自分で開発できる点が特徴です。さらにモデリングの際は PCの使用を2~3人一組 とし、常に仲間とのコミュニケー ションを意識して、最初に学んだ 子が次の子を教えるという形を取っています」。
最初に運動することで脳が活性化され、その状態でモデリングの授業をするため、レスポンスが 非常によいという効果も見られたそうです。フライングディスクは簡単にモデリングができるが、実際に飛ばすと想定と違う飛び方をすることも多いとのこと。これがなぜだろう、 という問いを生むのです。

3Dモデリングはデジタル時代の「泥遊び」

「このプログラムによって伝えたいことは、デジタルで遊ばれている時代からデジタルで遊ぶ時代へ、という考え方です。3Dモデリングはデジタル世界の泥遊びみたいなもので、何度でもやり直しがききます。デジタルを自分で活用することで、遊びの道具などを 自分で作り出せるという成功体 験を得てもらいたいなと思っています」。
寺田さんは、すでにあるルールや 規則の中で競うだけでなく、「モノ」 を作り出すということはルールも作り出すことができるということを伝えたい、と語ってくださいました。
STEAM教育において「Arts」の要素の取り込み方は重要ですが、 このプログラムではきれいに飛ばなくても美しいフォルムを持つもの、機能重視でシンプルを極めたものなど多様性を 受容できる仕組みをもたせやすいことがとても魅力です。
デジタルで遊ばされている時代からデジタルで遊ぶ時代へ、というメッセージが示す通り、課題意識からモデリング、身体と対話の引き出し方まで、精緻にデザインされた秀逸なプログラムと高く評価された作品です。

「フライングディスク×3Dモデリング×3Dプリンター」特別授業

    
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