コミュニティが減っている時代、新たなつながりを ~IZY Kindergarten and Nursery

掲載日: 2021.11.24

設計にあたって考えた4つの課題点

子どもたちの創造性と未来を拓くデザインのクリエイティブ部門で優秀賞を受賞した「IZY Kindergarten and Nursery」は伝統あるお寺の境内に建つ保育園です。愛知県の知多郡にある小さな町にあります。もともと同じ場所に既存の施設が建っていたそうですが、改築に当たって、「減りつつある、世代を超えた相手とのコミュニケーションを増やしたい」というテーマを掲げたそうです。

設計を担当した、株式会社日比野設計+幼児の城の代表取締役会長、日比野拓さんはこう語ります。
「テーマを考えるにあたって、その裏付けとして4つの課題を見据えていました。『少子化で兄妹姉妹の減少による異年齢コミュニケーションの減少』『核家族化による限られたコミュニケーションの減少』『オンライン化、ネット社会化による実際の会話減少』『過剰なセキュリティによる子どもたちと地域の関係遮断』です」。

柵を取り払うことで心の垣根も取り払う

以前のお寺の境内と保育園は低い柵で仕切られていました。大人がまたいで乗り越えようと思えばできるようなものでしたが、それでもそこには子どもたちにとって大きな境界があるという状況でした。日比野さんは言います。
「例えば、お寺に訪れる檀家さんや参拝客は、やはり保育園には近づけなかったと思います。施主さんとじっくり話をして、まず柵を取り払おうということになりました。奥に見える建物が約200年の歴史を持つ有形登録文化財のお寺の本堂です。寺と並ぶ保育園なので境内の雰囲気を壊さないよう、外観上のデザインにも気を配りました。派手な色を使ったり、キャラクターをかけたり、ではなく、子どもたちにも景観や街並みを感じてもらいたいと思って、お寺に馴染むデザインを大切にしました。目を引くのが、大きな縁側のような空間です。縁側を境内の参道方向に向けることで、子どもたちがそこに腰かけている光景を見ると、訪れた大人たちが近寄って話しかけやすくなるような環境をつくっています。訪れた方々と子どもたちとの接点がかなり近くなったようです」。

内部も触れ合い、つながる多様な工夫を

縁側の奥の空間は、子どもたちが食事をする場所で、遊戯室の機能も併せ持っています。「この空間も両側に対して大きく開放されていて、風が抜けるなどのメリットもありますが、一番はお互いの気配を感じられること、お互いの距離が近づくことでした。内部空間でもコミュニティというテーマを意識しており、所々に高低差を設け、壁で仕切るのでなく、ガラスで仕切ったりしています。子どもたち同士が声をかけたり、声が伝わらない時はボディランゲージで伝えたりといった、コミュニケーションを誘発する仕掛けをつくっています」。

さらに園がある、この地域のことも伝えたいという思いがあったそうです。
「この地区は横松大工という、伝統的な大工の技があり、その装飾を園内の遊具に取り込みました。非常に丁寧な手仕事で、こうしたものに子どもたちが遊具として触れることで、すぐにはわからなくても、いつか何かを感じてくれかもしれないと思って、デザインしました」。

現場の先生がたからは、「他者との交わり」「地域文化に触れる」「会話が増える」といった成果が報告されているといいます。なかでも、子どもたちの好奇心が育まれた、挑戦する機会が増えた、といったポジティブな反応が嬉しい成果だそうです。日比野さんは最後にこう語りました。
「このプロジェクトが地域の子どもたち、そこに触れ合う大人たちにコミュニケーションを生みだし、地域がより豊かになっていくことを願っています」。

第15回キッズデザイン賞受賞記念シンポジウム

    
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