町へ出よう、そこが育ちの場所になる ~まちのてらこや保育園 「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」
掲載日: 2021.11.29
都心に保育園はつくれない?
老舗が集まる東京の日本橋に、町の人々と関わり合いながら子どもが育っている小さな保育園があります。名前は、「まちのてらこや保育園」。消費者担当大臣賞を受賞しました。理事長の高原友美さんにお聞きしました。
「私たちの保育園は、『まちのみんなが先生で、まち全体が保育園』というキャッチコピーのもと、日々の保育を行なっています。場所は東京都中央区の日本橋で、都心にありがちなビルの一角を使った保育園です。園庭はありません。1歳から5歳まで1学年6名、合計30人というかなり小さい認可保育園です。都心では保育園を作るための土地を確保することが非常に難しく、子ども一人当たりの保育面積がギリギリの保育園もたくさんあります。私たちと同じように園庭がない保育園も多く存在しています。また、近くに保育園をつくってほしくないという住民運動のニュースもお耳にされたことがあるかもしれません。そういった都心ならではのデメリットを何とか前向きな保育の場として変えていけないだろうか、と考えたのがこの保育園を作るきっかけになりました。」
板前さん、花屋さん、みんなが先生
地域の方々が保育園を敬遠する要因のひとつが、地域の方々と子どもたちの距離が遠くなっていることだと考えたそうです。そこで“地域の方々は子どもたちにとっていろいろなことを学ぶ先生”という位置づけをしました。
「日本橋という地の利を活かし、たくさんの町の方にお願いをして、子どもたちと関わっていただく機会を作りました。地域の相撲部屋の力士さんや盆踊り同好会の方々に来ていただいたり、料亭のご主人が魚を持ってきてくれて、子どもの目の前でさばいてくださるというような体験もしました。水族館で見るような大きい魚がどんどん小さく切り身になって、最後はホットプレートで焼いて味見しました。花屋さんもよく園に来てくださって、花と自由に触れ合う機会を作っていただきました。まずは自由に触って、乱暴に扱えば枯れてしまったり、花びらが落ちたりすることも子どもたちにとっての良い学びの体験となりました」。
地保育園の周りには江戸時代から続く老舗企業も多くあります。そうした店を訪ねて、「いつも見守ってくれてありがとう」という気持ちを込めてお礼のカードを配ったりもしたそうです。
園庭がなくても、身近な自然を楽しみ、愛する
「園庭がない保育園ですが、小さな空間だけで保育するのではなく、地域全部を保育園と位置づけて、自然の残っている場所なども保育園の一部として使わせていただいています。道にある区の花壇をお借りして子どもたちが花を育てています。公園の噴水も子どもたちの水遊びエリアです。子どもたちの発案で、満開の桜の下でお絵かきをするなど、公園を園舎の一部として使っています」。
老舗が並ぶ街ならではの園舎づくり
建築物としては、町のシンボルとなる保育園を意図しています。町と保育園を隔てる、建物の壁のような印象から、より身近に感じてもらえるよう町になじむようなデザインを考えました。入り口は江戸時代にあったような漆喰のなまこ壁や洗い出しの床が目を引きます。近所のちょうちん屋さんで作ってもらった提灯が入り口の灯りになっています。
「保護者と保育者だけで子どもたちを育むという従来の子育ての形に、地域の方々が加わり町全体で子どもたちを育む意識が醸成されつつあると感じています。子どもたちの日々の活動を通じて、保護者の方も地域に愛着を持つきっかけになっているようです。町のいろいろな方に関わることで多くの経験、触れ合いができて、たくさんの学びがあると思います。」
第15回キッズデザイン賞受賞記念シンポジウム