iF×キッズデザイン ~いま、デザインが社会に問うこと:子どもという視点

掲載日: 2022.4.28

第16回キッズデザイン賞は、世界的に権威あるデザインアワードであるiF DESIGN AWARD2023と連携した。キッズデザインの考え方を世界へ発信する意味、SNSで「いいね!」が交錯する時代、アワードという仕組みの役割はどこに向かうのか。双方に語り合ってもらった。

髙田昭代 氏(iF日本オフィス代表)×高橋義則 氏(キッズデザイン協議会理事)

(髙田)iFは1953年から団体がスタートしていますので、70年の歴史があります。かつては工業製品の産業振興から始まりましたが、現在ではデザインの領域の垣根が低くなっているので9分野にまで広がってきました。世界的な新型コロナウイルスの影響がどう出るか心配もありましたが、今年はエントリーが増えていて、世界60か国から11,000点近い応募がありました。近年はアジア、特に中国からの応募が非常に多く4,000~5,000点、そのほか台湾から1,000点、韓国から1,000点、これだけで全体の6割程度を占めています。日本からは500点の応募があり、昨年の400点からは増えていますが、全体ではまだまだ少ないと私は感じています。一方、欧州圏は減ってきており、ブラジル、東欧、北欧圏が伸びています。日本ではiFを知っている方が多いわけではないので、待っているのではなく積極的に日本の優れたデザインを掘り起こし、日本のデザインをもっと世界へ発信したいと思っています。

(高橋)キッズデザイン賞は今回で16回を迎えており、「子どもたちの安全・安心」「子どもたちの感性・創造性育成」「産み育ての支援」の3つのデザインミッションを持っています。分野は幅広く、建築・空間からプロダクト、近年増加しているアプリケーション・サービス、活動や仕組みなどのコミュニケーション、ユニークなところではキッズデザイン製品開発につながる調査・研究などを対象にしています。この2年は新型コロナウイルス対策で子どもが健全な成長をサポートする「Beyond Covid-19特別賞」も設けています。

(髙田)iFも、当初は家電など輸出のプロダクツ中心で100~200点ほどのエントリーでした。もちろんこれらも優れたデザインでしたが、ドイツから与えられたミッションはそうではありませんでした。日本オフィスができた2013年当時は、日本のデザインに陰りが見えてきた頃で、本当は日本にはもっといっぱい良いものがあるから探してこい、というものでした。そこで、地方の中小企業やスタートアップ企業の技術、素材をもっているものを探してエントリーをお願いしてきました。普通に待っていたら出てこないもので、良いものがまだたくさんあります。特に「日本人らしいもの」、日本的な考え方がデザインに体現されているもの、ものの見方や日本人の感性が込められているものがもっと増えて欲しいと思いました。例えば、照明やキッチンツールなどの分野にアプローチして、エントリーしていただいたら、結果、受賞につながったものも多かったのです。日本のデザインの力を世界に見せることができたらと思います。

(高橋)デザインに多くの枕詞が冠される今の時代、キッズデザインは子どものためのデザインであるだけではなく、子ども目線で製品や仕組み、広くは社会そのものを見直していこうとしています。その点ではだれにも優しいユニバーサルデザインにもつながりますし、2030年を目標年とするSDGsでも、子どもという時間軸を持つ未来志向のデザインとして、その根幹は共通するものがあると考えています。

(髙田)キッズデザインのテーマである「子どもの視点」は日本独自のものだと思います。でも受賞作品の多くは黙っていたらiFには出てこないでしょうし、国際アワードのハードルは高いと思われているかもしれません。こちらが望むものが待っているだけで自動的に応募されるわけではないので、各国ともパートナーシップ連携を昨年から始めました。まず台湾、韓国で連携を始め、テスト的に実施したところ、うまくはまりました。日本でも空間デザイン賞と去年連携しました。iFでは、空間・建築は後からできた分野で、まだ審査対象数が少なかったので、特に期待が高かった分野でした。

(高橋)子どもの学び、発育を支えるとこの国のものづくり力もあがると思いますし、予防安全の考え方は結果として、この国の社会保障費を下げることにもつながります。さまざまな企業、分野が関係するのがキッズデザインです。高田さんがご指摘されたように、日本的なデザインの考え方だと思います。日本のものづくりはテーマが与えられれば、とてもクオリティの高いものがつくれると思いますが、未来を見て何をつくるかを考える、バックキャストの面が弱いと思います。そこに子どもという視点を据えると未来志向のデザインができる。世界的にも新しいデザインの考え方である、キッズデザインが世界から見てどう映るのか、とても関心があります。

(髙田)iFにはユニバーサルデザインというカテゴリはあっても、子ども目線でデザインを考えるという発想はありません。それが逆に斬新でした。市場は間違いなくあると思いますし、iF自身がそういう枠で考えていなかった。環境や空間を子ども目線でくくるという新しい考え方は、日本らしいデザインです。例えば欧州では子どもはひとりで寝かせるのが当たり前です。デザインはその国の文化や政策の違いが色濃く表れます。そういったことを吸収できることもメリットのひとつと考えています。将来的に、iFのなかにキッズデザインというカテゴリができるかもしれません。日本のキッズデザインを積極的に掘り起こして、ウェブや展示で発信したいと思っています。また、iFは中国成都に大きな展示場を持っています。例えば中国では「日本の安全・安心」はものづくりの鑑になっているので、こうした場で発信することで新たなマーケットができるのではないでしょうか。

iF design center Chengdu

(高橋)キッズデザインでは課題の設定や設計・開発に至るプロセス、どのようにそれを解決しているか、を重視していますが、iFの評価はどのような点に特徴がありますか。

(髙田)iFの審査はフォルムの美しさがあることが基本です。思いやプロセスが良くても、それが意匠や美しさに表現されていないと受賞できません。審査委員は世界20か国から100人近くが参加します。デザイナー(デザインする人)以外は審査員になれないのですが、彼らは自分で素材を選び、ものをつくっている人だからこそ、わかることがあるのでしょう。エントリーの制限は市場投下後2年間以内ですが、何でもかんでもイノベーティブで新しいモノが良いということではありません。時計のようにあまり大きくデザインが変わらないものもありますが、見る側がプロなので、どこに工夫をしているかわかるようです。1点あたりの実際の審査はわずか数分ですが、傍目には一緒だと思えても、ここにこの素材を使うのはすごい、この形に加工するのは難しい、といったことがわかる人たちが審査をしています。情報量がたくさんなくても判断できる。これは審査が現物主義である点が大きいですね。

(高橋)これまでのキッズデザイン賞の15回の受賞作品を見ていると、デザインのレベルはかなり上がってきたと感じます。例えばこども園、保育園、幼稚園といったカテゴリは例年、多数応募があるのですが、空間づくりにさまざまな工夫が凝らされている。

第15回キッズデザイン賞 経済産業大臣賞 「IZY Kindergarten and Nursery」

子どもの学びや遊びを喚起するだけでなく、保育士の働きやすさや保護者への配慮、あるいは地域性を活かした素材や意匠の工夫など、世界的に見ても極めて高いレベルにあると思います。こうした分野は今後、世界へ向けて発信力があるのではないでしょうか。

(髙田)空間デザイン賞との連携で建築・空間の日本からのエントリーが50点ほどありました。iFの中では応募10,000点のうち1,000点くらいが建築・空間ですが、これらの50点から最優秀賞である「iFゴールドアワード」を2点受賞しました。これはすばらしい成果です。さらに、これによってiFの建築・空間のデザインのクオリティがあがったことも大きな変化でした。今はキッズデザインというカテゴリがないので、iF全体のレベルがあがるかもしれません。その先鞭を切ってきた日本のデザインはすごいよね、ということになるかもしれません。日本のデザインパワーはまだ世界的に評価されていないと思っているので、そこを上げていくことになるとよいと思っています。

iF design award night 2019

(高橋)SNSで消費者自身が自分の好きなもの、欲しいものを探して「いいね!」を押す時代にあって、アワードの持つ役割も変化しているように思います。情報が氾濫するなかで専門家やデザイナー・クリエイターの目利きは消費者にとってありがたいものである一方、アワードが目指したい未来をいかに具体的に示せるか、そこに賛同いただけるか、が問われているのと感じます。

(髙田) iFマークがついているからといって品質を保証しているわけではないし、必ず売れるわけでもありません。アワードへ出すメリットとは何なのか、もさまざまな意味があると思います。これまでアワードとは縁がなく、まったく応募したことのなかった人が受賞すると、第三者から評価されたことにとても喜んでいただけて、受賞がメディアにでたり、販売に繋がることに驚く人も多いです。記憶に残っているのが地方の中小企業で、iF受賞を知って若い新入社員が入社した、またそれを長く勤めている職人の皆さんがとても喜んだ、という声を聴いたことです。この作品はiFデザインアワード2017のゴールドアワードを受賞しました。

組子欄間 / 株式会社タニハタ

アワードの役割は自分たちの技術や会社に自信をもてることかもしれません。デザイナーがコンペのプレゼンテーション資料を書くのは大変でしょう。良いものをつくっていても、書き方がうまくない、という人は多いようですが、アワードに出すことでそれが整理されます。iFは、英語でプレゼンテーションする分、「こういうデザインです」「ここがいいんです」というところを的確に伝えるために、しっかりと整理する必要があります。そういう役割もアワードにはあると思います。

    
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