町と共に、町に見守られて、子どもを産み育てるキッズデザイン・コミュニティ

掲載日: 2022.12.14

町と共に、町に見守られて、子どもを産み育てるキッズデザイン・コミュニティ

“こまち”というネームに込められた思い

小さな別荘のような家が並び、子どもと家族の声が行き交う「まち」が茨城県つくば市にあります。「なないろこまち」はニックネームで、正式名称は「なないろレディースクリニック」。産婦人科を核とした、まちづくりとコミュニティ形成を目指しているそうです。第16回キッズデザイン賞の最優秀賞(内閣総理大臣賞)を受賞した作品がここです。設計を手掛けた株式会社黒田潤三アトリエ代表取締役、黒田潤三さんにお聞きしました。
「『こまち』には、子どもの町、子を持つ人の町、小町のような美しい女性の町といったいろいろな意味を込めています。つくば市は東京から1時間弱で来られる場所で、総人口は24万人、そのうち約2万人が研究者と言われています。なないろレディースクリニックは15年前に計画が開始され、東京で勤務医だった医師が開業するということでつくば市で求心力を持っていけるような、多様な人たちが多様な形でお産ができるような医院を目指してつくられました」。

町と共に、町に見守られて、子どもを産み育てるキッズデザイン・コミュニティ

小さな街並みをイメージさせる「なないろこまち」の全景

時代背景としては 県南で20年ぶりに4カ所目でできるということで 歓迎いただきました。つくばエクスプレスが開業し、2007年に開院し、2009年に別館の増築を行いました。2011年に東日本大震災があり、つくば市も被災しましたが、その後も多くの患者さんに来ていただきました。2014年頃から、次のクリニックはどちらの方向に向かうかの話し合いを始めました。患者さんからもアンケートをとりましたが、出産と子育てに関していろいろな悩みと要望があることがわかりました。産婦人科と地域が連動できないか、クリニックの枠を超えたことができないか、を考え始めました。
かつて子育て環境は地域、近隣、親族、家族、みんなで子どもを見ていました。都会の孤立した子育て環境が増え、それが児童虐待など様々な問題を引き起こしていることに疑問を抱いたことが新しい子育てコミュニティをつくるきっかけの一つだそうです。
「なないろこまちが目指す子育て環境は、近隣の人となないろが関わりを持つことで、近隣どうしが互いに助け合ったり 、子どもを見守ったりすることはできる場所です。4つの構想と4つのデザイン戦略があります。
まず、小さな町を作る。
子どもを中心に人が生き生きと地域とつながる小さな町、それぞれのライフスタイルで心地よいつながりを選択できる町、人が集まり会話が生まれる機会、仕組み、場をデザインし、安心して笑顔になれる町を作りたいと思いました。通常の産婦人科の医院と個人の関わりは、妊娠、出産をして1ヶ月検診をするまでの1年ちょっとです。このクリニックは 赤ちゃんが欲しいと考えた時から出産、産後ケア、小児科、育児などのロングスパンの関わりを持てる場所になるといいと考えました。さらにパンデミックにも対応できる町であることも大事です。出産はリアルなことですから、バーチャルやオンラインではできません。やはり人と人が緩やかに繋がりつつも話をすることはより重要になると思います。そのきっかけの一つになればと思います」。

様々な機能を持つ棟が、様々な人を迎えてくれる

デザイン戦略としては、まず全体を貫く道を作ることから始まりました。道には各機能を持つ建物を配しました。産婦人科の入院棟、外来棟、コミュニティ、産後ケア、小児科などがまるひとつの町のように並ぶ全体計画です。立地は田園と都市の結節点にあり、療養ゾーンは田園に向き、医療コミュニティゾーンは都市側に向いています。

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入院する人、通ったり集う人、それぞれの機能に合わせてゾーニングされている

「外来棟は妊婦さんが毎月通う場所ですが、300冊以上の絵本を置いてブックカフェのような待合室になっています。お母さんが連れてきたお兄ちゃんに読み聞かせをする光景も見られます。入院棟は 街の路地のような療養施設の廊下を設け、街の明かりのような小窓があってナースステーションや新生児室とつながっています。
カフェのようなラウンジでは食べたり話したりすることができます。療養室は別荘のようなスペースになっていて、産後に赤ちゃんと安心して過ごす場所を目指しました。赤ちゃんが母体から出て初めて見る光、過ごす空間ですから、自然素材を使って丁寧に作りました。全室にシャワー、ソファーベッドを完備して、集落のような療養室がつながり、前面には田園が広がります。
コミュニティ棟はカフェ、ホール、広場、託児室があります。町の光が誰かがいるという気配を醸し出し、安心感を与えてくれます。託児室の前には広場とベンチがあり、屋根もかかっているので天気を気にせず気軽におしゃべりできるような空間にしています」。

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待合室には多くの本が並び、心地よいカフェのようだ

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光が注ぐ、町の路地のような療養室の廊下で寛ぐ

そして、こまちはさらに進化を続ける

ホールではマタニティビクス、バランスコア、親子ビクスなどを開催しており多くの人が集う場となっています。今後は父親クラスや教師や小学生と一緒にできる企画も考えているそうです。実はなないろクリニックの院長である黒田勇二さんは設計の潤三さんのお兄さんだそうです。まさに家族の夢をかなえた空間だったのです。

子ども・親が隣人、地域とも集う場所として開かれたクリニック

「すべての子どもは社会の宝であり、未来そのものという、僕も好きなキッズデザインのフレーズ通り、ここでは子どもが友達になり、大人に見守られ、互いに話し合う場所になっています。毎日多くの笑顔が溢れ、明日に対しての希望がクリニック中に広がっていくことを願っています」。

    
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