「子どもたちの未来のために私たち(企業、大人)ができること」経営者による意見交換会セミナーレポート:黒田氏

掲載日: 2023.1.20

経済産業省、産業技術総合研究所 人間拡張研究センター、キッズデザイン協議会は
次世代を担う子どもたちを育む環境を創出するため、2007年より「経営者による意見交換会」を
継続して開催しています。今年度も12/14にオンラインで実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容をレポートとし公開いたします。

事例紹介 第16回キッズデザイン賞 内閣総理大臣賞受賞「なないろこまち」

株式会社黒田潤三アトリエ
代表取締役社長
黒田潤三氏

■お産所を中心としたコミュニティ実現



人口約24万人の茨城県つくば市に、同市では20年ぶり4ヶ所目となる待望のお産所「なないろレディースクリニック」が2007年に開院しました。多くの外国人が居住し、お産のスタイルも多様だという地域で、求心力を持つクリニックにしたいという医院長の希望が一つの形となりました。
そして次のステップとして、人とのつながりやコミュニティの大切さについて考えるようになったと黒田氏は振り返ります。

「患者の多様性から、広く地域の多様性を目指したいと考えました。求心力を持つクリニックから、遠心力を持つクリニックへ。コミュニティのハブを目指しました」

単体のクリニックではなく、カフェや小児科、託児所などを併設し、お産後も安心して子育てができる、緩やかに人やまちとつながることができる仕組み、プラットフォームとなる「なないろこまち」が誕生しました。

「こまち」とは、子どものまち・子を待つ人のまち・小町のように美しい女性のためのまち・小さいまち・コミュニティのまち――です。

■4つの構想と4つのデザイン戦略


「なないろこまち」プロジェクトでは具体的に4つの構想と4つのデザイン戦略を掲げます。
◇構想1 小さなまちをつくる
子どもを中心に人と地域がつながる小さなまちを形成し、心地よいつながりを選択することができる場。
◇構想2 ロングスパンの関わりのデザイン
望児から出産、産後ケア、小児科、託児など持続可能な機能を完備。
◇構想3 パンデミックにも対応できるまち
各機能が連結しているが程よく離れ余白があるまち。将来的に、新たな機能、必要な空間が出来てもフレキシビリティの対応でき、密にならないまち。
◇構想4 コミュニティの重要性
明日を作るために重要な子どもが核になったまち。コミュニティのハブとしてのクリニック。

◆デザイン戦略1 みちをつくる
◆デザイン戦略2 まちをつくる
◆デザイン戦略3 医療空間の機能を損なわない
◆デザイン戦略4 都市と田園の結節地点



産婦人科を中心に産後院、小児科、託児所、カフェ、コミュニティホール、皮膚科、広場が備わっています。各機能を「まち」と見立て、「みち」でつなぐ。さまざまな交流が生まれ、会話が発生する「場所」という位置付けです。
医療ゾーンはコンパクトに機能性を重視、療養やコミュニティゾーンはランドスケープと一体化。医療は街に、療養は田園につなぎ、産後を安心して過ごせるデザインとなっています。

「病室をどのように配置したら、建物が環境と溶け合いながら人にもフィットするデザインになるか、医療の機能を損なわないか、そのために『みち』のデザインを熟考しました。『みち』は建築をつなぐものであると同時に、人をつなぐ役割もあります」



■赤ちゃんが最初に過ごす場所


レディースクリニックの待合室には300冊以上の本や絵本を揃え、まるでブックカフェのようです。


療養室の廊下(みち)は、妊婦に優しい照明を考え、街の灯りのような小窓や間接照明で安心感を提供。途中にはベンチも配置しました。

療養室(病室)は家のように独立。「赤ちゃんが外の世界で初めて見る光、初めて過ごす場所をデリケートにつくりたい」という思いでデザインした室内は、勾配天井にし、通常の産婦人科の約2倍の広さ、全室にシャワーやソファベットを完備し、家族が一緒に泊まることもできます。

外来棟の隣には、託児所とカフェ、ホールがあります。コミュニティホールでは、マタニティピラティス、親子ピラティス等、さまざまな企画を展開しており、ママ同士が知り合い、つながっていく最初のきっかけにもなっているといいます。

「ゆるくつながれる場所、何かを生み出す機会になってくれることを期待しています。妊婦さんやママにとってのサードプレイスであってほしいと考えています」

    
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