経済産業省、産業技術総合研究所 人間拡張研究センター、キッズデザイン協議会は
次世代を担う子どもたちを育む環境を創出するため、2007年より「経営者による意見交換会」を
継続して開催しています。今年度も12/14にオンラインで実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容をレポートとし公開いたします。

黒田潤三氏
徳本達郎氏
三神彩子氏
高橋義則氏（モデレーター）
〈高橋〉　取り組みの中でSDGsの理念「誰一人取り残さない」を実践しているようですが、どのような考えで取り組んでいますか。

〈黒田〉　従来の産婦人科は、お産の前後の一定期間しか関わりがありません。しかし、産後は長く、産婦人科が例えば公民館のようなコミュニティを形成できたらいい、と考えるようになりました。地域の皆さんが喜ぶものを提供するために建築設計者としてどうデザインしたらいいかを考えました。

〈徳本〉　当社では、人工呼吸器を装着している子どものような医療的ケア児、最もあそびから遠い重度障害児も対応する遊具をデザインする「RESILIENCE PLAYGROUND」を展開しています。
教育の観点から「誰一人取り残さない」ことは重要ですが、通常の学校に入れないハンディキャップがある子どもは多くいます。そういう子どもが一緒に遊べる環境、学べる環境は必要です。そこで発生する問題こそ子どもたちの新しい学びになりますし、多様な子どもの触れ合いが将来的にプラスを生むはずです。身体的にも、精神的にも多様な子どもたちの居場所は今後、ますます大切です。「あそび」には共感性が必要だと言いました。さまざまな人を巻き込みながら社会を構成するには、幼児期のあそびが重要です。よく遊べる子どものコミュニケーション力が高いことは明確になっています。

〈三神〉　未来の子どもたちも今と同じように便利で豊かな暮らしをしてもらいたい、それが可能な地球を残してあげたいと思っています。自分の家を住みやすくするのと同じように、地球を住みやすくしようという意識は大切です。そうした視点が「誰一人取り残さない」につながっていくと思います。
今を生きる自分たちだけでなく、子どもたち、さらには次の世代――と、ロングスパンで考えていくことが非常に重要です。行動変容を促すのは一朝一夕ではできません。継続や積み重ねが大切です。

〈高橋〉　子ども・子育てを取り巻く環境で、「圧倒的に不足している」または「変えなければならない」と感じること、今回の取り組みでそれをどう打破していこうと開発に繋げたのでしょうか。

〈黒田〉　子育てが「孤育て」「個育て」になっています。例えば、原っぱへ行けば誰かがいて遊べる、情報交換ができるという「場所」が昔はありました。ネット社会の今、ネット空間でも交流できますが、産婦人科がリアルなつながりを持てるきっかけになればいいなと思っています。
家や学校、職場とは離れた「サードプレイス」で得られる安心感を提供しました。「みち」に屋根を設けベンチを設置したのは、そうした「場所」にしてほしいという願いがあります。

〈徳本〉　マスクで口元の表情が遮断され、子どもたちのコミュニケーションや原体験、良い記憶が完全に失われています。こうした環境で純粋培養された子どもたちが社会へ出て初めて挫折を体験した時、立ち直れない子が大勢出てくるでしょう。それを防ぐには、子ども時代に良い体験を作ってあげることが大事だと思っています。
壊れない、安全、便利といったデザインだけでは次の100年は作っていけません。記憶をストーリーにしていくデザインができるかどうかという時代に入っているのではないでしょうか。

〈三神〉　省エネ教育では、ナッジ理論等の行動科学の知見を盛り込み、一方的に考えを伝えるのではなく、気付き、選択するきっかけを作ることに注力しています。今回取り入れている行動変容ステージモデルは、人の行動は無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期という段階を経て変わるとされています。しかし、ステージに合った情報を提供しないと行動は変わらないことも分かっています。そこで、省エネ教育を展開する上で、それぞれのステージに応じた発信の仕方や内容を検討し、新しい知見を取り込みながら進めていきたいます。

〈高橋〉　子ども・子育ての課題はすべての業種・業態に関わると思っています。キッズデザインに取り組む意義、目標をどこに置いているのでしょうか。

〈黒田〉　建築は持続的なもので、未来を作ることにつながります。赤ちゃんが産まれて最初に感じる部屋を設計したと話しましたが、赤ちゃんもわかってくれるだろうという信念を持って、記憶に残るデザインをしました。

〈徳本〉　脳が萎縮する認知症ですが、幼児期に習った音楽やピアノはうまく弾くことができるといいます。脳科学の観点からも100歳を健康に過ごすためには、幼児期の体験が重要ということです。キッズデザインは、人生をハッピーに終わらせるためのデザインでもあるのではないでしょうか。人生100年時代に即したデザインがキッズデザインにある、というアプローチを考えてみてはどうでしょう。

〈三神〉　子どもが安心して暮らせない、夢を持って暮らせない社会は、持続可能な社会ではありません。持続的な社会でなければ、企業も成り立たちません。子どもに関わることは大切で、子どもと関わることで考えが変わっていくと思います。そのきっかけを自ら作っていくことがキッズデザインを考える一つの契機になるのではないでしょうか。