キッズデザインミーティング 研究会・プロジェクト活動発表開催

掲載日: 2023.7.10

■キッズデザインから生まれるオープンイノベーション

「顕彰事業」「CSD認証事業」「広報事業」「調査研究事業」の4事業で構成されているキッズデザイン協議会。今回のキッズデザインミーティングでは「調査研究事業」に焦点を当てています。
研究会やプロジェクト活動では、社会課題や会員の共通課題を解決しようと、会員自らが部会を立ち上げ業界横断的なオープンイノベーションを実現しています。
また、一般生活者にも門戸を広げ、キッズデザイン普及促進のためのイベント「キッズデザインカフェ」や、会員間交流、セミナー、講演会、SDGsアイデアソン等を展開しています。
いずれも異業種との交流から新製品・サービスのデザイン開発に繋げ、自社製品・サービスの特性を共有・紹介したいという会員の意見が集約されてより良い活動につながっています。

「こどもOS研究会」

発表者:公益財団法人大阪産業局 川本誓文氏
メンバー:大阪産業局/積水ハウス/コクヨ/ジャクエツ/GIS総合研究所

2008年にスタートした「こどもOS研究会」では、子どもの安全・安心に資する研究や、企業の商品開発に役立つアイデア発想法を研究しています。 「OS」とは、子どもが何かに集中(没頭)している時に現れる人間の基本的な欲求や衝動(競争心や探究心など)を指します。
特に子どもの遊びに着目。屋外での行動観察調査から22種類の特徴的な行為を抽出して子どもの行動言語として「プレイフル・デザイン・カード」という表裏のある発想カードにまとめました。



同じ行為でも、「楽しい」と「危険」は表裏一体です。楽しいプレイフルモードの裏は、その行為に潜むハザード(危険)を表しています。


2通りの使い方があります。
まず、新しいアイデアを生み出す連想発想法(エクスカーション法)です。ランダムに選んだカードとテーマを掛け合わせて、言葉やイメージの連想を繰り返します。その連想から今までにない発想が閃くというものです。
もう一つは、カードの裏面でハザードをチェックし、製品開発の段階で子どもの危険を予測するものです。
例えば、開発したいものに対する子どもの行為の可能性を検討します。飛び上がる、飛び越える、飛び降りる、飛び込む等々、複合動詞でそれらを結びつけ、そこから安全・安心な製品等の開発に活かすという活用法です。

子どもの行動特性に関する知識が浅いと、親は子どもの行為を「危ないから」と止めてしまいがちです。それは、成長発達を阻害する要因にもなり得るのです。一方で放っておくと怪我の危険もあるため、どこで止めるのが最良なのかを理解するためにもカードの活用は有効です。

<2023年度の活動計画>
2023年度は8月にSDGsアイデアソンでこどもOS発想法の勉強会を、また、9月に日本建築学会で「子どもの行動特性に関する研究*(サマリー)」を3本紹介する予定です。

*2022年度から実施している子どもの行動特性に関する研究
キッズデザイン協議会には、3万3,000件余りの事故時の子どもの性別・年齢、事故の場所・状況等を分析した子どもの事故情報データ「キッズデザインデータベース」があります。この中から5,000件を抽出し、新たに、怪我の程度やハザードのレベルを分析しました。どのような遊びから事故につながったのか等、こどもOSとの関係性を分析して結果を発表する予定です。

 ◎米倉氏コメント
子どもの行動特性を、遊びを通じて「データ化」「見える化」しています。企業だけでなく、子育て中の親が学び、子どもたちの遊びをコントロールできる。とても興味深い事例で、とても大切な取組みだと実感しました。

「子どもを守る情報の森プロジェクト(こまもりプロジェクト)」

発表者:ミサワホーム株式会社 福田綾氏
メンバー:セコム/コンビウィズ/秋草学園短期大学

「インターネットや出版物等、誰もが簡単に情報を入手できるが、適切な情報が得られているのか?」
この疑問から、子育てに役立つ情報や子ども製品・サービスに関する情報を整理し、体系化した上で一般に向けて紹介するコンテンツを目指しています。
迅速な情報入手と情報の正確性をいかに精査するか、同時に、参加企業が発信する子育て情報をエンドユーザーに届ける方法を検討している最中です。


2019年度、未就学児の保護者を対象に生活シーンごとの情報の入手の方法、役立った情報源等のアンケート調査を実施したところ、インターネットやインスタグラム等の手軽に情報を探せる媒体の利用が多いことがわかりました。
2020年度はインスタグラム利用に関する座談会、2021年度はSNSの利用頻度、利用が多いSNSアプリ、情報の信頼性等についてアンケートを実施し、2022年度はSNS活用をテーマに座談会を開催しています。これまでの調査で、子育ての内容によって情報源を使い分けていることが判明しました。

座談会の参加者からは「信頼できる新しい情報をまとめて見られると嬉しい」「子どもに関わるものを作っている企業を身近に知る場があるといい」という意見が寄せられ、今後の取組みとして検討していきます。

<2023年度の活動計画>
2022年度の座談会を詳細に分析し、情報提供の方法を細かく検討する予定です。また、キッズデザインマガジンでプロジェクトの活動や会員企業の子育て情報を随時発信していきます。
専門家による正しい情報発信として講演会、11月には日本子育て学会で成果発表を予定しています。

◎米倉氏コメント
昨今、調べ物はSNSかインターネットが主な手段になっています。このプロジェクトが扱っている情報ならば安心だという認証が取れれば、さらに多くの人が使ってくれるでしょう。企業側は顧客ニーズを掴めて、それをベースに製品開発に繋げられるし、きちんと分類された信頼できる情報であれば消費者にとっても便利。双方の窓口になれる良い取組みだと思います。

「インクルーシブ・キッズデザイン プロジェクト」

発表者:コクヨ株式会社 栗木妙氏
メンバー:ADKマーケティング・ソリューション/フレーベル館/LIXIL住宅研究所/東京大学大学院

「子どもたちの心のバリアはいつ頃から生まれるのか」と幼稚園や保育園の先生・保育士に問いかけてみました。未就学時点では障がいの有無も国籍も分け隔てなく友達関係を築いていると言います。バリアが生まれるのは人との違いを認識し始める小学校に進学する頃のようだということが分かりました。
とてもセンシティブで難しい問題ですが、視座を高めるために多様性を知ることからスタートしました。
「あ〜とん塾」「柿の実幼稚園」「プライド東京レガシー」に赴き、お話しを伺っています。

0歳から18歳までの聴覚に障がいのある子どもの支援をする「あ〜とん塾」では、障がいを特別なこととせずに、地域との交流を積極的に行っていました。しかし、子どもたちからは「聴覚に障がいのある人が活躍できていない。自分の未来に希望が描けない」という声が上がっています。

「柿の実幼稚園」は、障害児や支援を必要とする子どもを積極的に受け入れている幼稚園。子どもたちと対峙する中で、何が必要なのか、何ができるのかを模索しています。どれだけ温かい手を持った親やサポーターの存在が大事なのか気付かされました。

LGBTQの情報発信をしている常設施設「プライド東京レガシー」では、特にトランスジェンダーにフォーカスしています。近々、調査の結果を発表できる予定です。

マイノリティ当事者となる人たちを知り、助けになるような商品・サービスはどのようなものが良いのかをリサーチし、会員会社に情報を共有します。その情報を活用して会員会社が開発する、というアウトプットのお手伝いをしていきたいと思っています。

<2023年度の活動計画>
これまでの調査結果を深化させ、何ができるのか考えたいと思っています。情報はオンラインで発信していますが、会員企業にもインプットの機会や講演会、ワークショップ等の場を設けたいと考えています。

◎米倉氏コメント
我々が変わらなければいけない、ということですね。アメリカの例ですが、障がいのある子どもも一緒の教室と、健常者の子どもだけの教室があり、1年後には勉強は後者が進んでいましたが、前者の方が優しい子が増えたという話があります。効率性で考えれば分けた方がいいでしょうが、それでいいのでしょうか?
クリエイティブな人間は多様性の中から現れることが明らかです。このプロジェクトが我々が変わるきっかけになると素晴らしいと思いました。

「標準化検討部会」

発表者:ユニバーサルデザイン総合研究所 高橋義則氏

キッズデザイン協議会において標準化活動は大きな事業の一つです。製品安全に関する法律、安全規格、業界基準等がありますが、子どもが触れることが前提になっていないため、子ども特性の想定外の動きや発達過程で生じる事故が絶えません。そこにメスを入れようというのが、標準化活動の目的です。 

2017年度には、JIS Z 8150が制定され、「あらゆる事業者」に対して製品の設計、開発の中で子どもの安全性を確保するプロセスが標準化されました。一般生活者が使う用品においても子どもが接触する可能性があるもの全てを対象にしたことが大きな特徴です。 
子どもの安全性確保のために、①事故情報の確認と対処②設計・開発の評価、検証、改善③利用者への情報伝達④事故情報やユーザーニーズの蓄積・活用――を繰り返してスパイラルアップを図ります。 

キッズデザイン協議会が保有するデータベースには、全国の子どもの事故情報が蓄積されています。また、製品設計時に活用できる子どもの身体寸法データもあり、これだけ詳細なデータベースはキッズデザイン協議会が日本最大でしょう。 

<2023年度の活用計画> 
キッズデザインの考え方が日本独自のものです。これをグローバル展開したいと考えています。 
2023年度は2018年度にスタートした国際標準化プロジェクトを一層進めていきます。9月にドイツで開催される国際会議では、子どもの安全に関して発表する予定です。 
また、JIS Z 8150の改定に向けた議論や、ISO、JISとCSD認証との紐付けに関する議論を行って、キッズデザイン協議会における認証のステイタス向上のための戦略を構築していきます。 

◎米倉氏コメント 
日本は今でも世界の中で信頼は厚く、日本のクオリティを国際標準化するというのは、日本の未来において非常に大事だと思います。 日本の基準をクリアしていれば、世界中の子どもたちが安心して使えると言われるようになってもらいたい。しかし、日本は標準化を取るのが下手です。ぜひ、グローバルスタンダードを確立してもらいたいと思います。 
    
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