自然豊かな地域で、自由な遊びを誘発する保育園

掲載日: 2023.12.4

自然豊かな地域で、自由な遊びを誘発する保育園

自然豊かな風景の中ににたたずむ、感性を育む保育園

立山連峰を望む緑豊かな自然に囲まれた「パッシブタウン第4街区たんぽぽ保育園」。子どもの感性、創造性を育むデザインとして、経済産業大臣賞を受賞したこの保育園はどのような経緯から生まれたのでしょうか。株式会社田口知子建築設計事務所の代表取締役田口知子さんはこう話します。
「パッシブタウン第4街区たんぽぽ保育園は富山県黒部市にあり、YKKグループの社宅跡地を使った街、パッシブタウンの第4街区として建てられました。
パッシブタウンとは、黒部の自然、光、風、太陽、雄大な立山連峰から流れてくる伏流水など自然エネルギーを最大限利用した、環境に優しく、ローエネルギーの街を作ろうということで、2013年から始まった街づくりです。

第4街区には木造の保育園を作ろうということになり、たんぽぽ保育園はYKKの企業内保育所として計画されました。この保育園のテーマは『子どもの心にポエムを育てる』ことと保育園の理事長はおっしゃいました。
小さな子どもは、植物の見て鳥の声を聞き、、外の景色を見て、風や光を感じて暮らすことで感受性豊かな子が育つ、ということです。そのためにはできるだけ自然につながる融通無碍な空間がよい、年齢を超えて混ざり合う大らかな保育空間がよい、とおっしゃった言葉を、この保育園の建築のテーマにしました」。

自然豊かな地域で、自由な遊びを誘発する保育園

立山連峰を望む素晴らしいロケーションにある保育園だ

周辺環境を活かした建築設計の工夫も

おおらかで自然豊かな空間では子どもたちがのびのびと日々を過ごしています。空間設計の面ではどのような工夫があるのでしょうか。
「パッシブタウンの緑豊かなランドスケープに囲まれた保育園として、緑の境界をなるべく曖昧にして外の環境と馴染むような縁側を作っています。センターコモンという共用の庭があり、アプローチは西から入って、大屋根のエントランスがあります。遊戯室と保育室は、くの字型に連続した長い空間で、南北に薄い空間になっています。左の端には高床コーナーがあり、南と北には広い縁側があります。北の縁側の先には園庭があります。
外部との接触をできるだけ豊かにすることで自然に触れながらのびのびと育つこと子どものための環境をデザインしました」。

自然豊かな地域で、自由な遊びを誘発する保育園

自然エネルギーをフル活用した快適な空間づくり

自然豊かな地域で、自由な遊びを誘発する保育園

南の縁側と可動シェードで季節ごとの遊びも

空間内は子どもの居場所があちこちに

園舎内では、それぞれの子どもがその時の気分に合わせてお気に入りの場所で遊んだり、休んだり、会話をしたりして過ごしています。
「内部空間では、朝日が入る遊戯室と保育室が連続する大屋根の空間になっています。のびのびと遊べる遊戯室は黒部川扇状地の地形に沿った緩やかな段差が仕込まれており、そこは子どもたちの遊び場にもなります。高床コーナーは地面から90cmほど高く、なっていて、上から見下す体験ができます。これは、子どもの発達に良い影響があるといわれています。
ほふく室は、天井を低く抑え多様な保育空間を用意しました。
南の縁側にはパーゴラと可動シェードを設置し、夏でもシェードを引っ張り出して水遊びをしたり、日陰で遊んだりできます。北の縁側は涼しい場所として夏でも子どもがのびのびと遊び、物見台テラスというテラスもあって、その階段も遊び場になっています。」。

自然の力を最大限に活かす省エネルギー建築

子どもに快適な空間であると同時にエネルギー消費を抑える建築的な工夫も様々に行なわれています。
「この建築はパッシブデザインというデザイン手法を使っています。。パッシブタウンでは2016年から継続して気象データを蓄積しており、24時間365日の気象データを使って東京大学の谷口景一朗先生に気候分析、環境シミュレーションを行っていただき設計に反映しています。
シミュレーションの結果を使って自然通風を最大限利用する建築とし、特に子どもレベルで快適な温熱環境を作ること、日差しをコントロールする仕組みを作っています。
南向きの傾斜屋根には18.5KWの太陽光パネルを載せています。
この太陽光パネルで、冬の日射量の少ない黒部でもZEBを達成しています」。

自然豊かな地域で、自由な遊びを誘発する保育園

地元の木をふんだんに使った温かみのある保育室

もうひとつ、木をふんだんに使った空間が目を引きます。地元の森林から切り出した木材を最大限活用する建築を実現したということです。
「地元林業家と地元工務務店と連携して設計初期から打ち合わせを行い、地元産の杉の大径木を十分に活用する建築を考えました。構造設計はホルツストラの稲山先生、施工は平野工務店、伐採は尾谷林業です。さらにYKK不動産主催によって工事期間中、設計者、工事関係者、地域住民とともに、この保育園建築に使った量以上の杉苗を植えようと、『立山 森の輝き』という立山産の無花粉杉の苗を200本以上植えました。
建築が山と街をつなぐというあらたな建築の可能性を、このパッシブタウン第4街区で実現できたと思っております。子どもが街の真ん中にいる風景を作るという保育園のコンセプトを、この建築を通じて実現できたことに心から感謝しています」。
 自然と融合し、地域の四季を感じながら、子どもたちを育むたんぽぽ保育園。これからも地域に愛される場所として続いていくことでしょう。

    
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