デジタル、地域、コラボレーションによる新たな教育への挑戦

掲載日: 2023.12.15

デジタルとアートの融合で新たな教育の機会を

自分たちが住む街を360度バーチャルに見渡せるウェブ図鑑や何十枚ものタブレットが同時に映像を映し出し1枚の絵になるといったデジタルテクノロジーとアートの融合が素晴らしい様々なワークショップが実践されている場所が山口県にあります。
「未来の山口の授業 at School」で経済産業大臣賞を受賞した、山口情報芸術センター(YCAM)の社会連携担当の菅沼聖さんはこう語ります。
「社会がめくるめく変わる中、教育や事業のあり方も劇的に変わっています。
でも、それに教育現場が柔軟に対応することはなかなか難しい。そこで地域のメディアアートセンター、教育委員会、エンジニアやファブラボが手を取り合い、山口市の新たな教育モデルとして始まった事業開発プロジェクトがこの取組です。2021年の開始以降、360度ぐるっと見渡せるウェブ図鑑や従来にないスポーツを開発する体育祭、映像表現について学べるデジタル壁画、さらには教員研修など様々なカリキュラムを開発、実施しています。
メディア・テクノロジーを使って新しいアート作品を生み出してきたYCAMの知見を応用し、地方で学ぶ機会が少ないテクノロジー分野をセーフティネットとしてつなぐ役割を担い、そして地方から世界に向けて社会の変化に対応し続けられる教育の形を発信したいと考えています」。

世界中からメディア・アートのプロが集結

プログラムを開発しているYCAMは一体、どのような活動をしている組織なのでしょうか。

デジタル、地域、コラボレーションによる新たな教育への挑戦

国内外からメディア・アートのスタッフが集まるラボ機能を持つYCAM

「YCAMはメディア・アートを実践する場所として2003年に開館して以来、20 周年を迎えました。メディア・テクノロジーを背景に社会がどう変化していくのか、それを応用した芸術表現とはどういうものかを探求しています。
映像や音響、センサーなどのメディア、コミュニケーションの間にあるメディアを使ってアート表現をしていくという施設です。特徴はアーティストやクリエイターとのコラボレーションでこの場所で新しい作品を作り、世界に発信していくという体制を整えていることです。
世界中から集まった 20名ほどの職員は様々なスキル、バックグラウンドを持っていて、それがラボとしての体制をうみだしています。身体表現、ライブパフォーマンスなどラディカルな取組を中心に作品は300を超えており、世界各国を巡回しています」。

目指すものはアートの知見を活かした教育の改革

アートの役割はまだ見ぬ価値を発見することであり、そのために技術を追求して、いろいろな知見を溜めていき、それを教育やコミュニティ、地域の活動に還元していくことが目的である、と菅沼さんが語りました。
「いくつもカリキュラムを作っていますが、スポーツ、体育や社会、美術など幅広い分野で構成されています。

例えばタブレットを使った地域学習では、地域を回って壁新聞にまとめていた内容をウェブアプリケーション化しました。タブレットを使って、皆で気づきや発見をシェアできるようなウェブサイトを作っています。
自分が調べたところにピンを立てて右側にあるノートに自分が撮った画像や映像を貼って、こんなことあったよ、という情報を蓄積していきます。これをインターネットに公開して全世界の人に見ていただきます。専門家から降りてくるものではない、自分たちで作る図鑑を目指しています。デジタル壁画『うご板』は、40枚のタブレットを集めて1つの大きな画面を作ります。
アニメーションや映像表現を学ぶのですが、さらにバージョンアップを考えていて、絵で線路を書いて渡して、また次の人が線路を書いて、といったリレー形式の映像バージョンを考えています。
体育関連の作品では、大きなビニールボールの中にスマホを入れ、揺らすとカウントが減ったり増えたりするようにプログラムされており、それを使って自分たちでルールを決めて新しい種目を作るという挑戦を体育祭でやっています」。

デジタル、地域、コラボレーションによる新たな教育への挑戦

自分の発見にピンを立てて共有するデジタル図鑑

デジタル、地域、コラボレーションによる新たな教育への挑戦

うご板の一例。「目」「口」「眉毛」で大きな一枚の顔を作る

デジタル、地域、コラボレーションによる新たな教育への挑戦

デジタルデバイスと身体性を組み合わせた新たなスポーツも

これからもメディア・テクノロジーを使って感性や創造性を喚起するユニークなプログラムがたくさん生まれてきそうな予感があります。最後に菅沼さんはこう語ってくれました。
「大事にしていることは手作りの事業であること、みんなで作ること、テクノロジーの社会変化に合わせて対応できるような地域体制を作ること、です。アートから出た知見を使った教育イノベーションを目指しています。
この実践を通じて実験的なことを重ねて、教育に転換できる可能性を示したいと思っています」。

    
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