あそびこそ最高の学び、失敗こそ学びの源泉 〜あそび大学
掲載日: 2024.11.12
あそび大学とは?子どもたちが自由に遊び創作する場
布、紙、革、ウレタン、プラスチック、金属…様々な素材がずらりと並んだ棚を前に、子どもたちが好きな素材で自分だけの工作をしている。
ここは「あそび大学」です。第18回キッズデザイン賞で最優秀賞の内閣総理大臣賞を受賞した作品となりました。運営する特定非営利活動法人あそび研究会の關真由美さんはこう語ります。
「あそび大学は墨田区の町工場から提供された素材で子どもたちがあそぶ場です。
ルールはたった一つ、自分自身や友達を傷つけない。あそび大学が生まれたきっかけは、私達夫婦がもの作りのまち・墨田区にデザイン事務所を構え、子育てを始めたことです。墨田区には様々な業種の製造業が集積し、現在も2,000軒近い町工場があります。工場に打ち合わせに行くと、「小さいお子さんがいるなら、この素材を持って帰りなよ。俺たちも小さい頃、よく遊んでいたから」と様々な素材をいただくようになりました。
そこで素材棚を我が家のリビングに置いてみたところ、子どもたちが夢中になって遊ぶようになりました。子どもたちが小学生になった頃、「うちの学童も素材でいっぱいにしてくれないかな」とお願いをしてきました。理由を聞いてみると、学童のこどもたちが、遊ぶ材料がないと文句を言っていたけれど、学童には紙やビーズをたくさん買う予算がないと先生達が悲しそうに言っていた。だから、学童にも素材が欲しいと言うのです。
そこで、先生方に連絡して、墨田区の町工場の素材を学童に置いてみませんかと提案したところ、夏休み限定で素材を設置していただくことになりました。」
山積みされた多彩な素材を前に何を作ろうかな、と考える
自由で想像力がふくらむように環境をデザインする
そうすると、集団になれば尚のこと、子どもたちが夢中になって遊び、次々に自ら遊びを生み出すようになったそうです。關さんは、これをきっかけに子どもたちと関わる仕事をしている人たちと交流を深めるようになりました。
少子高齢化の影響と現代の子どもが抱える課題
「少子高齢化が進み、子どもが公園に行っても遊ぶ仲間がなかなかいない状況になっていること、子どもを温かく見守る大人も減って、子どもへの目が非常に厳しくなっていることを知りました。今の子どもたちは自分自身で今日は何をしようと決められる自由な時間が少なくなっており、本来、子どもたちが大好きな汚いこと、危ないこと、馬鹿らしいこと、秘密のことができる機会が減っていると知りました。子どもが主体となって自分のやりたいことをやれる、そんな場が必要だと我々は強く感じるようになりました。そこで千葉大学の墨田サテライトキャンパスをお借りして、あそび大学というイベントを始めました。」
どうすれば子どもたちが主体になって自分のやりたいことをやれる場になるのか、議論を重ねた結果、いくつかの方策を考えたと言います。
「まず保護者立ち入り禁止であること。私も母親なので痛感するのですが、親が良い親であろうとすると、他のお友達も使いたいかもしれないから素材をたくさん取っちゃいけないとか、せっかくの素材をちょっとしか使わなかったら、もったいないから最後まで使おうね、と声をかけてしまうんですね。それは正論ではあるのですが、大人が正論を言えば言うほど、子どもは自由に過ごすことができません。
だから、あそび大学は、保護者なしで子どもたちが過ごす遊び場にしました。次に、大人は口出ししないこと。大人には遊びに見えないことも、子どもにとっては遊びである場合もあります。例えば様々な素材を触ってみたりとか、素材と素材をぶつけて音を楽しんでみたりとか、大人にとっての目的がないようなことも、子どもにとっては立派な遊びです。また、子ども同士で喧嘩をしても、あそび大学では大人が仲裁しません。子どもたち自身で解決方法を考えてほしいからです。
その一方で、環境はきちんとデザインしております。自由で想像力が膨らむ遊び場となるように環境を整えています。あそび大学開催後は、サポートのボランティアと振り返りを行い、改善点について議論をしています。最後は、無料で開催すること。親の経済力に関わらず参加できるイベントにしたいという思いももちろんありますが、無料にこだわる理由は保護者から参加費をもらってしまうと、どうしても子どもの成功体験を求められてしまうからです。
失敗から学ぶことは非常に多いのです。あそび大学は子どもが思いきり失敗できる場所でありたい、そう思っていますので無料にしています。」
大人には遊びに見えないことも、子どもにとっては遊びである
子どもどうしのけんかに大人の仲裁はなし。お互いで解決する
ふるさと納税を活用したクラウドファンディング
無料で開催するために、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングを実施して、活動費を捻出するなど多くの努力をしているそうです。あそび大学を月に一度のイベントではなく、もっと子どもたちの日常に届けたい、と思うようになり、NPOを設立。現在では、墨田区内の子ども向け施設と連携を始め、遊び場を100か所つくるという新たな目標を立てられました。
「あそび大学にはキッズという独自の通貨や、子ども銀行というアプリもあります。作ったものを売ったり買ったりするお店もあります。なつのあそび大学では選挙もあり、自分たちでこどもの国を建国します。失敗したくないという気持ちは当然だと思いますが、一方で遊びの中には嬉しい、楽しい以外のこともたくさんあるはずです。
例えば、ある子がこういうものが作りたいと言って工作をとても頑張ったけれども、時間内にうまくできなくて、泣きながら2度と来ない、と言って帰ったことがありました。
でも次の回のときには設計図を用意して、時間内いっぱい頑張って、うまくできてとても嬉しそうな顔で帰っていったことがありました。
悔しい、悲しいから学ぶこと、挑戦できることもあります。あそび大学はそういう場でありたいと思っています。」
独自通貨「キッズ」やこども銀行のアプリなども揃い、本格的
失敗してもよい場所、をめざしてあそび大学は展開されている
子どもの主体性を重視した『あそび場』の提供
あそび大学は、NPOや一般社団法人、町工場や多くのボランティア、行政など多様な関係者の方々の協働で成り立っています。様々な意見を出し合いながら、日々、進化できるよう多くの工夫が行われています。
子どもが主体的にやりたいことをやれる。良いことも、ちょっと悪いことも、失敗も成功も味わい尽くせる。それが、あそび大学が目指す『あそび場』です。