“REAL”にこだわり、未来の研究者を育てるミュージアム~『福井県立恐竜博物館新館「化石研究体験」』
掲載日: 2024.11.22
恐竜化石の発掘地・福井県勝山市の歴史と調査事業
福井県は、1989年から勝山市北谷で恐竜化石調査事業を実施し、多くの化石を発見してきた歴史がある地域です。
専門領域であった化石研究を誰もが、より楽しくかつ本格的に体験できるプログラム『福井県立恐竜博物館新館「化石研究体験」』は、「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン・クリエイティブ部門」で優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞しました。株式会社丹青社デザインセンター・文化交流空間デザイン局のクリエイティブディレクターである倭文諭さんは開発の思いをこう語っています。
「2023年の夏にリニューアルオープンした新館は福井県立恐竜博物館の機能強化の一環で増築されました。新館は黒川紀章建築都市設計事務所さんが設計され、丹青社としては展示・設計・施工を担当させていただきました。リニューアルの主要強化機能として化石研究体験室をスタートし、小学生以上の方を対象としています。
日本最大の恐竜化石の発掘を行う研究とその情報発信をする拠点として、この博物館は位置付けられていますが、リニューアルでは子どもやご家族に楽しんでいただきながら、じっくりと化石研究の世界に向き合っていただくコンテンツ作りが求められていました。」
本物の体験にこだわった、この地域ならではのコンテンツ構成が素晴らしい
子どもが背伸びをしたくなるような体験ができる環境作り
福井県で実際に発掘されている恐竜化石の発掘現場がすぐ近隣にあり、本物を見たり触ったりできる環境があることがプログラム開発に貢献したと言います。
「化石研究のプロセスに沿って体験ができ、使う道具や設備は全て実際の研究者の方が使っている同等品以上のものです。
この体験では、化石を見つけて、見わけていく目を養う『化石発掘プラス』、ティラノサウルス・レックスの頭骨を組み上げ、その解剖学的特徴を学ぶ『T.rex頭骨復元』、本物の道具を使って恐竜の歯を取り出す『化石クリーニング』、CT画像を使って化石の非破壊観察を行う『CT化石観察』の4つのメニューがあります。全部で2時間ほどのプログラムですが、最も大切にしている点が“子どもだましにしない”ことでした。」
本物にこだわって、実際の研究の世界に没入させていく、子どもが背伸びをしたくなるような体験ができる環境作りを心がけたそうです。
実際に研究で使われる道具や設備、発掘現場より採掘された岩石等を使って、本格的な体験ができる4つのプログラム
近隣の化石発掘現場も活用
「もうひとつ重視した点は、安全かつリアルな体験環境を確保することです。複雑な体系になるので、プログラムの進行を円滑にしながら安全性も担保することは最大のハードルでした。
さらに博物館の研究と結びつけることも大切です。博物館から提供いただく貴重な資産を有効活用しながら、新たな発見のチャンスを子どもたちに与えていきたいと考えています。
化石の発掘現場が近くにありますので、ここから出た石を体験に使ったり、体験空間は“子どもが背伸びをしたくなる”ような緊張感をまとったラボをイメージしています。難易度の高い研究も非常に多く、CT体験ではCTグラフィックの美しさや実際の操作方法に観察ポイントを取り入れ、楽しみながら習得できる工夫をしています。
個別の対応が難しい部分は映像などデジタルコンテンツでサポートしながらも、深い学びを得るために大事な部分は本物の化石と比べてみたり、本物の道具を使ったりすることにこだわっています。」
発掘現場を有する博物館ならではの体験を提供(左)子どもが背伸びしたくなるようなラボをイメージした空間(右)
本物の設備ゆえ安全性に対する配慮も丁寧に実施(左)デジタル技術活用で化石細部の観察も可能(右)
体験を超えた未来の展開、博物館の研究に貢献する可能性
体験に留まらない、さらにその先の展開にも期待が持てるようです。
「子どもが石から化石を見わけて削りだしていく作業の中で発見される化石があるのですが、これは博物館での研究対象として扱われます。貴重なものが出た場合、研究者が調査した後、博物館に展示されるプロセスも組み込んでいます。子どもが自分で発見した化石が博物館の化石研究に寄与しているという意識をもつことができます。」
来場者アンケートでは2,000件の回答のうち、約99%が満足と答えているそうです。
「アンケートの声には『非常に体験として貴重だった』『楽しんで終わりではなく、博物館の研究にも目を向けたい』など、博物館の展示に対して興味関心を高め、新たな見方を提案できるような体験が作れたのではないかと考えています。」
オンライン、デジタルであらゆる体験が可能な時代であるからこそ、リアルな体験、本物の研究体験を通じて探求する心を刺激する、子どもの成長を後押しできる体験を作れたのではないかと感じています、倭文さんはそう語ってくれました。