「創造力はみんなのなかに」~STEAM教育が伝える “知を創り出す喜び”
STEAM教育が、社会のデザインを変える
掲載日: 2021.8.25
STEAM教育が、社会のデザインを変える
STEAM(スティーム)というワードを最近、よく耳にします。STEAMとはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、 Mathematics(数学))の頭文字からなる、創造的・横断的・実践的な学びを表す言葉で、世界的に使われているキーワードです。日本でも、高校では2022年度から「総合探究」「理数探究」「公共」の新教科もスタートし、小学校・中学校でも探究的な学びが重視されていきます。
2021年6月9日、キッズデザイン協議会では、「創造力はみんなのなかに ~STEAM教育が伝える”知を創り出す喜び”」をテーマにキッズミーティングを開催いたしました。ゲストにSTEAM教育第一人者で、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーでもある中島さち子氏と、キッズデザイン賞審査委員でもある、株式会社しくみデザイン代表取締役の中村俊介氏をお招きし、子どもも大人も楽しめる学びについて語っていただきました。その一部をご紹介します。
すべての人が作り手で発信者である時代
STEAM教育という、大きな改革の中心にあるのが「創造性の民主化」です。これまでは知識を得るために本を買って読むなど、知を受ける側と与える側が分かれていた時代でした。しかし、20世紀末から、インターネットが急速に広がり、検索をすれば簡単に知にアクセスできる今日は、自分が何かを考えて発信する時代。スマホやアプリ、YouTubeなどのSNSが発展した今、もはや万人が作り手で、表現者、発信者であることが当たり前であり、万人が創る喜びを体験できる、それがまさに創造性の民主化時代なのです。
教育のみならずビジネスシーンでも「創造力」が重要視されています。創造力というと、日本では絵を描くなどクリエイティブに関する言葉というイメージがありますが、創造力とは、何か価値を創り出す力、新しい解決策を見出す力。それは誰にとっても不可欠なものなのです。
垣根を越えた活動が新しいものを生み出す21世紀
垣根を越えてつながることで、新しいクリエーションが生まれます。研究や芸術の分野でも同じです。私はジャズピアニストでもありますが、ジャズやロック、数学の諸分野など、20世紀に生まれた多くの専門分野は素晴らしい発明です。そして、ある程度成熟した今の21世紀に新しくものを生み出そうという場合は境界線がなくなって、それらがつながり始めています。
物事を測る軸が多軸になっているのも特徴です。一昔前ですと、中高大学では偏差値で、お金に関しては所得やGDPで見るなど、一元的なものが主流でした。でも今は、幸せ軸やサステナブルかどうかで見るなど、多軸の価値観が生まれています。みんなが自由で、違っているからこそおもしろい。そんな社会になりつつあります。
求められる、メタ認知力=俯瞰する力、客観視する力
2020年には、10年ぶりに文部科学省の小学校学習指導要領が改訂されました。以下の3つが柱になりました。
【新しい学習指導要領で育む資質・能力】
1.何を理解しているか、何ができるか(知識・技能)
2.理解していること・できることをどう活用するか(思考力・判断力・表現力)
3.どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力・人間性)
この柱は、グローバル化や人工知能、AIなどの技術革新が急速に進み、社会がめまぐるしく変わる日々のなかで、子どもたちが変化を前向きに受け止め、創造力を働かせて生きていく力を育てることが大切であるという考えを反映しています。
この学びの柱の元になる、アメリカのカリキュラム・リデザイン・センターが出している「学びの4次元モデル」と呼ばれるものがあります。指導要領の3つの柱が大きな円に囲まれています。では「何が4次元なの?」というと、3つの柱を取り囲む円=全部を俯瞰する力を指しています。「メタ認知」ともありますが、メタとはひとつ上の次元のことを指すので、学ぶ自分を、違う次元から眺めるイメージです。全体を俯瞰して、「この学びはそもそもどんな意味があるんだろう」と振り返ってみたり、「これは何の役に立てられるかな?」と問うたり、ひいては自分の人生を考える、そういう力が大事だと、説明されています。
このように、何を学ぶか以上にどのように学ぶか、学び方や生き方を問い直す時代のなかで生まれてきたのが、STEM/STEAMという言葉です。STEMは、Science、Technology、Engineering、Mathematicsの頭文字で、科学、技術、工学、数学を総称した言葉です。そこにArts(芸術・創造性)が加わってSTEAMへと発展しました。もともとは、テクノロジーの進化が加速する中で、IT人材を育成するのを目的に考えられた教育法でしたが、その根底にあるのは科目を横断的に学び、メタ認知の力で、人のため、社会のために応用できる力を育てることにあります。
アートとは、世界を見る新しい視点を生み出すこと、問いを生み出すこと
ところで、STEMに加わったA=Art(アート)とは何でしょうか? 絵を描くとかピアノを弾くこと、もちろんそういう芸術もアート。でもその本質は、世界を見る新しい視点、「自ら問いを生み出すこと」、これこそまさに創造性です。誰もが問いを与えられて効率よく解決するだけではなくて、何が表現したいのか、誰のために何を作りたいかを自分自身で考える。そして、考えるだけでなく、本当に形にするところまでやってみる。「問いを生み出し、解決法を考えて作る」こと、この両方が大事なので、それができる社会をどうしたらできるか、それを具体化するのが私の夢です。
真剣だから楽しい。それがPlayful STEAM
私が研究員として関わらせていただいていた経済産業省「未来の教室」*では、「ワクワクを中心とした、知ると創るの循環」という言葉を提案しました。ワクワクしなければそもそも学びたいという気持ちになりません。また、知も大事だけれど、知ることと創ることとの両方が循環することが大事なので、だんだんこの形に学びを切り替えられないかと思って動いています。
Playful STEAMの頭についている“Playfulプレイフル”とは何でしょう? これは同志社女子大学の上田信行名誉教授が提唱されているもので、Howの精神で物事をとらえて、ワクワクしながら取り組もうという、学び方生き方のOSとなるようなもの。学びにとっても大切な概念です。
変化が激しい時代に、新しい挑戦をするとき「ホントにできるのかなCan I do it?」と考えがちですが、それを「どうやったらできるかなHow can I do it?」とHowの精神で考えると、心の持ち様が前向きに変わってきます。さらに「How can We do it?」にすれば、いろんな多様な仲間と一緒に行う協働となり,さらに可能性も希望も広がります。
プレイフルというと、遊びや楽しいイメージが浮かぶかも知れませんが、一番大事なのは本気であること。真剣でなければ、プレイフルではありません。また、真剣にやっていくと、もちろん思い通りにいかないこともあるので、順次アップデートする柔軟さも必要です。一生懸命取り組んで悩みながら取り組むところに、プレイフルの醍醐味があるのです。