テクノロジーとデザインで、聴覚の障がい有無を問わず、安全安心かつ楽しい鉄道利用を
掲載日: 2023.11.29
AI目指したのは、文字や手話、オノマトペで駅の音情報を視覚化
毎朝、多くの通勤、通学で混み合う駅。そこでは様々なアナウンスが流れてきます。しかし聴覚に障害がある人々にとってはそれが重要な情報であってもわからない、そんな課題を解決しようと開発に取り組んだ作品は「エキマトぺ」。
優秀賞である経済産業大臣省を受賞しました。担当した富士通株式会社ソーシャルテクノロジー社会実装推進室の今村亮太さんはこう話してくれました。
「エキマトペのプロジェクトは聴覚に障害のある方を始めとする駅を利用する方々に快適な体験を提供することで安全、安心な鉄道利用の時間を実現したいと考えました。
さらに、DE&I(ダイバーシティ, エクイティ&インクルージョン)への相互理解を促進するということも目指しています。機能は駅のホームに流れるアナウンスや電車の発車・発着音、ホームドアの開閉音などをマイクで集音しAI分析してリアルタイムに画面表示するというものです。特徴的な点は手話です。
「未来の通学」をテーマに川崎市立聾学校の耳の聞こえない・聞こえにくい学生とのワークショップで出てきたアイデアになります。情報提供の観点からはどうしても文字に頼りがちですが、彼らは手話で会話をしていますので、それも表現して欲しいという声がありました」。
駅の多様な音情報を言語とビジュアルに即時に変換、安全な利用へ
AI活用でリアルタイムに音を変換、見やすさへの配慮も
同社は以前から社会のダイバーシティ推進に向けて、様々な技術、デバイスを手掛けてきました。
今回開発にあたっては、聾学校の学生たち、JR東日本・大日本印刷など共生社会実現に取り組む企業とともに開発を進めてきたそうです。
「弊社ではOntennaというデバイスを開発しており、これがきっかけで聾学校ともお付合いがありました。
学生さんが普段、電車で通学しているということを知り、家からの通学をいかに安全に楽しくできるかをテーマにしたワークショップを実施しました。
2021年に巣鴨駅で3日間の実証実験を行い、昨年、上野駅で半年間の実証実験を行いました。ご協力いただいた川崎市立聾学校は小学生から高校生までが一貫して通っており、様々なアイデアが出ました」。
オノマトペとは、自然界の音や声、事象などを「ざあざあ」「わくわく」といった言語音で表現することを指しています。
今回はそれを採用し、楽しさも提供したいと考えたそうです。それを支えているのが同社のテクノロジーでした。
「聴覚に障害のある方だけでなく、様々な方が共通の楽しい体験をしてもらうことを目指して、オノマトペで表現することになりました。弊社としてはそこにテクノロジーを導入することを考え、AIを2種類使っています。
また、駅のホーム上で、どの駅にもあり、人が並んでも見えるところを考慮して自動販売機の上に設置しています。電車の遅延などネガティブな情報のアナウンスに関してもリアルタイム表示できますので、電車が来ない時間帯は地域の情報や手話サークルの情報を載せることで、この駅には聴覚に障害のある方も利用していること、それを支えるサークルがあることも伝えられる工夫をしています」。
音はAI技術を通じてリアルタイムに変換、駅では見やすい場所に設置した
キーワードは「つながる」。さらに社会に広く浸透して欲しい
エキマトぺの開発を通じて多くの気づきがあったそうです。今回は駅という場所で実現した取組ですが、もっと社会の様々な場面で活用することができそうです。
「つながる」をテーマに実証実験の結果をフィードバック、さらなる展開へ
「この取組は多くのメディアにも取り上げていただき、評価いただきました。
実際に上野駅の利用者、関わっていただいた JRの駅社員の方にも、この取組を通じていろいろなことを考えるきっかけになったとおっしゃっていただいています。エキマトペをタッチポイントとして、様々な人がつながっていくことができればと考えています。
2025年にはデフリンピックという聴覚障害を持つアスリートの大会が東京で開催されます。
こうした機会も使いながら各地域でこうした活動が広がっていくことを期待しています」。