ようこそ探究の世界へ、さわって感じて学ぶ展示のデザイン ~「探究展示 テンパテンパ」
掲載日: 2021.11.25
アイヌ民族の現状が伝わっていない現実
子どもたちの創造性と未来を拓くデザインのリテラシー部門で優秀賞を受賞した、
「探究展示 テンパテンパ」。
「テンパテンパ」はアイヌ語で「さわってね」という意味の言葉だそうです。
国立アイヌ民族博物館の研究学芸部教育普及室、研究主査の笹木一義さんに開発の経緯をお聞きしました。
「博物館は、2020年7月、北海道の白老町という札幌から1時間ぐらいの場所にある、民族共生象徴空間(愛称:「ウポポイ」)内に完成しました。博物館の常設展示室の中にあります体験用・教育普及用のツールです。内閣府の世論調査では、アイヌ民族が先住民族であることを知る方は多いのですが、明治以降に文化が制限されてきたこと、今も多くの日本人と変わらない生活様式で暮らしていることを知らない方が多くいることがわかっています。このような背景に対し、多文化共生、多民族共生をどのように伝えていくかを考える必要がありました」。
届けたい人に、届けるべき情報を
こうした背景のもと、アイヌ文化を正しく理解してもらうための展示のコンセプトをいくつか定めたと笹木さんはいいます。
「まず、『展示室内の行き来をして深める』。周囲にあるさわることのできない実物などを置いたテーマ展示とさわれる探究展示を行き来して、アイヌ文化への理解を深めていただく構成になっています。体験を持ち帰っていただくために、さわりたくなるようなアフォーダンスを設計していますが、あくまでさわるのは手段であり目的ではありません。それぞれのユニットごとにねらいを設定して、コンテンツとしてしっかりと伝えることに主眼を置いています。『大人も子どもも』は、アイヌ民族の歴史や文化、今のことを大人だから知っているとは限らない、北海道出身だから知っているとは限らない、という現実がありますので、大人、子どもと分けるのではなく、幅広い対象をターゲットにしています。次が『昔と今』。例えば伝統的な家屋の構造がわかるユニットがありますが、きちんと説明しないと今も茅葺の家にアイヌ民族の人が住んでいると勘違いされることがあります。きちんと昔の話と今の話を区別して伝える工夫をしています」。
さわって・感じて・考えて、を繰り返して深める
デザイン視点においては、ユニット化とデザインルールを定めました。
探究展示はすべて脱着・移動ができます。引き出しには関連する実物資料が入っていて、18個あるユニットは衣・食・住・儀礼・交易・アイヌ語など多岐にわたっています。
ジオラマは2つあり、1センチぐらいの人が住んでいますが、のぞき板で覗くと1900年頃のアイヌ民族の暮らしを見ることができます。
笹木さんは続けました。
「デザインルールはメッセージを伝えることに重点を置いていますので、そのためにどういう行為をして欲しいかを検証して作っています。例えば、『タマサイ』。これは女性が儀礼の時に使う首飾りです。タイトルはアイヌ語、日本語、英語の三か国語で表示、アイコンにある『やってみよう』では、多様な地域から来た玉を組み合わせてタマサイを模型で作れる展示になっています。実際に組み合わせてつくってみて、首飾りをつけたような写真を撮ることができます。実際のタマサイはガラス玉ですので、どのような交易ルートで入ってきたかという情報、引き出しをあけると実物の資料が出てきたり、『行ってみよう』というサインの場所へいくとケースに入った実物資料が見られたり、という作りを共通のデザインルールとしています。周辺には、交易や輸出入のことがわかるユニットが配置されています」。
さわることはとても楽しいのですが、それだけで終わらないよう、必要なメッセージを伝えることを重要視した構成を心掛けたそうです。
笹木さんは思いを語ってくれました。
「コロナ禍の中でオープンしましたので、残念ながらお客様にまだ自由にさわっていただけない状況でしたが、エデュケーターという専門の教育普及スタッフが、毎日、お客様と会話をしたり、解説対応しながら伝えたり、期間限定で狭い部屋に持って行って衛生に気をつけながら体験していただくということを続けています。ぜひ、お越しいただいて、テンパテンパしていただきたいと思っています。イヤイライケレ(アイヌ語で「ありがとうございました」)」。
写真提供:国立アイヌ民族博物館
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