多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

掲載日: 2025.12.1

多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

世代間の縁を道でつなぐ居場所づくり

子どもたちが地域のお年寄りの憩いの場所を通り抜け、『おかえり』の声がかかる。そんな光景が日常にある施設が東京の下町にある。
そんな多世代交流を促す取組が高く評価され、「深川えんみち」は子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門・優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞した。設計を担当したJAZMA一級建築士事務所の長谷川駿さんはこう語る。

「深川えんみちは 0歳から100歳までの多世代が集い、交わり、縁を紡ぐことができる複合施設になっています。
課題の着眼点として、世代間の分断や施設が地域から孤立してしまう状況などから、子どもの体験の機会が減少しているのではないかと考えました。世代を超えた交流や地域とのつながりを取り戻し、子どもたちの豊かな育ちの環境を作ることができないかということで、このプロジェクトは進められました。
街の日常的な風景の中に、昔当たり前にあったような福祉の風景を取り戻すということを目指して活動をしています。」

多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

子どもたちはデイサービス空間を通って学童へ、自然に交流が

自然と交流が生まれる動線をつくる

建物内には高齢者、子どもが集う様々な機能を持つ空間が存在する。
「場所は東京都江東区深川の下町のエリアです。1階に高齢者デイサービス、2階に子育て広場と学童保育クラブが入っています。
1階に私設図書館であるえんみち文庫を併設して、一般の方も本を読んだり借りたりできる施設になっています。
建物はリノベーションした物件で、元々は 1976年に幼稚園として建てられ、その後斎場として葬儀が行われる場所として使われてきました。地域に親しまれつつも、やや街の裏側のような雰囲気の建物でした。
これを地域づくりの核となる福祉施設として再生するプロジェクトでした。」

多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

園庭と外の回廊。建物をぐるりと回遊する子どもたちのお気に入りの場所

特に目を引くのが、ホールにきれいに並ぶ列柱である。子どもたちの視線からはまるで森のなかを巡っているような感覚になりそうな印象だ。
「列柱を使って子供たちの作品が展示されていたりとか、傘が反対にぶら下げられていたりとか、ホールは色々な使い方ができるようになっています。
法隆寺からヒントを得た列柱が子どもたちの多様なアクティビティのきっかけになっています。また、大きな広場に対して、列柱が1.5メートルというピッチであることで、家に近いようなスケール感となり親密感のある空間が創り出せたかと思っています。
外部にも回廊が巡っており、子どもたちが自分たちの部屋から隣の部屋に回廊を通って行き来したり、外の園庭で水遊びする時の日陰が回廊で作られています。」

多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

元・斎場だった施設をリノベーション、縁をつくる道を中央につくった

交流を促す仕掛けを考えるために工夫したポイントがある。長谷川さんはこう語る。
「空間デザインのポイントは3つあります。1つ目は道です。
深川は賑やかな参道、裏路地、お祭りなど、道を自在に使いこなす下町情緒あふれる街です。敷地は公園のエリア内に位置しており、公園を散歩したり、駅に向かう生活動線となっていたり、様々な人々の結節点になる場所でした。
そのポテンシャルを最大限活かすために、建物の真ん中に道を引き込み、道に面して様々な機能を配置することで、密に生活を感じられる計画としました。
建物の入り口から見通すと、奥の方に光が見えて、入ってくると左に図書館、右におじいちゃん、おばあちゃんがいらっしゃる場所になります。

1階と2階をつなげようと考え、道から連続するように屋外階段も増築しました。
これにより2階の学童に帰ってくる子どもたちが入り口から入ってきて、おじいちゃん、おばあちゃんのいる場所をすり抜けながら、もう一回外に出て、屋外階段で2階に上がる、といった風景が毎日繰り広げられています」。

地域とともに育つ施設を目指して

空間の使い方は物理的な区分けだけでなく、時間軸も考慮されている。 「2つ目のポイントがタイムシェアです。建物の用途と空間を切り離して、緩やかに移り変わりながら、譲り合いながら使っていくことを目指して計画しました。

例えば、2階は午前中は子育て広場として小さいお子さんと親御さんが集い、午後になると学童の子どもたちが 100人以上帰ってきて過ごす場所になります。
1階のかまど広場の縁側のスペースも、デイサービスの方々が夕方ぐらいに帰られるとテーブルが空くので、学童のグループ学習をそこでやったりしています。」

多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

時間帯によってフレキシブルな運用をして、活性化を促す

子どもと高齢者に留まらず、地域住民の参加も欠かせない要素である。多くの人がここに関わりたくなるハード、ソフトが巧みに組み込まれている点が大切だ。
「3つ目のポイントが街との接点です。
あまり施設っぽさを感じてしまうと一般の方も入りにくくなってしまうので、これを払拭し、建物と街が相互に見守り合うような外観を作っています。外から見える位置にはえんみち文庫という図書館を設けており、この図書館は地域の方約70人が一箱分の本棚のオーナーとして登録いただいており、自らがオーナーとなって自分の好きな本を置いて、誰でも無料で借りられるようになっています。

オーナーが自主的に店番や建物の案内役、読書会の実施など、共同で参画をしてくれています。また、かまどでご飯を炊いて皆で食べたり、野菜を育てたりなど地域とのつながりを大切にする活動も積極的に行なっています。
ふらっと立ち寄りたくなる、自分も何かやってみたくなる、ワクワクする空間が深川えんみちの魅力であり、可能性だと考えています。」

多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

地域の人に支えられて、街の愛される図書館に

関わりをつくることが、安心感を生む

長谷川さんは深川えんみちの利用を通じて印象に残ったことがあるという。
「開設から 1年半ほど経ちましたが、様々な活動が行われ、地域の方も積極的に関わっていただけており、子どもたちに料理教室や理科実験など、色々なことを教えてくれています。
学童の子どもがくれた印象に残っている素敵な言葉があります。『子どもも大人も、おじいちゃん、おばあちゃんもいるここは地球みたいな場所だ。』そう感じてくれる子どもたちが育って、また地域に積極的に関わってくれる、それがつながっていくことが、これからの未来の福祉につながっていくのかなというふうに思っています。」
 子育て世帯の孤立、世代間の分断、コミュニティの希薄化が言われて久しい。深川えんみちの取組から見えてくることは、街なかで自然な「縁」をつくる場所の重要性である。
日常的な関わりや記名性は人との関係を近くし、親近感を生み出す。空間がその一翼を担うことが可能であることを、この作品は示しているのではないだろうか。

多世代が共に暮らす「みち」をつくる~深川えんみち

多世代で交流する光景が街の日常になっていく

    
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