【第1回】企業のためのSDGs入門セミナー<講演1>
掲載日: 2022.1.28
2021年11月16日、キッズデザイン協議会では企業を対象にしたSDGs入門セミナーをオンラインで開催しました。SDGs(持続可能な開発目標)は、今や企業活動に欠かせない取組みとなっている一方で、「具体的に何から取組めばいいのか分からない」という声も聞こえてきます。セミナーではSDGsの基本やビジネスで貢献するための施策を解説し、キッズデザイン視点から取組むSDGsについて意見を交わしました。
講演1 「企業のためのSDGs入門」
株式会社日本総合研究所
創発戦略センター
村上芽 氏
■SDGsとは
2030年までに持続可能な世界に変えようというSDGsは、2015年に国連で採択されました。17の目標169のターゲットは、世界中の誰にも関係する課題です。
近年、頻繁に耳にするようになったSDGsですが、突然湧いて出たものではありません。1987年、国連の環境と開発に関する世界委員会が「Our Common Future(私たちに共通の未来)」という言葉を使いました。
これは「経済的に発展することと、地球の環境や資源を守ること、社会的に公平・平等であることは、相反するものではなく両立できる」という概念です。
サステナビリティを重視する動きは30年ほど前からあったのです。
村上氏は「多くの課題が改善されていないどころか、悪化していると思いませんか? 格差・貧困という問題は良くなっていないし、異常気象には慣れてしまっているのではないでしょうか」と指摘します。
ビジネスをする上でも、このまま環境、格差・貧困、ジェンダー差別等の社会問題を放置しておけないとSDGsは誕生しました。
今や学校教育の場にSDGsは取り入れられています。中学・高校・大学の入試問題となり、就職活動でも企業選択の一つになる等、若い世代はSDGsを身近なものとして捉えているのです。
企業のESG、CSR等への取組みは世界的な潮流になり、こうした動きを「共通言語化」したものがSDGsで、村上氏は産業界の役割は非常に大きいと言います。
■2つのキーワード
・No one will be left behind「誰一人取り残さない」
これはSDGsの基本理念で非常に重要なキーワードです。先進国が良ければいい、恵まれた環境にある人が享受できればいいということではありません。
ある企業の例でいうと、育児や介護等の一部の従業員のための在宅ワークの仕組みは、コロナ禍で多くの従業員の在宅ワークの早期実現につながりました。「誰一人取り残さなかった」取組みが役に立った事例です。また、脱炭素のために石炭火力を止めるのであれば、石炭関連の労働に代わる新たな経済基盤をセットで考えていかなければなりません。これは企業と行政が共に推進すべき課題といえるでしょう。
・Bold and transformation change「大胆な変革」
少しの変革ではありません。今までの常識を疑い、それを覆す変革が必要です。
電線の通っていない土地であっても太陽光で発電できればスマホが使えるし、ビジネスが可能です。実際に、大胆な変革が成長のチャンスになるという事例は多いのです。
■17のゴールはつながっている
なぜ、17個で一つなのでしょう?
プラスチックごみと食品ロス問題で考えてみましょう。
▽食品ロスを解消するために賞味期限を延長しようと個包装にした。しかし、結果としてプラスチックごみが増加した。
これだけでもゴール12とゴール14が関係しています。
「プラスチック素材をバイオプラスチックなどのリサイクルしやすい単一素材にすればいいと考えますが、自治体のごみ処理システムが対応していなければ結局は同じこと。食品もプラスチックの問題も、ごみ処理の仕組みにつながっています」(村上氏)
課題同士だけではありません。
気候変動と難民・移民の問題を例に、原因と結果のつながりも見てみます。
▽地中海の東端にあるシリアでは、異常気象による干ばつで農業では生計が成り立たなくなった人々が仕事を求めて都会に移住せざるを得なくなった。その上に、政情不安による内乱が重なり母国から脱している。
環境と社会の問題は密接につながっているということをSDGsは17個のゴールで伝えています。
■コロナパンデミックがSDGsに与えた負の影響
これまでの努力によって少しずつ改善していた課題が、2020年のパンデミックで振り出しに戻ってしまいました。
世界銀行によると1日1.9ドル以下で生活する貧困層は、2020年には3,100万人の減少が予測されていましたが、パンデミックによって8,800〜9,300万人の増加に転じるといいます。
また、飢餓人口はコロナ前に比べ、2億7,000万人に増加(2020年12月時点の世界食糧計画予測)。特に、紛争地域や子どもなどの弱者への影響が深刻です。
一方で、経済停滞によってエネルギー消費・CO2排出量は共に減少すると予測されましたが、経済活動再開で減少幅は限定的。マスクや防護服、テイクアウトの増加で使い捨てプラスチックが大幅に増加しているのです。
村上氏はこれらに加え、「パンデミック世代」とも呼ばれる子どもたちを心配します。
学校閉鎖の影響で十分に学習できないまま社会に出ざるを得ない子どもが全世界で増加しています。
「長期的に見るとイノベーションの創出が鈍化する、21世紀後半はマイナス成長になるのではないかという説まであります」(村上氏)
■カーボンニュートラル実現へ 一刻の猶予もない
2050年までに温室効果ガスの排出と吸収をネットゼロにしようというカーボンニュートラル。魔法のような発明が一気に問題を解決してくれるはずもなく、カーボンニュートラル実現には2030年に向けたこれからの9年は非常に重要です。
しかし、「魔法の杖」に期待する他力本願的な空気を感じると村上氏は危機感をにじませます。
■日本の優先課題
政府は日本の現状に合わせ、8つの優先課題を掲げています。
「ジェンダー平等」「防災」は2019年の改訂で強調されました。「防災」は自然災害が多発する日本では考えずにいられません。「ジェンダー平等」は世界的にも遅れをとっていると言われる項目です。
また、政府は「SDGsアクションプラン」を毎年公表しています。内閣府が認定する「SDGs未来都市」は現在124都市、2024年までに210都市に増やす予定で、政府は環境・社会・経済の3つの側面から価値創造とその実現を図る方針を示しています。
しかし、国連加盟国のSDGs達成度ランキング(2021年6月発表)によると、日本は165カ国中18位でした。
村上氏は、これまでのSDGsの取組みを大きく否定するわけではないと前置きしたうえで、「今まで通りの取組みをSDGsに当てはまるだけでは達成は難しいのです。大胆な変革というものが求められています」と訴えます。
■リスクはチャンス
ビジネスを通してSDGsに貢献するとはどういうことでしょうか。レゴ社とスターバックス社の取組みを見てみます。
レゴ社は、プラスチック素材で出来ているブロックを、品質と安全性を担保しつつ、植物性の素材等のサステナブルな資源活用に舵を切りました。植物性素材のブロックを一部に使ったアイディアツリーハウスです。
世界のコーヒー豆の5%を購入するスターバックス社では、異常気象や気候変動といった生産者の生活にも直結する課題を認識し、独自の認証プログラムを確立。良質な豆を生産し、適正価格で購入することで生産地の生活水準を高めようとしています。
両社ともビジネスの持続的な成長に向けて、自社のリスクをチャンスとして捉えています。
一つのモノには表と裏があります。リスクをチャンスと捉えることは非常に重要になってくるのです。
■ロジックモデルで考える
村上氏はSDGs達成に向けたアクションをロジックモデルで説明します。
スクーターを例に、今ある取組みからSDGsを考えてみましょう。
【ASEANのある国で女性向けのスクーターを販売。購入した女性は少し遠い市街地に通勤でき、収入が高くなる可能性がある。】
→ゴール5(ジェンダー平等を実現しよう)とゴール8(働きがいも、経済成長も)に関連し、ポジティブな影響が生じます。
スクーターを販売する会社は、アウトカムとインパクトの予測と同時にネガティブな影響を考えることも重要です。
【スクーターが増え過ぎれば、交通量が増え、交通事故の増加につながる可能性がある。】
→ゴール3-6(すべての人に健康と福祉/道路交通事故の死傷者半減)を念頭に、最初から交通事故を減らせるような対策を検討しておくと良いでしょう。
次は、ゴール12(つくる責任・つかう責任)から食品ロスをスタートにSDGsの取組みを考えてみます。
ゴールの側から、長期的・短期的な取組み、具体的なアクションをブレイクダウンしていきます。例えば、飲食店の食べ残しに注目し、食べ残しを減らすための施策を考えることができます。
「社内でやってみると、色々なアイデアが出てきて面白いです。答えは一つではありません」(村上氏)
今出来ることだけでなく、パートナー企業が「こういうことをやってくれたら、出来る」というものがあってもいいのです。そこから新しい提案が生まれ、周りを巻き込んだ新たなプロジェクトが誕生するかもしれません。
■「SDGsウォッシュ」にならない
ポジティブな取組みばかりでネガティブな面への配慮を欠くと、SDGsウォッシュと批判されかねません。
太陽光発電のために、過剰に森林を伐採して太陽光パネルを設置する――この矛盾に気付いている人が増えていると感じると村上氏は言います。生活者はしっかり見ているのです。
■子どもとSDGs
「子ども」をキーワードに関連する項目をピックアップすると、関連するゴールが8つもあります。
ゴール2(飢餓をゼロに)は、子どもの食事はもちろん、妊婦、授乳婦への栄養まで含まれてきます。また、若い世代の精神疾患が大きな問題となっていることを考えると、ゴール3(子どもの事故予防、病児ケア、メンタルケア)が関係してきます。
「男の子だったら○○がいい」「女の子だったら△△がいい」という無意識のバイアスは、ゴール4a(キャリア・専攻)に関係します。
「大人が言い方を考えなければいけないし、どちらも勉強できる環境を作らなければいけません」(村上氏)
こうして一つ一つ見ていくと、SDGsにはあらゆるものが含まれていることがわかります。
村上氏は「何をすればもっと良く出来るのか考え、つなげてもらえたら嬉しいです」とSDGsへの取組みを呼び掛けました。
講演2「キッズデザインに取組むことはSDGsに取組むこと」に続きます。
文章:遠藤 千春