街に見守られ、街とともに育つ、高架下でのびのび保育
掲載日: 2022.12.8
立ち退き後の空間に街のシンボルとしての保育園を
少子化対策担当大臣賞を受賞した「町屋高架下保育園」は、鉄道の高架下にある下町の情緒を感じさせる、地域に親しみのある保育園です。設計を手掛けた秋山隆浩建築設計事務所の秋山隆浩さんに聞きました。
「東京の下町、荒川区町屋の鉄道高架下にある保育園です。この高架は1931年頃に作られました。高架下は住宅や商店が建ち並び、昭和の下町的な暮らしが街に現れるような場所でした。阪神大震災を契機とした高架下の耐震補強工事のために、これらの住宅などが全て立ち退きになりました。耐震補強後はしばらく空地のままでしたが、再開発の端緒として保育園が作られました。高架は荒川区を東西に横断し、あたかも街を分断するかのようでした。そこで高架下を活かした保育の場を作ると共に、保育園を作ることによって街の風景を豊かにしたいと考えました」。
耐震補強工事で立ち退きがあった高架下に建てられた保育園
特殊な敷地に込められた設計の工夫
古い高架だったため、近年の高架に比べて柱のスパンが6メートルと小さく、重々しい感じがあったそうです。この高架の下に建てる保育園ということで、縮こまった感じにはしたくないと秋山さんは考えました。そこで、敷地一杯の長さ、70メートルほどを使って大きく屋根をかけることにしました。
「高架のスケール感と建築のスケール感を調和させようと考えました。また、大きな屋根がつくる軒下空間を介して、街と保育園を緩やかにつなぐことを考えました。大屋根の下、保育室は大小2つの園庭を挟んで3ヶ所に分かれています。
大きな園庭は走り回れる人工芝、小さな園庭は全体が砂場です。前面道路から見ると左手に0歳児室と1歳児室。砂場を挟んで中央に2歳児室と調理室、事務室。人工芝の園庭を挟んで右手に3~5歳児室です。エントランスを入ると軒下の外廊下があり、テラス状の半屋外空間になっています。ここが中間領域になっていて、全体をつなぐ役割を持っています。道路と保育園の境界は金網のスクリーンとの植栽で柔らかく仕切られています」。
高架下ながら、遊びや明るさを取り入れるさまざまな工夫がある
子どもたちの姿が外から見える、温かな光景
園庭には屋根を有効に活用した遊具が吊り下げられていたり、地面が盛り上がった築山のような遊び場もあります。
最近、都市部で問題になっているヒートアイランド現象(都市の気温が周囲よりも高くなること)があり、猛暑など気候が厳しいため、高架をうまく使って都市の厳しい気候から子どもたちを守る場を作りたいと考えたそうです。長い空間を活かした楽しい遊具や高架の天井に反射する柔らかい光が注ぐ光景が印象的です。
「外から見える園庭は近所のお年寄りが通りかかるといつも園児に声をかける、そんな場所になっています。夕方の軒下空間はお迎えに来た保護者達と園児、保育士のコミュニケーションの場です。保育園の日常が街に現れる、下町的な開放感のある空間になりました。街を分断していた高架下が親しみの持てる場所に変わったと思います」。
室内も明るく、木の柔らかな感じが子どもたちを優しく包み込んでいます。高架下という限られた空間ながら、街と子どもをつなぐ様々な工夫があり、街の風景の一部になっていく、素敵な保育園になりました。
地域の人との会話も、お迎えの時間も街の温かな風景のワンシーンだ