キッズデザインミーティング 特別講演 米倉誠一郎氏セミナー開催

掲載日: 2023.7.10

特別講演「未来の子どもたちに残せるもの サステナビリティとイノベーション」


米倉誠一郎氏 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
一橋大学イノベーション研究センター名誉教授
(社)Creative Response-Social Innovation School学長

《SDGsを目標に日本の強み発揮》


黒船来航から始まり明治維新、第2次世界大戦、オイルショック。近代化、復興、経済発展を遂げ、近代日本は国際社会の中で何度も危機を乗り越えてきました。しかし1990年にバブルが弾けて以降の日本は、未だに沈黙したままです。

これまでの立ち直りを振り返ってみると、日本は共通目標を持つと強い。
今、『誰一人取り残さない』というSDGsが唱えられていますが、SDGsは次の目標になり得ます。
日本は小さく、資源もありませんが、世界中の子どもたちから「一番頑張ったのは日本だ」と言われたいじゃないですか。経営資源を集中させてみてはどうでしょう。

決して楽しい作業ではありません。
これまで危機を乗り越えてきた日本は「楽観主義」だったと言えるのではないでしょうか。

A pessimist sees the difficulty in every opportunity
An optimist sees the opportunity in every difficulty
悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見出す
楽観主義者はあらゆる困難の中にすら好機を見出す
(ウィンストン・チャーチル/イギリス・首相)

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する
(フランス哲学者アラン)

楽観主義は「何とかなる」ではなく、現実を直視し「何とかする」という強い意志が必要です。


《日本の現状》


ASEANの調査(2018年)では「平和・安全保障・繁栄」において信頼できる国の1位は日本(61.2%)でした。2位のEU(38.7%)を大きく引き離しています。さまざまな調査を見ても世界の国から信頼されていることがわかります。

一方で経済的には1998年から2022年まで1.23倍とほとんど成長していないのが現実です。中国は約14.9倍、インド6.3倍、韓国でも4.26倍。 OECD37カ国の生産性比較(2022年)では27位。イタリア(16位)やスペイン(19位)よりも時間あたりの生産性が低く、平均賃金ランキング(OECD調査2020年)は22位です。
日本は「生産性が低くて 給料が安い国」になっているのです。

《生産性=総産出量➗総投入時間》



生産性を上げるためには、「総産出量を増やすか」「総投入時間を減らすか」です。
総産出量を増やすには、価値のある仕事をし、世界で最も良い品質に相応の値段をつける勇気が必要だ。日本人にはその勇気が足らないのではないか。

「Well-being」が流行っています。幸福度は創造性で4倍に、生産性では1.3倍になるというデータがありますが、イタリアやスペインが日本より上位なのは「Well-being」が高いからではないでしょうか。 食べて歌って恋をして。口角が上がっているからではないでしょうか? 日本人も口角を上げて楽しく、愉快に働くことが大切です。

生産性を上げるもう一つの方法、総投入時間を削減するにはDXしかありません。
アルファロメオは中国のアリババと組んで、わずか33秒で高級車を350台完売しました。アリババの持つビッグデータを利用したのです。


《イノベーションは手段》


「イノベーション」はあくまでも手段であり、目的ではありません。また、技術革新だけを指す言葉でもありません。
オーストリアのヨーゼフ・シュンペーターは、「馬車を何台繋いでも、機関車にはならない」と言いました。質的な変換が必要だということです。

アメリカのフレデリック・スミスという学生が、「アメリカ150都市すべてに、翌日に荷物が届く配達システム」を考えた。
149都市から夜中の12時までにメンフィスに荷物を空輸し、メンフィスではその荷物を巨大なベルトコンベアーで送り先を振り分け、飛行機は荷物を積み明け方までに各地へ戻る。
このアイデアは教授にC評価とされたが、彼は後に「FedEx」を立ち上げました。

この「ハブ&スポーク」戦略は技術革新でしょうか? 違いますよね。新しい技術は何も使っていませんが、イノベーションなのです。
このイノベーションがなければ、現在の配送システムはなかったかもしれません。

《新しい何か》


シュンペーターは、
“The doing of the new things”
何か新しいことをやるんだ
“The doing the things that are already being done in a new way”
やられていることでもいい 新しくやれ

と言い、5つの提案をしました。
1 新しい製品の導入(New products)
2 新しい生産方式の導入(New processes)
3 新しいマーケットの発見(New markets)
4 新しい素材(New materials)
5 新しい組織の導入(New organizations)

新しい商品とは、テスラの電気自動車や量子コンピュータ、バイオテクノロジー等。安全カミソリも素晴らしい開発です。
新しい生産方式とは、すでにあるものの組み合わせと考えます。小さいヘッドフォンとテープレコーダーを組み合わせて「ウォークマン」が誕生し、歩きながら音楽を聴けるようになりました。ジレットは安全カミソリを3枚刃、5枚刃と工夫しました。すでにある良いものを、より良くしていきます。
新しいマーケットの発見も実はイノベーションです。業態の既成概念を超えるのです。
JINSは、PC用メガネでメガネを掛けない人にメガネを売り、居酒屋は「女子会」という発想でマーケットを倍にしました。
人口25億人のアフリカは新マーケットの重要拠点となるでしょう。しかし、彼らは日本製、中国製、韓国製の区別はつきません。いくら性能が良くても、安い方を選択します。では、どうやって売りますか?

松下幸之助は、角型ランプを開発した際、電池会社に年内に20万個売ると約束して1万個の電池を無償提供してもらい、大阪中に1万個の角型ランプを無料で配布した。この戦略は功を奏し年末までに45万台を販売した。

松下幸之助は当時、フリーミアムで商品を売ったのです。
アフリカではサブスクリプションやフリーミアムが良いでしょう。
問題は、どうやってビジネスにするのか。良いものを作るよりも、難しい問題です。

《破壊的イノベーションと多様性》


顧客ニーズとは程遠く、低品質で低機能なのに高価格なものが売れているという商品があります。
クリステンセン氏は、こうした現象を「破壊的イノベーション」と呼びました。
大企業の経営者が破壊的イノベーションを見逃すのは、「優秀だから」とクリステンセン氏は言います。
完璧なバリューチェーンを作り、顧客の声をよく聞き、一つ一つ弱点を潰していく。新しい音は、ノイズでしかないのです。
しかし、そのノイズの中に新しい可能性が含まれています。

気付かぬうちに、日本はGroup Think(集団浅慮)になっていました。同じような人間の集まりでは、思考が浅くなり、新しいものに気付けません。
多様性が高いDiversity Thinkでは、決まりきった考えに染まった思考回路から抜け出し、新たな行動に移ることができます。
すでにあるものを新しくやるイノベーションとは、これまでと違った見方が必要だということです。
「ワカモノ・ヨソモノ・バカモノ」大歓迎。多様性を受け入れていかないと日本は変わらないでしょう。

《「希望」を残そう》


未来の子どもたちの残せるものは「希望」しかありません。
いろいろな人間がいてこの世界は面白い。それぞれに強さがある。キッズデザインもそう。
日本人は先進国の中でも自己肯定感が一番低く、子どもたちの45.8%しか自分に価値があると思っていません。アメリカでは82%も持っているのに。
ハーバード大学のハワード・ガードナー教授がマルチ・インテリジェンス理論を唱えました。人間の知性は算数や国語だけでは測れない8つの要素から成り立っている、という理論です。論理(数学)的・言語(国語)的に加えて対人的・博物学的・視覚空間的・内省的・身体運動感覚・音楽リズムという8つの窓口があるというのです。
子どもたちに多様性を与えて自由にさせたら、生き生きするし、あらゆる可能性が広がることでしょう。
障がいのある子どもと同じ教室にいれば、自然と優しくなります。ハンディキャップのある人に優しいものが、一般の人に優しくない訳がない。
アフリカの諺です。
早く行きたいなら1人で行け
遠くまで行きたいならみんなで行け
If you want to go fast, go alone
If you want to go far, go together

これまで日本は、ひとりで上手くやってきました。しかし、遠くまで来てしまった。
これからはざまざまな人、国、セクター等と一緒に歩んでいかなければならないでしょう。まずは、大人がパラダイムチェンジする。
「世の中にはいろいろある」というのが大事なのではないでしょうか。
    
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