2025年、キッズデザインのある街で

Story 2

僕の好きな場所は、世界につながる入り口

面白いと思ったこと、美しいと感じたもの、いつでもどこでも、発見できる
情報化が進んでも、世界にはまだまだ知らないことがたくさんある
それを知ることで、もっと知りたくなる

2年生の長男は義父の影響もあって、大の科学好き。こちらへ引っ越してからは、昆虫採集に夢中だ。 ハンディの顕微鏡とモバイルカメラを持って、珍しい昆虫を見つけては写真を撮っている。写真や動画はSNSへアップする。今ではちょっとした昆虫博士として、SNSでも話題になっているほどだ。

ある日、ネットでこの地域の昆虫検索をしていると、年前までこの辺りで普通に見られた蝶が今ではほとんど見られないことに気づく。夫にそのことを話すと「温暖化の影響かもしれない」という。週末に出かけた科学館でインターネットとリンクした、巨大なデジタル地球儀に出逢った。地球規模で温暖化が進んでいること、その原因は暮らしの身近なところにあることも教えてもらった。
地元のサイエンススクールは科学と社会、環境など複数のテーマを統合的に学べるサードプレイスだ。長男も週に1回通っている。
タブレット端末で「地域の昆虫」を検索すると、多様な種類の昆虫とその主な生息地が表示される。お気に入りの昆虫を探しに森へ出かけることもしばしばだ。その際もGPSを使った見守りサービスでどこにいるかが両親の手元ですぐわかるため、家族も安心できる。

最近はブロックを組み合わせるプログラミングツールで、家の近くに集まる昆虫を時間撮影できるキットをつくった。もちろん元エンジニアの義父の手ほどきを受けながら完成させたものだ。長男がお気に入りの触感や温湿度を計測するセンサーを搭載したブロックを組み合わせ、昆虫がその周辺に近寄ると自動的に映像を撮ることができる。
温度センサーを使えば、季節や気温の違いで昆虫の動きがどう変化するかも観察できる。この成果を今度、SNS上で開催されるグローバルサイエンスイベントで発表するつもりだ。

近くにメーカーの大型工場があることもあって、学校にはアジアや欧米、最近はアフリカから来た同級生がいる。彼らにも今度サイエンスイベントで発表する予定の昆虫レポートを多言語化ツールで翻訳し、見てもらった。海外にはもっと大きく、珍しい昆虫がたくさんいる、と言っていた。
海外の昆虫のことももっと知りたい、と長男は思った。

SDGs(持続可能な開発目標)が制定されたのは今からもう10年前の話だ。長男はまだ行ったことのない海外の国から来た同級生から、その両親が子どもだった時代にあった話を聞いた。学校に行きたくても行けなかった友達のことや環境の悪化で健康被害を受けた子どものこと、悲しい戦争に巻き込まれた家族のこと…、今の暮らしからは想像もできないような現実がそこにあったことを、長男は初めて知った。SDGsがどういうものなのか、長男にはまだわからなかったが、昆虫だけではない、知らない世界で起こるさまざまな出来事がもっともっとあるのでは、とその時強く思った。
いつも思うのは海外の友達は、僕はこう思う、とはっきり言うことだ。多様性を理解し、貧困や飢餓の撲滅、衛生や教育、ジェンダーの平等を謳うSDGsの達成目標年まであと5年。これからの時代を担う子どもたちには、いつの間にかその土台となるような考えが芽生えているのかもしれない。

いよいよSNSのサイエンスイベントが開かれる日が来た。自分の研究やレポートをアップロードし、海外の有識者や子どもたちが面白いと思った作品に投票する仕組みだ。皆、工夫を凝らした構成で見ていて楽しい。長男も自分で撮影した昆虫の動画や写真、日記をアップロードした。家の近くの昆虫の生態記録の評価は上々で、いくつもの国の友達から「good!」の声が届いた。すると、アメリカの同じ小学生から、「今度、世界の虫たちのドキュメンタリー映画をつくろうと思っているんだ、よかったら参加しないか」と誘いのメールが舞い込んだ。君の研究の動画も使わせてくれないか、という依頼だった。 でもそのためにはもう少し調査を続ける必要がありそうだ。科学館のサイトからネットを通じて、昆虫学者へ直接、質問ができるサービスで、この昆虫の巣や食べ物などのことを教えてもらった。早速、その動画を撮りに行き、アメリカの友達に送った。ウェブ上でやり取りできるクリエイティブツールがあれば、動画編集も多言語化も簡単にできる、と友達から聞いた。どんなドキュメンタリー映画ができるのか、今からワクワクしている。

    
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