2025年、キッズデザインのある街で
地域で育てる子どもが、地域の人を育てる
この街の魅力を話してくれる
なつかしい料理の味を教えてくれる
やがて時代の主役になるこの子たち
世代を超えて
立場を超えて
共に育てることで
街も大人もまた活き活きとなる
こうした背景もあって、地元企業への転職組も増えつつある。地元企業はフレキシブルな勤務形態が根付いていて子育てにも理解があるので、待機児童や小4の壁の悩みはほとんど聞こえてこない。妻のように勤務時間を融通したり、自宅以外で仕事をすることも頻繁にあるので、気軽に仕事ができる公共施設内の共有スペースやカフェも街のあちこちに見られるようになった。
子育て支援サービスも公共、民間とも充実している。なかでもITを利用したタイムリーなサービスは共働き世帯の強い味方だ。一時預かりや病児保育もフレキシブルに対応をしてくれるので、仕事の繁忙期には頼もしい。どちらもスマートフォンのアプリサービスで、「預けたい人」と「受け入れ可能な人や施設」を瞬時にマッチングしてくれる。子育て経験のある女性や元保育士がスタッフとして働いているので、安心して預けることができる。子どものかかりつけの病院やアレルギーや既往症記録、これまでの通院履歴などは生まれた時から時系列で一元情報管理され、データベースに収められているため、急な病気になってしまっても、預け先の施設では的確な対応ができる。
多世代交流を重視した自治体の方針で、保育施設と高齢者施設が同じ敷地内にあるケースも珍しくない。週に1〜2度は子どもたちが高齢者施設を訪問して、地域のNPO主催のワークショップに一緒に参加する。週末には、地域の伝統料理のレシピを高齢者が伝授してくれる親子向けのプログラムもある。こうすることで、地域の子どもや親、高齢者どうしで面識も生まれ、子育てに対する理解や地域の子どもへの愛着が育まれているようだ。この地域は比較的、敷地に困らないため保育園の建設問題は聞こえてこないが、都心ではまだ敷地確保に頭を悩ませるエリアもある。私の子ども、他人の子どもという意識ではなく、地域で子どもを育てるという意識がもっと高まれば、こうした問題の解決策も見えてくるのではないか、と妻は思った。
今日は妹夫婦も集まって、義父母の家へ遊びにいく日だ。「健康寿命の延伸から現役寿命の延伸へ」と明確な方針を打ち出したこの地域では、 歳からのセカンドキャリア、サードキャリアを謳歌している高齢者が実に多い。義父母ももちろんその一員だが、多世代交流が子育てに貢献するプログラムも多く実践されている。「シニア・ジュ ニア・プログラム」では多様なスキルを持った高齢者がものづくりや農林水産業、地域の伝統産業や技術を直接教えてくれる。子どもの年齢や興味関心に応じてきめ細かなプログラ ムが用意され、好きな講座はネット上で検索、予約もできる。
健康や安全をサポートするスタッフも常駐しているため、子どものみならず、高齢者にとっても安心だ。子育て世帯は選んだ講座へ子どもを預け、プロ グラムの参加費を支払う。参加費はシステム内にデポジットされ、それは高齢者講師の報酬として支払われたり、施設の設備や備品購入に使われる。地域通貨の子育て版ともいえるこの仕組みをこの地域は初めて実現した。
今日はそのプログラ ムの実施日だ。ものづくりから料理まで多彩なプログラムが用意されており、会場も賑わいを見せている。
義父は参加している子どもたちのアイデアで、「高齢者見守りキット」を企画した。
この地域では、一人暮らしの高齢者の家を地域の子どもたちが回り、最近のできごとや気になっていることを聞きながら、健康維持や犯罪防止のために活動するプログラムを実施している。
見守られる立場だけではなく、見守る立場に子どもが立つことで、地域や人のことをより深く知ることができる素敵な取り組みだ。
義母は親子ガーデニング教室を開いている。身近なところで手に入る季節の草花を使って、インテリアにもなりそうなコンパクトなガーデンキットをデザインする。義母はいつも子どものアイデアに驚かされるらしい。「この子たちは生まれた時からビジュアルに敏感で、美しい風景やかわいいアクセサリーの写真をたくさん撮ってSNSで紹介していたから、きっとデザインの感性がものすごく磨かれているのね」と感心したように話していた。どちらも人気講座で、子どもと一緒にいることで活き活きとする二人の姿を見て、改めてこんな暮らし方をしたいな、と夫婦は思った。
この地域も5年ほど前までは少子高齢化で人口が減り続けていたが、ここ数年で子育て世帯の移住が増え、施設やサービスも充実してきた。かつて 分譲地として開発されたこの地域では、年ほどが経過した後高齢化が進み、ストック住宅問題が取りざたされた時期があった。人口が減っていくなかで、ストック住宅を子育て世帯向けにリノベーションし、金利の優遇制度も合わせてPR をしたところ、多くの若い世帯の流入に成功したのである。子育てしやすい街をテーマに、自治体も取り組みを推進してきた。特に3人以上の子どもを持つ世帯には優遇制度があり、公共交通や施設利用、日用品や子ども用品の割引が適用される。子どもが生まれた時には「子育てギフト」として、哺乳瓶や抱っこ紐、産着などの育児用品がプレゼントされる。ウェブから好きなデザインを選べるので 、組み合わせを考えるのも楽しい。