2021.11.18

「勉強は親子で一緒に楽しむもの!」~しゅくだいやる気ペン開発者・中井信彦さんインタビュー(後編)

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前編からの続きです。

監視ツールではなく、親子に寄り添えるツールを

私たちが最初に考えていた「子どもの見守りツール」は、遠くから「今日もやってるな」と、ある意味では「監視ツール」のようになってしまっていました。それは、「子どもが勉強になかなか取りかかれないけれど親として寄り添って何とかしてあげたい」という親子とは、真逆の方向性だったと思います。そちらの方向にいきそうになったのをストップして本当に良かったです。

勉強をしなければいけないけれど遊んでしまう子どもたちと、寄り添って何とかしてあげたいと思っている親御さんたちのボタンの掛け違いみたいなものがあったので、そこをなんとか解決でき、親子の助けになる製品を作ろうと考えていきました。

「しゅくだいやる気ペン」は普段使っているえんぴつにつけるだけでよく、これを用いて勉強すると、アプリが日々の努力を見える化して、習慣化をサポートします。お子さん自身が楽しんで勉強に取り組むことができ、親子のコミュニケーションのきっかけにもなるのが特徴です。

子どもたちの「知りたい」に火をつける

工夫したのはどんな点ですか?

アプリ内のステージのコンテンツですね。

最初に18ステージ作ったのですが、どんどん増えています。序盤ではフルーツや筆箱など、子どもが興味を持つ身近にあるものをテーマにすることで、何が好きとか何が食べたいとか、そういったことを親御さんに話してほしいと思って。

ステージが上がっていくと、恐竜やプラネタリウムなど少し難しいテーマも出てきます。だんだん自分の身近なものから遠くなっていく設定になっていて、この子がどういうことに興味があるのかな?一緒に調べてみようか?など親子のコミュニケーションをしてほしいと意図しています。さらに、JAMSTEC(海洋研究開発機構)さんと一緒に作った深海のステージでは、実際に使われている有人潜水調査船「しんかい6500」の解説が出てきたりします。

海底まで潜って地球を調べに行く人が、JAMSTECさんには本当にいるんですよね。「何のために宿題やるの?」と思うじゃないですか。でも、毎日頑張って、その日々の積み重ねが、最後に海底まで自分の知りたいものを探しに行くような世界に繋がるんだよ、といったことが伝えられたらいいなと思っています。

18ステージやっていくとだんだん自分の世界が広がって、最後は自分の興味がある方へどんどん学んでいって、深海の探検に行く子がいるかもしれないし、南極でも宇宙でも好きなところに行けばいい。でも知って終わりじゃなくて、「何かを知りたい」「行ってみたい」といった気持ちの強さに火をつけたいんです。

あくまでも製品は、子どもたち自身がもともと持っているやる気の補助輪でしかありません。

一度火がつけば、子どもたちはもう内発的な動機付けで勉強をし始めるのではないでしょうか。

いつか「しゅくだいやる気ペン」がきっかけで南極観測隊や宇宙飛行士になった、という子が現れたら……。

それはもう、本当に夢ですね(笑)。

日記を書くのが好きになったお子さんも

子どもたちの印象的なエピソードを教えてください。

日記を一行も書けなかった子がいました。でも、やる気ペンを使ったら、光るのが楽しくて、この色を変えるために頑張って書くんです。初めは一行、二行から始まり、慣れていくと、次第に日記を書くために「来週はどこに行くの?」と親御さんに尋ね始めたそうです。書くということが自分の表現になってきて、これがまさしく内発的動機付けに変わっていく。それをよく表しているお子さんのエピソードだと思います。

また、長くやり続けていくと1年間で200個もはなまるをもらったということが一覧にして見られます。するとお子さんは「わたしはこんなに頑張ったんだ」と、勇気を持ってくれます。さらに、自分がやっただけではなくて、親御さんが毎回そのはなまるをつけてくれているので、その子にとってより大きな喜びや嬉しさにつながっています。

今後の展望について教えてください。

やる気ペンは、入り口の商品だと思っています。まず勉強することに取り掛かりやすくするツールであって、親御さんとのコミュニケーションの中でその自分のやっぱり興味っていうのがはっきり見えてきて、「わたし、それ知りたいから頑張る」と内発的な動機を生む支援をやってきたいなと思っています。

個人的には、やはりものづくりが好きで、ものづくりによって誰かの役に立ちたいです。ものを作って、それを世界の人たちが使って行動が変わっていき、幸せになるのが理想で、まだ途上です。これからもものづくりを通して、人類に貢献したいと思っています。

ものづくりへの情熱を溢れさせる中井さんは、これまで他の取材では語っていなかったエピソードも語ってくださいました。子どもたちや親御さんの「幸せ」のために、あきらめずに開発を続けた中井さんと開発チームのみなさんの姿勢が、「しゅくだいやる気ペン」を通じて、子どもたちや親御さんにも伝われば嬉しく思います。

右)コクヨ 中井さん、左)インタビューアー:キッズデザイン協議会 職員

【キッズデザイン賞】
しゅくだいやる気ペン

キッズデザイン賞マーク
文章:遠藤 光太