2022.2.7

ジャクエツ「CLIMBING WALL GAMBA」開発インタビュー(前編) ~遊びを超えた価値を子どもに~

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今夏の東京五輪で初めて正式種目として実施されたスポーツクライミング。ひと昔前に比べて街でボルダリングジムを見かけることも随分増えました。
その中で、子どもが遊具を使って安全に、また本格的にクライミングにチャレンジできるよう開発された、ジャクエツさんの「CLIMBING WALL GAMBA」。
今回はその設計秘話をお伺いしました。取材には、スペースデザイン開発課の坊さん、藤井さん、吉田さんが参加してくださいました。

左)藤井さん 中央)坊さん 右)吉田さん(オンライン参加)

年齢の違う子どもたちが交ざり合って遊べる工夫を

最初に、「CLIMBING WALL GAMBA」開発のきっかけについて教えて頂けますか?

(藤井さん)クライミング遊具っていうのは、前からあるにはあったんです。クライミングは全身をバランス良く使う身体感覚やゴールまでのルートを考え抜く思考力が求められます。クライミングを通して子どもたちの心身を育むことができるのではないか、自分で工夫しながら目標に向かって繰り返しチャレンジしたり、達成感を得ることができる、今まさに求められている遊具なのではないかと考えていました。そんなところに、オリンピックで正式種目にもなり、世間的にもクライミングへの注目は高まってきた。それで、一気に開発が加速したんです。そこから更に踏み込んで、「自社でどうせ作るなら新たな付加価値を持ったものを作ろう」という考えで開発がスタートしていきました。

その「新たな付加価値」の中に、小さい子ども(対象年齢2~6歳)を対象にしている点も入ってくるのでしょうか?

(藤井さん)そうですね。クライミング遊具の対象年齢は3~6歳が一般的で、弊社でもそうでした。落下の危険があるので、低年齢児を対象とするのが難しかったんです。でも、社会的な動きの中で、低年齢児も含めてクライミング遊具を活用することが大きな価値を持つと考えました。

具体的には、どういう工夫がなされているのでしょうか?

(藤井さん)クライミングの壁の下に台のような出っ張りがあるんです。チャレンジステップっていう名前で、特許も取得しているんですけど。
ホールドではなくこのステップに足を置いて体を安定させながら、手でグリップを握りながら横移動をしていきます。 今まではクライミングで遊ぶことが難しかった2歳児のような小さい子どもでも、このチャレンジステップを使うことで、安全にクライミングに挑戦することができるんです。
でも、小さい子用と銘打ってはいますけど、納入園に話を聞くと、実際は意外と大人がステップを使っていたりもするみたいなんです。
クライミングって運動習慣のない大人には難しかったりするので、保護者の方もステップを使えば子どもと一緒にそこで遊ぶことができる。
その意味で、今までのクライミング遊具にはなかった価値をつくることができたかなと思います。

試行錯誤の末に完成した、本格的なオリジナルのホールドとルート

ほかに「付加価値」というのはどういった部分になるんでしょうか?

(藤井さん)オリジナルのホールド(※1)や子どもたちの体の成長に合ったルートを開発していることですね。 ルートの配置については、今までも本格的な技術者である東秀磯先生の監修を受けていたんです。今回のGAMBAはプラスアルファで、子どもの手の大きさに合った本格的なオリジナルホールドを制作しました。

この、ホールドの一つ一つを。

(藤井さん)はい、材質から形状まですべて一から研究しました。一般に売っているものもあるんですけど、子ども用のホールドは数が少なく、国産のものも少ないんです。
特に幼稚園・保育園で使うとなると安全性やメンテナンス性の問題で適さなかったりもするので、その点を考慮して開発を進めていきました。

ホールドは、安全性の部分でいうとこちらも特許を取得した技術が使われています。
ホールドを壁に取り付ける時、普通は一点で固定すると回ってしまうんですね。なので一般的なジムだとさらに回り止め用のビスが打ってあるんです。
もしくは、二点で止まっている。ただ、ビス止めをすると、ビスが外れたときに怪我に繋がる危険性がある。一方、二点で止めるとホールド自体が大きくなってしまって、子どもの手のサイズに合わなくなってしまいます。
従来の止め方にはいずれも課題があったので、その解決のために弊社で専用の八角形の鋳物を作ることになりました。
これによって、ボルト一本で止めても八角形の鋳物がかみ合うことで回転するリスクを最小限にすることができ、安全性を確保できる。また、クライミングって今までは一回納入するとルートを変えられなかったんです。それが今回の鋳物を使うと、ボルトを一本外せば簡単に付け替えが可能で、ホールドの角度も8方向(45度)に簡単に変えることができる。何年後かに新たにルートを組み直すこともできる(※2)という付加価値もつきました。このホールドの課題を解決する形状を考案したのが一つ大きな特徴になります。

(坊さん)ホールドの形状の決定については、私たちのチームでも吉田が中心になって進めてくれました。発泡スチロールを材料に一度自分たちで実際に削って作って、試作でいろいろ検証してから本物の鋳物で実施していく、という工程をとっています。最終的にこのホールドは全部で28種類できました。

(藤井さん)GAMBAの開発は、多くの専門家の方々にご協力いただきながら進めさせていただきました。クライミング施設の設計・施工、スポーツクライミング理論における日本の第一人者である東秀磯先生には開発の初期段階からご相談させていただき、全体の監修もお願いしました。ホールドの形状・ルート設定についても、東先生と元日本代表のヘッドコーチの経験をお持ちの木村伸介先生にご協力いただいて、細部までこだわり、より本格的なクライミング遊具を目指しました。

ホールドは色によって、黄色が易しい、青色が普通、赤色は難しい、と難易度を分けています。単純に見えますが、それぞれ掴み方が異なり、ホールドの大きさや形状については試行錯誤しながら開発を進めました。このホールドを使って、3コースの難易度の異なるルート設定を行うことで繰り返しチャレンジできる本格的なクライミング遊具を完成させることができました。

後半につづきます。

注解: ※1:ホールド クライミングの際に遊戯者が掴んだり握ったり足をかけたりする石のこと。
※2:付加価値 従来の固定方法だと、一点止めをした場合、ビスで追加固定をするため、ホールドの角度を変えるとビスの穴が見えてしまうことがあった。
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