2022.2.14

ジャクエツ「CLIMBING WALL GAMBA」開発インタビュー(後編) ~遊びを超えた価値を子どもに~

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前編からの続きです。

試作品を遊ぶ子どもの様子が、商品名を決める

試作段階では実際に子どもに触ってもらう、といったこともあったんでしょうか?

(藤井さん)そうですね。幼稚園と保育園の園児、それから社員の子どもに実際に遊んでもらって、より安全で魅力のあるものにしていきました。
新しい遊具の開発段階では必ず検証を行います。GAMBAでもホールドの形状やルートセット、カラーリングや遊具自体の構造や安全性も含めて発売までに複数回の検証を実施しました。

(吉田さん)最終形までもっていくのに4回くらい試作を重ねていると思います。

子どもたちに完成前に体験してもらうことにはどのような気づきがありましたか?

(藤井さん)GAMBAは、安全にクライミングに挑戦できるトラバース(平行移動)を採用していますが、スタートからゴールまでの最適な距離がどの位の長さなのか。短すぎて簡単でも、長過ぎて難しすぎてもいけないので、最適な長さを研究しました。もう一つはホールドとホールドの距離です。子どもたちがホールドを掴みやすい距離はどの位なのか、年齢によっても異なるのですが、手を伸ばしたときの最適な距離についても研究をしました。
検証を通して感じたことは、とにかく子どもたちがGAMBAで繰り返し遊んでくれるということです。簡単にはゴールできないので、何故ゴールにたどり着けなったのかを考え、次は自分なりに工夫してチャレンジしてゴールまでたどり着いていました。子どもは自分で工夫し、小さな成功体験を積み重ねて目標であるゴールにたどり着いて達成感を感じる。これが嬉しくて、楽しくて、皆夢中になっている様子でした。これを見た時に、私はこの商品が必ず将来の子どもたちにとって大きな意味を持つ遊具になると確信しました。
また、まだゴールにたどり着けていない子に対して、ゴールした子どもが応援する姿や、子どもたち同士で協力してチャレンジするというように、コミュニケーションを取ったり、独自のルールができたりと、遊具が子どもたちの社会性を学ぶきっかけになっているということも大きな発見でした。

開発にあたってはご苦労もあったかと思いますが、どんな工夫をされたのでしょうか?

(藤井さん)クライミング遊具の一つの課題としてあったのは、遊具の使い方・遊び方について広くは認識されておらず、本来の魅力が浸透していないことにありました。そこで、GAMBAでは先生や保護者の方にも魅力が伝わるように、使い方・遊び方のヒントを教科書のようにまとめたパンフレットやムービーを作成することにしたんです。これも非常にご好評をいただいています。

ただ納入して終わり、ということではなく「子どもたちに楽しんでもらうにはどうしたらいいだろう」とか「園の教育の中でどのように活用してもらえるだろう」という所までカバーする。そこまでを含めてGAMBAという商品にしていくという思いがありました。

10年20年先、大人になっても発揮される価値を

ジャクエツ様には「JQ遊具安全規準に基づく遊具の設計プロセス」にて、キッズデザイン協議会のCSD認証(※1)を取得頂いておりますが、遊具の安全性についてはどのような取組をされていますか?

(坊さん)私どもは平素、お客様から様々な要望やご意見をいただきます。それを集約・分析して、大人の気づきづらい危険を発見し改善していくことに役立てています。週一での検討会議を定例としつつ、年一度の大きな規準改正、あとは他社さんの動向を伺ったり、といったことをしています。
もちろん新入社員が入ってくれば、CSD認証の話もしておりますよ。まず何よりも心構えがないと始まりませんから、そういう意味では、CSD認証の取得は安全への意識を高めることに繋がっていると思います。
ただ一方で、できるだけ遊びの価値自体は失いたくない、という思いもありますので、そのバランスを取るのが難しいですね。

今回、GAMBAがキッズデザイン賞を受賞したことによる影響は何かありましたか?

(坊さん)メーカーの開発課としては、キッズデザイン賞、それからグッドデザイン賞をできるだけたくさん獲ろうという目標はあります。
なのでこういう賞を受賞すると、チームの他のメンバーに火がつくんですね。デザインを専攻してきているような子は、賞を獲りたいということを自分から言ってきたりもしますから、モチベーションの1つになっているなと感じます。

(藤井さん)弊社は小さいものから大きいものまでいろんなものを作っているので、新商品の全てを賞に応募できるわけじゃないんですよ。
そういう意味では、まず応募作として社内で残ること自体が一つの目標になっていると思いますね。若手の登竜門じゃないですけど、いい意味で競い合う意識はあるのかなと。 。

最後に、皆様の遊具づくりにかける想いをお聞かせいただけますか?

(坊さん)私は、安全だけに縛られずに、子どもにとって最大限意味のある体験・価値を届けたいと思っています。 子どもたちの遊び方も時代によって変わっていくので、それに即しながら、ということにはなりますけど。 子どもたちを見ていて「こんな遊び方もあるのか!」と我々が思うこともあるので、常にそれは更新しながら、子どもの体験を守る安全性と両立させていきたいと考えています。

(吉田さん)子どもを対象にしたデザインは意識をしています。私自身大学在学時に教育についても学んでいたので、安全性への配慮はもちろん、子どもたちに実際に好かれるものを作る、というのは大事にしています。なので今回のGAMBAも、子どもたちにわかりやすい、親しみやすいカラーリングには拘りました。

(藤井さん)子どもたちに新しい価値を提供する意識は常に持って開発に関わりたいと思っています。遊具は一度納めたら10年・20年と残るわけですから、導入によってその施設に、あるいは地域にどのような影響をもたらせるのかな、という広い視野で価値創造をしていきたいです。弊社でも今「未来価値」というキーワードがあるんです。小さい時に特に意識せずに体験した”普通”のことが、大人になってから蘇ったり思い出したりして過去の体験と繋がって価値になる、という。遊具はその一つのきっかけになると思っています。
例えばGAMBAで遊んだ子が大人になって、自分の子どもが公園とか幼稚園で遊んでいるときに、お父さんも、もしくはお母さんもこの遊具で遊んだよって言ったら子どもと交流が生まれる。そこには感動があると思うんです。僕自身、幼稚園の時に乗っていた三輪車がジャクエツの三輪車だったんですよ!社内に展示してありまして。入社するまで僕も知らなくて、やっぱり「あ、やった」って嬉しくなりましたから。そういう体験を一つでも多く残したいなって思います

遊具が一時の遊び道具を超えて、その子の未来に関わる価値を生んでいく。 そんな熱い思いを持ってお話くださるお三方は、なによりも子どもを大事にした開発意識に溢れていました。 GAMBAで遊んだ子どもたちの成長が楽しみですね!

注解)
※1:CSD認証 企業に対し、子どもの安全性を高めるためのプロセスを経たことを認証する制度。「子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン」に関する安全性のガイドライン(キッズデザインガイドライン)の遵守と、規定のキッズデザインプロセスの導入・循環が求められる。キッズデザイン協議会が本認証事業を実施しており、産業界の安全品質の底上げと平準化を目的としている。
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