2025.1.23

経営者による意見交換会【受賞作品事例紹介】福井県立恐竜博物館
~子どもの主体的な遊び・学び・行動を考える~

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経営者による意見交換会事例紹介

第18回キッズデザイン賞 経済産業大臣賞受賞
福井県立恐竜博物館 研究・展示課長 宮田 和周

陸生哺乳類化石を専門とする総括研究員
西九州や北陸などで脊椎動物化石のを発掘し、研究を行う。
所属の博物館では常設展示や研究施設の立ち上げから関わり、2023年より現課長に就任。博物館の体験施設も統括。また、福井県立大学恐竜学研究所客員教授も務める


福井県立恐竜博物館とは


福井県立恐竜博物館は恐竜の骨格が50体以上もある常設展示がある。また、近隣には化石発掘現場があり、その側で発掘体験ができる野外恐竜博物館もある。しかし、11月中旬から4月中旬の間は、雪のために発掘体験はできない。
2023年の7月に恐竜博物館はリニューアルして増改築された。増設した新館内には、冬季であっても楽しめる新たな体験の場も作られることとなった。

新たな体験コンセプト


「新しい体験は、野外恐竜博物館で行っている発掘体験と同じなら面白くない。子どもたちには、研究の世界を知ってもらう体験を企画しました。「研究をする」こと自体は子どもでは理解が難しいですが、研究の作業だとできるし、楽しいはず。しかも限りなくリアルに近づけることに拘りました」と新たな体験のコンセプトを宮田氏は語る。

化石研究体験を設計する上で、主に工夫したことは2点。
・デザインは研究の雰囲気に合ったものにしよう
・子どもを子ども扱いしないデザインにしよう
「将来、ここで研究してみたい!」と子どもたちが思うような体験の場を作った。

4つの体験プログラム


■体験①Lab.1 化石発掘プラス
この体験は発掘現場の岩石を使って、化石を見分ける作業を行い、化石を見る目を養うという体験。野外恐竜博物館での発掘体験ができない冬期に開催するメニュー。 「石を割らなくとも化石は見つけられます。もちろん割っても良いのですが、中からは、魚のウロコ、貝、植物なども、骨だけでなくとも、現場ではいろいろな化石を目にします。それらを振り分けていく単純な作業なのですが、これは研究の初歩的な作業です。その体験を通して、どのように化石を見分けていくかということも分かってきます」と宮田氏は伝える。

■ 体験②Lab.1 T.rex頭骨復元
研究レベルで使える頭骨の複製を使用し、実際に組み上げていく。研究では骨の比較や解剖学的な仕組みを知る作業を行いますが、この体験はその一端を知ることができます。 ティラノサウルスの頭骨は40ぐらいのパーツに分かれますが、ここでは36まで分解できる実物スケールの頭骨複製を準備し、それをフレームにとりつける3次元的な組み上げを親子で楽しめます。自分で骨を調べて、順序を間違えないように組み上げ、骨の機能が学べます。

■体験③Lab.2 化石クリーニング
圧力をかけて動かす専門のエアーツール(エアースクライバー)を使って、石の中から化石を取り出すという体験。モニターの説明を通して、石の削り方や道具の使い方を自分で確認しながら進める。

エアーツールは顕微鏡を見ながら行う作業ですが、この体験では各自の手元の様子がカメラでモニターに拡大投影させ、大人が後ろについて「このように動かした方がいい」、「うまく削れている」などの指導ができるようになっている。

このクリーニング作業には恐竜の現場で見つけた歯(レプリカ)が入った模造岩と、実際の天然の石を使用しており、硬さの違いや困難さを知る体験していく。

■体験④Lab.3 CT化石観察
恐竜博物館では研究者が実際にCTを使って研究する。ここでは12個の化石のCTデータを使って、その解析作業を体験する。解析のソフトウェアは大学の授業に使えるレベルで、子どもたちには理解し難く思えるが、あえて触らせる目的で導入した。

「例えば、CTで化石を説明していた先生が、ちょっと席を外した瞬間、“あのPCを触って先生がやっていたことを体験してみたい” と思うような作業ができたら面白いんじゃないか」と、開発時に考えていたと宮田氏は話す。

しかし、単にPCの画面だけの操作だと、コンピュータゲームになってしまう。そこでこのLab. 3では、目の前の化石をスキャニングする疑似体験からスタートし、データ解析に進むところまで行う。

来場者のアンケート結果


もともと北陸だけでなく、中京や関西のお客様が多い。近年は関東方面からのお客様が増えた。属性としては、小学生のいる家族連れがメイン。体験された方は「研究の世界観を楽しめた」と、満足度は99%と高い。

「展示だけを見ていると気づかないが、裏方の作業を体験することで、展示を見直すことにつながる。博物館の背景にある研究や調査があってこそ、博物館の魅力がある、ということが伝わる。これも体験の醍醐味だと思う」と宮田氏は締め括った。
キッズデザイン賞マーク
文章:池尻 浩子