2023.3.14

インクルーシブな幼稚園はどのようにつくられたか? ―柿の実幼稚園の実践から―(後編)

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キッズデザイン協議会インクルーシブ・キッズデザインより前回に続いて小島園長インタビューのご報告です。前編では、多様な障害を抱えた園児を受け入れ続け、健常児とともに一緒に過ごす環境をどのようにつくって来られたのかについて伺いました。後編では、具体的な事例からインクルーシブゆえの困難さや課題と、そんな環境だからこそ得られる喜び、これからの未来についてレポートします。

※小島園長の表現に倣い、「障がい児」「障がいを抱える子ども」に加えて、「支援が必要な子ども」という呼び方も併用しています。


左)小島敦子副園長、  右)小島澄人園長

柿の実幼稚園とは

1962年開園。現在、敷地面積4万坪、園児数900名(うち支援が必要な子ども300名)、先生数170名と、大規模な幼稚園。どんな幼児も受け入れてくれることが口コミで拡まり、今まで通算3,000人程の障がい児を受け入れています。障がいの種類は、肢体不自由、全盲、自閉症、ダウン症、日常的に吸引・胃ろう・導尿が必要な医療的ケア児など様々で、中には引っ越しをしてまで通われる方もいます。場所は、小田急線の柿生駅からタクシーで10分ほどの川崎市麻生区の住宅街の一角にあります。人の幸せを実現する教育を続けていることが評価され、2018年には「『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞」の厚生労働大臣賞を受賞されています。


柿の実幼稚園の運動会 ※2022年10月8日(土)~9日(日)2日間で開催

障がいの有無を超えた一体感による感動

(小島)「柿の実幼稚園の運動会には毎年テーマがあります。2022年のテーマは“お祭り”で、世界各国のお祭りを子どもたちが紹介するプログラムを企画しました。子どもや親、先生、誰もが一生懸命に力を合わせて運動会をつくり上げていきます。わが子だけ応援すればいいという感じではなくて、親リレーといって、先生とお父さん、お母さんがリレーに参加する場面もある。最初の競技から最後の競技まで全ての参加者がつながっているから、みんなが参加して、応援してという一体感があります。
 最も感動的なのは、年長のリレーです。各クラスに5、6人の支援が必要な子どもが登場してきます。車いすの子、走れない子、ダウン症・自閉症の子がどの順番で出てくるか分からないようになっています。支援が必要な子が出てくると、一緒に手をつないで歩いたり、車いすを押したり、子どもたちはみんなで力を合わせて、2〜3周遅れることもあるけれど、それを取り返そうと次の子は頑張って走るし、応援にも力が入る。あの子がいたから負けたのだとは誰も言いません」

みんなが立場を超えて、一体感を持ち、つながっていくことで心を揺さぶるシーンが生まれる運動会。さらに、支援が必要な子にとって『自分もみんなと一緒にできた』という自信は大きな糧になるのだと感じました。

一緒に過ごす大切さ、特性を知ればリスクは減らせる

(小島)「支援が必要な園児を受け入れ続けることに対して沢山悩んできました。中でもこれまでに2回ほど、障がい児に起因する、深く悩んだ事故がありました。
具体的な話を1つすると、自閉症のお子さんと一緒に遊んでいた健常のお子さんが、遊具の上から落ちてケガをしてしまったことがありました。健常のお子さんは押されたと言い、自閉症のお子さんは押していないと言い、双方の言い分が食い違っていましたが、おそらく、自閉症の子どもは押したのではなく、ただ邪魔だと思って退けようとしただけだと思います。というのも、自閉症の特徴の1つに、目に映るものにすぐ向かってしまう、反応してしまうという、視覚優位になる傾向があるからです。この不運な事故の原因もここにあったと思います。
自閉症の子どもは、聞く力も弱くて、目に映るものに反応してしまいます。じっとしていられない多動という特性もあるため、保育する時は座らせる向きを工夫しています。その子の特性を把握して関われば、その子の後をついて回るような追いかけ保育をしなくても済むようになります」

こういったリスクは健常児同士でも恐らく避けては通れません。特に障害児はどのように反応するかが予想しにくいものです。支援が必要な子を3,000人以上受け入れた中で大きな事故が2回に留まっていることに私たちは驚きました。一緒に過ごすことでその子の特性を知り、リスク回避できる部分も多くあるのではないかと思います。


障がいという線引きから外れるグレーゾーン

(小島)「障害者手帳※1を持たないグレーゾーンの子どもたちが増えています。中でも発達障がいの場合が多く、その子が自立した生活ができるか不安になった時、障害者手帳のありなしで公的支援を受けられるかが決まります。園では支援を要する子どもとして認識していても、診断書や療育手帳といった根拠がないと『障がい者』に認められません。私たちは特別支援教育を受けたい子どものための書類を準備していますが、半数はグレーゾーンで根拠がありません。
ある時、一流企業に就職した男性の親御さんから相談がありました。
『息子は柿の実で学んだことを基に頑張っていますが、発達障がいだからみんなと違うと言われてしまいました。年を取り、自分が死んだ後の息子が不憫でならないので、障害者手帳を取りたい』というものでした。
その子の幼稚園時代の記録の中から、担任が気になる傾向があるとして療育センターを勧めたという報告を見つけ出し、園長の署名捺印をして書面を送り、無事、「障害者」として認定を受けることができました」
※1障害者手帳は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種の手帳を総称した一般的な呼称

増加するグレーゾーンの子どもたちを社会としてどのように受け入れていくか、障害者手帳が無くても支援が必要な子どもたちがいます。彼らにとって生きやすい社会をつくるために私たちに何ができるのか、今後継続して考えていかなければならないと感じました。

障がい者が自立しながら孤立しない、そんな居場所が増えてほしい

(小島)「特別支援教育という言葉を初めて耳にした頃は、何が特別なのかと思っていました。今では、『障がい児』と言わずに『支援を要する子』と言うようになっています。メディアや大学も「インクルーシブ教育」という言葉を使い始めたことで、その言葉に馴染みのない世代の先生たちも興味をもち始めています。そんな先生に対して、私は
『特別支援教育に携わる人たちが壁を取っ払うような、いろんな人が生きていく中で支え合う、そういう世界を目指すことでは?』と説明しています。どこの園も、どこの小学校も、どこの会社も、どこの町も、そういう世界になれば理想です。障がいをもつ子ども達が大人になった時にもそういう世界であってほしいと思いますが、障がい者雇用の難しさを実感しています。柿の実学園全体では5名ほど障がい者の方を雇用していますが、小さい団体なので限界があります。事務、ガーデニング、畑仕事、本の整理、山の草刈りなどを任せてきました。もっと多様な職種に就けるとよいのですが。障がいを抱える子どもも、大人になれば働いて、評価されて、わずかでも給料をもらって自分で生活することを夢見ています。しかし、いざとなると働く場や生活する場から『あったかい手』がなくなってしまい、居場所が失われてしまうのです」

これからインクルーシブな社会を広げていくためには、子どもはもちろん私たち大人も、まず、多様な人々と日常を一緒に過ごすことが重要です。その中で個々の特性を理解し合い、支え合うことで、徐々に「あったかい手」を持つ人が増えていく社会になっていくのではないでしょうか。

最後に

インクルーシブ教育で育つ子どもを増やすにはまずは、私たち大人が勇気を持って、子どもたちの世界の分断を無くすことから始まるのだと感じています。
現在、障がいを抱える人が大人になったときに、安心して生活ができる場の提供をする施設・団体も増えてきています。様々な企業で障がい者雇用を実施し、多様な人と一緒に働いている企業もあります。子どもたちの分断を無くすと同時に私たち大人ひとりひとりの意識も変えていくことがインクルーシブな社会を拡げる助けになると感じたインタビューでした。


〈取材協力〉
小島澄人さん
こじま・すみと―1954年(昭和29年)長崎県五島列島に生まれる。クリスチャンの家で育ち、神学校で学びながら慶應義塾大学哲学科を卒業。高校教師を経て、1981年に義父が運営していた柿の実幼稚園の職員となる。
1984年より同園園長。4万坪の敷地を自ら開墾し、遊び場とするなど、理想とする幼児教育の実現を目指している。

<「障害者」の表記について>
多様な意見のもとにさまざまな表現方法があります。
インクルーシブキッズデザイン研究会では、以下の方針に基づいて表記方法を選択しています。

■ 当研究会の感想や意見について
法令上の表記に加え、社会(モノ、環境、人的環境等)と心身機能の障害があいまって『障害(障壁)』をつくっているという 「社会モデル」の表記が「障害(障壁)」であることから、漢字表記の「障害者」を用います。

■ インタビュー内容について
対象の団体・個人の方のご意見を尊重して使用する表記を決定しています。

当研究会では、今後もテーマを追究しながら、これらの表記についても考え続けたいと思います。

<インクルーシブ・キッズデザイン(ワーキング・グループ)について>

世の中には様々な心のバリアがあります。言語や文化、ジェンダーや性的指向・性自認、ジェネレーション、障害の有無など小さなものから大きなものまで様々です。
子どもたちが多様性と出会い、理解し、受け入れることを通じ、少しでも「心のバリア」を生まない、もしくは取り除くためには何が必要かを考え広めていくために、会員企業のメンバー有志が集まりました。
様々なギャップを超えてインクルーシブな環境づくりに取り組む団体の活動にフォーカスして、主宰者の思いや実践の積み重ねの中から、インクルーシブな環境づくりへのヒントを探っています。

■ 参加企業・団体
コクヨ株式会社、株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ、株式会社フレーベル館、株式会社LIXIL住宅研究所、東京大学大学院

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