2021.11.10

大切なのは、大人が子ども目線に戻ること(前編)

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開発者の想い:「こどもOSランゲージ」川本誓文さんインタビュー(前編)

自由奔放な子どもたちの予測不能な振舞いに、困ってしまっている親御さんも多いかもしれません。危険を避けたり、周りに迷惑をかけたりしないように気を使いながらも、子どもたちの好奇心も尊重したいーー。そう思うと、どう接したらいいのか難しく感じてしまいます。

そんな悩みに応えられるのが「こどもOSランゲージ」です。子どもたちの“ドキドキワクワク”と、その裏にあるハザード(危険の原因)のパターンを、わかりやすく示してくれます。

大阪府産業デザインセンターの川本誓文さんに、こどもOSランゲージを開発したきっかけや経緯、遊びの大切さについて話を聞きました。

こどもOSとは

こどもOSランゲージとは何ですか?

「こどもOSランゲージ」は、子どもたちに共通に見られる遊びの行為を、代表的な22のデザイン共通言語にまとめたものです。企業などが製品の企画や開発を行う際に参考となる「デザインコード」と、子どもに特有の行為から起こる危険とその回避のための「安全・安心コード」が記載されているカードをツールとして制作しました。

OSとは、コンピュータのWindowsやMacOS、Linuxなどのような 「オペレーティングシステム」のことです。コンピュータの基幹となるプログラミングソフトウェアですが、我々は、人間にもこのOSがあると考えているんです。

普段あまり意識することはないですが、考えたり行動したりするときに、根底の部分で非常に大事なOSのようなものが働いていると考えてみましょう。それに影響を受けて、習慣や価値観、ライフスタイルがかたちづくられていきます。

我々が定義している「こどもOS」は、およそ2歳から12歳ぐらいまでの子どもたちに共通に見出される思考や行動、行為です。特に遊びのなかで見出され、子どもたちの豊かな感受性、興味、想像力、直観力といったものを生み出す源泉のようなものだと思っています。

調査研究を始めたきっかけを教えてください。

2007年にキッズデザイン協議会が設立された当時、キッズデザインという概念が日本オリジナルのムーブメントとして立ち上がったと思います。大阪府はそこに着目して、「大阪キッズデザイン検討会」を2008年に立ち上げ、キッズデザインを一つのコンセプトとして、高度デザイン人材の育成プログラムをオリジナルで開発したいと、検討会を始めました。いまで言えば「デザイン思考」にも近い取り組みだと思います。

我々が望むのは産業界でリーダーシップを発揮し、既成概念にとらわれない新たなものづくりをしていける人材を大阪で育てることでした。そこで、型破りな発想を引き出してもらえることを期待して、同志社女子大学の上田信行先生をお招きし、座長になってもらったんです。

『プレイフル・シンキング』上田信行さんとの出会い

上田先生はどんな方ですか?

2009年のご著書『プレイフル・シンキング』(宣伝会議)に詳しく書かれていますが、「プレイフル」(遊びゴコロ)を大切にした人材育成をされ、ワークショップなどのデザイン活動にも携わられている方です。

上田先生が検討会に入ると、“普通の会議”がないんですよね。ドキドキワクワク面白く楽しくしなきゃ会議じゃない、と。会議の設え自体がプレイフルになっているんです。お菓子も用意するし、飲み物もOKだし、普通に机に向かっていることはなく、もう床にあぐらをかいて対面で座って、ロール状の模造紙をガーッと広げるのでそこに書きながらディスカッションしましょう、という型破りなものでした。

検討会はどんなことを大切にして進めていきましたか?

上田先生にとって、子どもは大人が庇護したり下に見たりっていう存在ではなく、むしろ学ぶべき存在です。そういう子どもたちが未来に生き生きと暮らせる社会を作らなきゃいけないんだという感覚で上田先生は常にこういう活動を続けていて、見習いたいと思いました。

会議を通して、我々もそれからプレイフルに発想できるようになっていきました。我々のワークショップの名称は『プレイフル・デザイン・スタジオ』と言い、ウェブサイトも作っています。いろいろ実験的なことに取り組んで、常に新しい方向性を目指していくことを上田先生から学びましたね。

ドキドキワクワクするような状況を

検討会から「こどもOSランゲージ」がどのように生まれていったのでしょうか?

ものづくりにしてもひとづくりにしても、とにかく既成概念を崩して、自分自身がドキドキワクワクするような状況を作り出した状態でやっていかないと、新たな発想は生まれないということはわかりました。ただ、最初は1年間限定のプロジェクトで、アウトラインは見えたのですが、まとめる段階までいけませんでした。そこで、このプロジェクトを引き継ぐかたちで「こどもOS研究会」を設置し、活動を続けることで、パタン・ランゲージを活用するアイデアが出てきました。

パタン・ランゲージとは、建築家のクリストファー・アレグザンダーが提唱したものです。建築空間を作るときに、「窓辺にちょっと椅子があって、眺めが良く、囲われている場所が心地いい」「先の見通せない路地を通っていくのが楽しい」といったパターンを細かく分け、小さくユニット化した空間を提示して、それを組み合わせることでと都市が魅力的になるという理論なんですね。


パタン・ランゲージを参考に「こどもOS」を考えたときに、場所ではなく人間のほうに引き寄せてきて、「子どもが面白いと感じるのはどんなときだろう」と、行動や気持ちのほうにシフトさせていったんです。そして、人間にとって根源的な「遊び」を引き合いに出してきて、このパターンを調べ、抽出していきました。それが、アレグザンダーを参考にしながらも、我々のオリジナリティを出せたところだと感じています。

後編につづきます。

キッズデザイン賞マーク
文章:遠藤 光太