2021.11.12

大切なのは、大人が子ども目線に戻ること(後編)

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前編からの続きです。

机上の空論ではなく、子どもに向き合って行動観察

パタン・ランゲージの手法で「こどもOSランゲージ」を作るとき、どんな方法を使いましたか?

机上の空論ではなく、子どもに向き合って行動観察をして、地道にデータを取らなければいけないと考えました。「ぼくらの町のお散歩会!」というイベントで、小学3・4年生のギャングエイジと呼ばれる子どもたちを観察していきました。

子どもたちと一緒に、家の周り、学校、公園、神社といった場所を1時間ぐらいお散歩をしていると、子どもたちは自由に遊び始めます。その振舞いを我々はビデオやカメラで記録していきました。観察していくと、「これってみんな同じように行動しているよね」というように、共通の発見があるんです。

多くの「パターン」が見出されたなかで、「こどもOSランゲージ」では、子どもたちの安心・安全に貢献したい考えがあったので、ハザード(危険の原因)にも注目しました。

例えば、「対岸へ」として完成したランゲージがあります。子どもたちは、ベンチとベンチの間、近所の用水路、駐車場の車止めなどで「対岸」に飛び移ろうとしますよね。離れていれば離れているほど、あるいは高ければ高いほど、子どもたちはドキドキワクワクし、プレイフルな気持ちになるものです。一方で、助走の不足、踏み切りの失敗、勢い余って止まれないなどの怪我につながるハザードもあります。

「こどもOSランゲージ」はカード形式になっていて、それぞれのパターンごとのカードで、表に「プレイフルモード(デザインコード)」、裏に「ハザードモード(安全・安心コード)」を掲載しています。「対岸へ」のように、楽しくて、ドキドキワクワクすることの裏側にあるハザードをセットで語られなければいけないという考えで、22個のパターンを抽出していきました。

論理的な発想にはない新しい発想を生み出すには

子どもに特化しているのはなぜですか?

人生100年時代と言われる長い時間のなかでも、特に小学校卒業までの12年間はとても貴重な体験です。いろんなシミュレーションをして、社会に出て生きていけるだけの経験や価値観を身につける大事な時期なんです。

我々は子ども時代に身につけたものが、何かを生み出すために想像力を働かせるうえで、大人になっても必ず影響しているはずと考えています。つまり、何かを発想するときに、子ども時代から蓄積された価値観のフィルターを通ります。子どもの頃の記憶の断片が潜在意識としてあり、新たな発想に結びつける触媒として、「こどもOSランゲージ」が機能するんです。

論理的な発想では出てこないような新しい発想を生み出したかったので、その触媒となるツールを我々がオリジナルで作れたことは、全世界に誇れることだと思うんです。

最近は「こどもOS」を使ってどんな活動をしていますか?

企業や学生を対象に、アイデアソンなどのオンラインワークショップを開いています。学生さんのなかには、子どもの頃に「こどもOSランゲージ」に触れた記憶を持ってくれている方もいて、好感を持ってくれているのを嬉しく思います。
こどもOSを知ってくれてさえいれば、あとは和気あいあいと没頭してやるだけです。だから、オンラインで3時間という短い時間であっても、ある程度のゴールまでたどり着くことができ、参加して良かったと言ってもらえます。
私はワークショップを開催するごとに手応えを感じていて「こどもOSランゲージ」が本当に有効なツールなんだと実感させてもらっています。

子ども時代に遊ぶことの大切さ

遊びの価値はどんな点にありますか?

一人前の大人になるには、遊びは必要なものだと思います。子ども時代に遊ぶことによって、心も体も成長することができます。ただ、いまそういう環境や時間が十分にあるかと言うと、だんだん減ってきているのを我々は懸念しています。

昔は学校が終わったらランドセルだけ置いて外に飛び出して、異年齢の子どもたちで、日が沈むくらいまで思いっきり遊んでいたものです。しかし、コロナが始まる前から集団での外遊びが見られない、実はそんな状況になってきてるんです。公園に行っても遊んでいる子は少なく、がらんとした公園があるだけという状況がよく見受けられますよね。

子ども同士で遊ぶことのメリットはいろいろあって、上の子はちっちゃい子の面倒を見なきゃいけないので、守る(庇護する)という感覚が出てきます。ちっちゃい子はお兄さん・お姉さんを見て憧れを抱く。そういうコミュニケーションが養われて集団の中で揉まれ、大人になってからの社会生活のシミュレーションをやっているんです。

子どもに関わる方々にメッセージをお願いします。

親御さんの立場では、子どもの振る舞いに我慢できないこともあると思います。大人は社会的な制約を受けていて、「変なことしてはいけない」「集団になじまなければいけない」「同調しないといけない」と感じるのは自然なことです。

例えば子どもは、歩道のタイルの色が変わっていると、同じ色のところだけ踏んで歩く遊び「マインルール」を始めます。ジグザグに歩いたり飛び跳ねたりして、そうすると周りの人にぶつかったり、嫌な顔されたりすると思って、親御さんは「子どもに社会性がない」「その親である自分が恥ずかしい」と感じるんですよね。そういう視点があるから、つい厳しく叱ってしまう。

そんなときは、「こどもOS」のプレイフルなカードを知ってもらい、考え方をぜひ学んでほしいと思います。「子どもにはこういう習性がある」と知った上で、例えば木登りをしている子どもがいたら「危ないから辞めなさい」と叱ることも大事ですが、落ちてきそうなところの下で身構えている選択もできるわけです。

親御さんとしては、そのように客観的な視点を持つと、ちょっと余裕を持って先回りでき、楽しく子どもと接することができるのではないでしょうか。


川本さんのお話そのものが、やさしさと温かさがあふれ、楽しく、まさに「プレイフル」でした。

そんなこどもOS研究会が開発した「こどもOSランゲージ」を知ることで、子どもたちの安心・安全を守りながら「プレイフル」な遊びの環境を作ることができるでしょう。きっと子どもたちの育ちの助けになります。

「こどもOSランゲージ」には、他にも「ぴったり探し」「禁止の誘惑」「登らせるかたち」など、興味深いランゲージが22個あります。Instagramでも見ることができるので、ぜひご覧ください。
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