2022.3.11
【後編】体験型クリエイティブミュージアム「AkeruE」インタビュー~子どもはみんながアーティスト ~
子どもに、個性を持ったひとりの人間として接する大切さ
子どもが鑑賞に取り組む様子からわれわれ大人が学べることもある、ということでしょうか?
(寺岡さん)そうですね。日本の子育ての特徴として、海外の教育者の方が日本に来ると「日本の子どもは子どもらしい」と仰るそうです。それはつまり、私たちが子どもを大人になる前の「未熟な」生き物として扱ってしまうことで、子どもに「子どもっぽさ」を演じさせてしまっているんですね。そうではなくて、子どもには一人の人間として対等に接することが重要だと言われています。だから子どもそれぞれに対して、自分たち同様、その子にしかない個性があることを意識して話しかけていく。そうすることでその子の中にある考えが自由に膨らんで、アイデアが生まれたり個性が伸びていく。AkeruEがそういう場であれたらいいなと思っています。だから、大人の側から子どもに答えを”教えてあげる”のではなくて、むしろ子どもに何を感じたかを聞いて”教えてもらえる”こともあるんじゃないかなと。
そんな、子どもと大人の関係のあり方を考えさせてくれるこの施設の中で、お二人のお気に入りの場所はありますか?
(越本さん)「COSMOS」というエリアですかね。今の話にも出ましたけど、私たちこそ学ばせてもらえることが多くて。COSMOSでは、子どもが自由に作品を制作できるようになっているんですが、つくる作品のテーマを3か月ごとに変えているんですね。実はそのテーマはSDGsを軸に構成されていたりするんですけど。要素でいえば、シーズン1は「環境」、シーズン2は夏にオリンピックもあったので「平和」、そして今シーズンは「経済」を念頭に置いて「だれかを幸せにする”商品”」というテーマにしています。ちなみに…少し話が逸れますけど、「あなたにとって豊かさとは?」と聞かれて答えられます?
む、難しいですね…パッとはでてこないというか。
(越本さん)そう、大人だと「うっ…」って言葉に詰まってしまうと思うんですけど、子どもはそれを表現の形で具体的に示してくれるんですよ。COSMOSというエリアは、それを見られるようになっていて。例えばシーズン1は「地球を豊かにする生き物を作ってみよう」という問いかけでした。その時、大人からは「水を節約してくれるペンギン」みたいな直球が返ってくるんですけど、子どもからは「人の話をうんうんって聞いてくれる、おじいちゃん犬」みたいなものが出てくる。これって、大人は具体的な論理で語ってしまうところを、子どもはそのテーマについて自分がとらえた本質を作品の中に自然に表現してくれているんですね。なので、作品のキャプションを読んでいると私たちが泣きそうになることもあるくらいです(笑)。
(寺岡さん)ほんと泣けるんですよね。私も同じ理由でCOSMOSが一番好きです。
お二人の話を伺っていると、本当に子どもをひとりひとり人間として大切にされているんだなと感じるんですが、その子どもたちにとってAkeruEはどんな施設であって欲しいと思いますか?
(越本さん)本来、人は生まれながらにして皆クリエイターなはずなんですよ。例えば、小さい子どもが描く絵とかってすごいじゃないですか?今大人になったら絶対あの絵は描けない、みたいな(笑)。なので、その感覚を出来るだけ長く持ち続けてほしいな、というのが希望ですね。やっぱり大人になるといろんなものを見て、知って、変わってきてしまうことが多いと思うので。変なところは変なままで良くて、むしろもっと伸ばしていってほしいと思っています。TECHNITOエリアで実施している「アルケミストJr.プログラム」(※)は、ものづくりが好きな子にその個性をとことん伸ばしていってもらいたい、という狙いはあります。メンバーの中に、コマが大好きでそればかり作っている子どもがいたんですけど、その子は百種類くらい作ってスクラップブックにまとめていたんです。そういう子がそのままでいられる社会をつくれたらいいな、と思いますね。
プログラム学習で制作された子どもの作品
今は数あるワークショップのうちの1つ、でもいつかは会社の事業へ
最後に、ますますAkeruEを発展させていく上で、今後挑戦していきたいことなどあればお聞かせください。
(越本さん)AkeruEは今年4月にオープンしたばかりなんですけど、コロナの影響でリアルな活動がかなり制限されていたんです。5月はまるまる休館だったり。それはそれで逆にオンラインワークショップのように、ここに来られない人たちへの体験提供を進められた部分もあります。そして、海外と連携した取組も動いていたりします。ただ来年以降は、やっぱりここで一緒に向かい合って何かをつくっていく、という活動を増やしていきたいですね。
(寺岡さん)海外の話でいうと、日米友好で取り組んでいるワークショップが今度ありまして。そこではまず海外の子たちが作品の発表をしてくれて、今度はそれを聞いた日本の子どもたちが自分たちの作品を制作する、というプログラムを予定しています。
それから、日本では年代や肩書で区分けすることが多いと思うんですけど、小学生と中学生、中学生と高校生、子どもと社会人、とかって、いろんな人が交じり合う場所をつくっていけたらいいなと思いますね。
あとは、個人的な思惑になってしまいますけど(笑)、このAkeruEの活動から、もっとパナソニックの中に子どものことを考えた事業が増えていくといいなと思っています。今はAkeruEの一ワークショップでしかない活動たちが、5年後くらいにはCSV活動として事業化している、なんてことを夢見ているんです。
寺岡さんも越本さんも、こちらの目をしっかりと見て、よどみなく想いを述べてくださる姿が印象的でした。
子どもを対等に尊重し、支援し、未来に向かって羽ばたかせる。そんな子どもへの向き合い方には、真っすぐな信念が通っている。
私も明日から、今までとは違った目線で子どもたちと接することができるように思いました。
注解:
※1: アルケミストJr.プログラム 週一回、三か月を区切りとして実施される、会員制の学習プログラム。TECHNITO内の道具や機材のレクチャーを受けながら作品を制作し、成果発表などの交流なども交えながら子どもたち自身で学びを深めていくことが目的とされている。