2023.1.19

こどもが主役の街「キッザニア東京」見学レポート~見る、知る、働く、感じる~

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第1回キッズデザイン賞受賞の「こどもの こどもによる こどものための街」

東京都江東区豊洲駅を出て徒歩数分。都会の喧騒を離れた東京湾に臨み、心地のよい風が吹くこの街に、子どもが主役の職業体験施設「キッザニア東京」はありました。 2006年にオープンしたキッザニア東京は、「エデュケーション(学び)」と 「エンターテインメント(楽しさ)」を合わせた『エデュテインメント』というコンセプトの元、子どもが身をもって仕事を体験し、学ぶことのできるコミュニケーションの形が評価され、栄えある第一回キッズデザイン賞(2007年度)を受賞しているとのこと。 今回はその体験レポートをお送りします。

実は筆者も小学生のころ修学旅行で体験したこの施設、十数年ぶりの再訪に心が躍ります!
とはいえ、キッザニア東京はあくまでも3歳~15歳を対象とした「こどもが主役」の街。今回も二人のお子さんにご同行をいただきました。(※1) 前回の潜入取材に引き続いて今回も同行してくれた小学4年生のリナちゃん(仮名)は、キッザニアに来るのは今日が初めて。一方「キッザニア甲子園」に行ったことがあるキッザニア経験者のチハルちゃん(仮名)は小学3年生。今回初めて潜入に同行してくれました。 二人は今日が初対面。リナちゃんはキッザニア体験に、チハルちゃんは潜入取材に、それぞれの緊張を浮かべながらも、エントランスから中の様子を伺う顔には「早く入りたい!」という期待が溢れます。

それでは、早速中に入っていきましょう!

ゲートを抜けるとそこは…

空港の入国ゲートを模したエントランスを抜けると、煌びやかな夜の街が二人を迎えます。
現実世界を3分の2スケールで再現したキッザニアの街には、様々なパビリオン(仕事場)がひしめき合い、小型の消防車や宅配トラックも走っています。建物やユニフォーム、アクティビティで使用する道具は実在する企業が監修しているだけあってどれも本格的!

子どもたちが自分の身体を動かしながら楽しく社会について知っていく、そういう”大人の仲間入り”が体験できる場所として、夜の街を演出しているんだとか。実際、中に入ってみてリナちゃんは「建物がすごくキラキラしててね、それがキレイで、ワクワクした!」とのこと。

キッザニア東京には約60のパビリオンがあり、約100種類のアクティビティを体験することができます。 私たちは今回、「ソーセージ工房」(※3)と「ビューティスタジオ」(※4)の2つのパビリオンに参加しました。

豊かな自然の恵みを、おいしく、料理し、「いただきます!」

最初に体験したのはソーセージ工房。

パビリオンに入る前にヘアネットを被り、制服を着ます。
パビリオン内には子どもたちのガイド役を務める、スーパーバイザーと呼ばれるスタッフの方々がいるのですが、皆さん多くの子どもの体験を叶えるためテキパキと、それでいて身振り手振りを交えながらにこやかに子どもたちに接している姿が印象的でした。 ソーセージ工房は食品を扱うパビリオンなので衛生管理に対するアナウンスもしっかりと行われます。
時間をかけて手をしっかりと洗うこと、壁やお友だちに手で触らないことなど、フレンドリーな英語で話しかけるスーパーバイザーを見守る二人は真剣そのもの。
そう、このキッザニアでは子どもたちが楽しみながら英語に触れる機会をつくるため、簡単な挨拶や自己紹介を英語で行っているのですが、今回参加したソーセージ工房では重要なアナウンス以外はなんと全編通して英語で行われました!(※5)
2人1組になって「Salt Team(塩係)」と「Spice Team(スパイス係)」に分かれ、お肉にお塩やスパイスを振りかけ、まぜ合わせ、ソーセージメーカーのハンドルを回して羊の腸にお肉を詰め、腸をねじって長さを整えていく、実際のソーセージづくりの工程に協力して取り組んでいきます。
キッザニア自体が初めてのリナちゃんはスーパーバイザーの一挙手一投足をじいっと見つめて、英語を習っているチハルちゃんは落ち着きながらもしっかりと、それぞれがそれぞれの仕事を一生懸命にこなします。
変化が表れたのはお肉と塩やスパイスを手でまぜ合わせていくところから。生のお肉をこねる感触が新鮮だったのか、思わず顔を上げたリナちゃんは感動に目を丸くしています。
続いてチハルちゃんが混ぜる番になると、二人はどちらともなく顔を見合わせて、笑いながら何か囁き合っている様子。
今日初対面の二人が初めて緊張を忘れ素直な心を通わせる姿に見ている私も思わず頬が緩みました。

「スタッファー」という専用の機械のハンドルを回すリナちゃんはお肉の詰まっていく腸を支えるチハルちゃんの手元を気にしてあげながら、逆に腸をねじって形を整えていくところではチハルちゃんがリナちゃんを見ながら時おりアドバイスをしてあげたりと、それからも2人は言葉少なに、それでも互いを気にし合いながらチームワークで仕事を進めていきます。

二人は慣れない手つきで前のめりに食品に向き合いながらも、スーパーバイザーの衛生面の注意を忘れず空いた手は宙に浮かせてどこにも触れさせません。
子どもだって、初めてだって、ユニフォームを着ていざ仕事を前にすれば、それはもう立派な「ソーセージ職人」。2人の真剣さを感じました。
仕事を終え、キッザニア内の通貨でである「キッゾ」を受け取る前に、スーパーバイザーからまとめのご挨拶。
「このソーセージには豚肉と羊の腸とお塩とスパイスと、自然の材料がふんだんに使われています。自然の恵みに感謝して、ぜひこの後ソーセージを食べるときには”いただきます”と口にだして食べてみてください!」 パビリオンを出て休憩がてらお仕事の成果物である ソーセージを食べる2人。
口にした途端、2人息を合わせたかのようにベンチの上で伸び上がります。
「やわらかい!」「できたて!」その顔には笑顔と一緒に満足気な、どこか誇らしげな表情さえ浮かびます。

きっと、ソーセージそのものだってもちろん美味しいけれど、一生懸命自分の手を動かして働いたから、余計に、美味しく感じるんじゃないかな。
「お仕事中2人で何を話していたの?」と聞くと、2人は楽しそうに互いを見ながら、「お肉をまぜるとき、お肉がむにゅむにゅしてて、それで、『きもちいいね』って。」答えてくれたリナちゃんは、ソーセージメーカーにセットされた羊の腸にも積極的に興味をもって、自分の手で素材の肌ざわりを確かめていました。
工房の感想を聞くと、チハルちゃんは「いつもできあがったものを食べているけど、こうやって、生命(いのち)の恵みをいただいていることを考えさせられました! 」
ソーセージを例に料理がつくられる仕組みを目で見て、肌で感じた2人は、きっとこれから今まで以上に毎日のご飯をおいしく、感謝して食べられるよね。
子どもが社会に触れ、社会を学び、自分の生活を新しい目で見つめ返していくその成長のプロセスを、私は目の当たりにしたんだと感じました。

「きれい」を想いながら、一生懸命に。そのひたむきさが一番きれいな宝物

続いて来たのは雰囲気がまたガラっと変わり、オシャレな店構えの「ビューティスタジオ」。

中を覗いてみると、シックな内装に壁一面に化粧品やフレグランスがひしめいて、まさに「きれい」のための空間だと感じます。 ユニフォームを着て準備をすると、上品な装いに二人が急に大人びて見えました。

どのパビリオンでも、ユニフォームや扱う道具はできるだけ実際の社会で使われているものに近い形を再現しているとの通り、 実在の企業が監修する ことで、自分たちの生活する社会と地続きになった本格的な体験が可能になっているんですね。
まずアクティビティの冒頭では「きれいを、もっと自由に」をテーマに掲げたコンセプト動画を観て、「きれい」は住んでいる国や老若男女、ハンディキャップの有無を問わず誰もが笑顔になれる魔法の力なんだと知ることができました。 続いて自分たちが感じた「きれい」 を形にしていくアクティビティに移っていきます。
メイクアップアーティストを体験したチハルちゃんは、他のキッザニアン(※6)と2人1組になってお客さんとメイクアップアーティストに分かれ、まずは交互にお客さんがなりたい「きれい」のイメージをヒアリング。 ヒアリングが終わったらいよいよ、提案されたメイクアップアイテムを使用しながら自分の顔にメイクを行っていきます。
初めこそお隣の子を意識しつつそーっとチークを入れていましたが、アイシャドウ、リップと進んでいくにつれ、いつしか周りは気にならず、鏡の中の自分にのめり込んでいくようでした。
体験の後でチハルちゃんにメイク中の気持ちを聞いてみると、「だんだん顔が変わってきて、次はどんな感じになるのかワクワクしてた!」と教えてくれました。

一方のパフューマー体験のリナちゃんは、大切な人に贈るプレゼント用のルームフレグランスづくりに挑みます。
花の香りのフローラルやケーキ屋さんの匂いのするスイート、柑橘系のシトラスといった複数の香料 の中から、「贈る相手はどんな人かな?」「その人にどんな気持ちになってほしいかな?」と考えながら3種類の香り を選び、選んだ香料はスポイトを使って自分で混ぜていきます。
時に笑顔をほころばせ、時に驚きに目を見張りながら、リナちゃんは何度も香りを確かめます。

時おり考え込むように手を止めるリナちゃんを見ていると、単に自分の好き嫌いだけでなく、贈る相手のことを想像して、思いやりながらアクティビティにトライしているのが伝わってきました。 誰に贈るつもりで選んだか、体験の後にリナちゃんは、「学校のお友だちをイメージしました。いつも元気で明るい子だから、その子の性格とか雰囲気を思い出しながら作った!」と話してくれました。できあがったフレグランスの感想を聞くと、「華やかな感じでいい香りだし、その子に合ってるかなって思う」と、ちょっぴり恥ずかしそうに、しかし自信のこもる声で答えてくれました。

色や質感で「きれい」を表現するメイクと、香りで「きれい」を表現するフレグランス。それぞれのアクティビティの内容は違えど、繊細な手つきで一心に鏡の自分に向かうチハルちゃんにも、調香しながらお友だちのことを想うリナちゃんにも、ふとした拍子に無心のひたむきさが覗いて、何度も私の方がハッとさせられました。それは私たち大人が何かのために、誰かのために、働き、努力する姿と少しも変わりませんでした。

今回の取材を通じて、私はキッザニアが実にアクティブな「体験」に満ちた街なんだと身をもって感じました。
子どもたちはアクティビティに没頭する中で、自らの五感を駆使しながらまさにその瞬間に世界を感じ取り、学び取っていきます。
そしてそれは、ただ単に与えられるだけのものではないように思います。ビューティスタジオでリナちゃんとチハルちゃんがそのあどけない顔に垣間見せてくれたように、既に子どもたちの中にしっかりと育っているものがキッザニアのアクティビティによって引き出されていく。そしてそういう子どもの可能性を、見守る大人たちまでもが「体験」していく。キッザニアとはそんな場所なのかもしれません。

皆さんも是非、キッザニアを体験してみてください!

※1:前回の体験レポートについては、こちらをご参照ください。
(★関連バナー AkeruEの見学レポートhttps://kidsdesignmagazine.jp/column/021★)
※2:KCJ GROUPは現在、「キッザニア東京」以外に「キッザニア甲子園」「キッザニア福岡」の計3拠点でキッザニア施設を展開している。
※3:スポンサーは「日本ハム株式会社」
※4:スポンサーは「株式会社コーセー」
※5:E@K(English@KidZania) と呼ばれる、全てのパビリオンで行われる英語での挨拶や自己紹介のほかにも、アクティビティを全編英語で進行する「E@K Activity」(実施パビリオンは曜日によって異なる)や毎週水曜日に約半数のパビリオンが「E@K Activity」となる「English Wendesday!」など、様々なプログラムを用意している。今回私たちが参加した「ソーセージ工房」はちょうど「E@K Activity」の日程に当たっていた。
※6:キッザニアの対象年齢は、3歳~15歳。各パビリオンでアクティビティを体験し、キッゾを受け取ったり使ったりできる子どもたちのことを「キッザニアン」と呼ぶ

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