2021.12.6

聴こえない方々に、音をどのように伝えるか? 「Ontenna(オンテナ)」開発者・本多達也さんインタビュー(前編)

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聴こえない方々に、音をどのように伝えるか?

大学生だった本多達也さんは、デザインとテクノロジーの力を使ってそんな課題に挑み、のちに富士通株式会社で「Ontenna(オンテナ)」を製品化しました。
髪の毛やえり元につく丸みを帯びたデバイスを、見たことのある方も多いかもしれません。
研究を始めたきっかけや、当事者のみなさんと協働したデザインのプロセス、最近のワークショップのお話を、本多さんに伺いました。

「感覚のスペシャリスト」とともに、身体と感覚を拡張する

開発のきっかけは何ですか?

大学1年生のとき、たまたま聴覚障害のある方々と出会って、手話を勉強し、手話のボランティアをしたり、手話サークルを学内につくったり、NPOを立ち上げたりしていました。
彼らと接していると、「健常者」とは何なのかわからなくなってきます。聴こえないことによる障害はありますが、一方で、口の動きだけで何を話しているかわかったり、コロナ禍で言えば手話で会話ができるのでソーシャルディスタンスを保ってコミュニケーションを取ったりできます。
僕は大学でデザインやテクノジーの勉強をしていて、研究のテーマは「身体と感覚の拡張」です。彼らを「感覚のスペシャリスト」だと考え、彼らと一緒にデザインすることで、僕だけでは気づけなかったことに気づけます。ろう者の方とさまざまな活動をしていくなかで、耳が聴こえない世界を知るようになり、デザインやテクノロジーを使って新しい体験を作りたいという思いで、大学4年生のとき、Ontennaにつながる研究を始めました。

「こんなの使えないよ」

工夫したのはどんな点ですか?

「どうやって音を伝えるか」にすごく悩みました。最初は、音が鳴ったときに音の大きさに応じてメーターが上がっていくようなものを作りました。アルバイトで貯めたお金を使って一生懸命作って持って行ったのですが、ろう者の方々には「こんなの使えないよ」と言われてしまいました。普段、ろう者の方は聴覚を使わない分、視覚に頼って生活しているので、そこに新しい視覚情報が追加されるとノイズになってしまうことがわかったんです。

そこで、触覚を使って振動で音の特徴を伝えられないかと考え、最初は直接肌につけるものと服につけるものを試しました。しかしこれも、「直接肌につけると気持ち悪い」「蒸れる」「服につけるとちょっとわかりにくい」などの意見がありました。

そんな風にろう者の方と一緒になってデザインをしていくなかで、髪の毛に取り付けらえるようなヘアクリップ型のアイデアが出てきました。

既に人工内耳という機械をつけている方には、「頭につけたくない」と言われることもあったので、他のところにもつけられるようギザギザの形状を取り入れています。えり元やそで口のほか、靴につけている方もいます。身に着けるものなので肌をなじみやすい丸みを帯びたかたちにしています。

機能面では、ろう学校の先生から「休み時間が短いので簡単に充電できるようにしてほしい」という声を聞きました。マグネット式で、パチッと簡単に充電できます。また、コントローラーで複数のOntennaを制御することができるのも特徴です。これによって、リズムやパターンを同時に伝えることができます。

「Ontenna」という名前が意味するのは、「音のアンテナ」です。アンテナというのは、触角という意味もあって、音の触角ということもあります。

大企業だからこそできる社会実装のあり方

どのような経緯で、製品化を実現させたのでしょうか?

いま所属している富士通への、いわゆる「持ち込み企画」ですね。もともと学生時代に「未踏プロジェクト」で研究していたご縁で富士通の常務を紹介してもらい、「Ontennaを作りたいです」と話して入社させてもらいました。
研究から製品にするときは、もちろん予算もありますし、製造工程の構築、安全性、落ちたときに壊れない強度などをトータルデザインをしなければなりません。そういった点では、プロダクトのノウハウが蓄積されていて、予算をつけられるものづくりの企業でできたことが大きかったです。
2014年から研究を始めて、5年経って2019年に製品化することができました。例えば、ベンチャーを立ち上げてやるとなったら、このスピード感で世に出ていなかったと思っています。大企業だからこそできる社会実装のあり方があると考えています。 後編に続きます。

【キッズデザイン賞】
第13回キッズデザイン賞TEPIA特別賞 Ontenna

後編に続きます。

キッズデザイン賞マーク
文章:遠藤 光太