2021.12.21

新渡戸文化学園主催トークイベント「子どものものづくりのこれから」レポート

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新渡戸文化学園主催のトークイベント「【第14回NITOBE HAPPINESS TALK】子どものものづくりのこれから」が、2021年11月12日(金)にオンラインで開催されました。
「NITOBE HAPPINESS TALK」は、さまざまなジャンルのゲストとともに、未来の教育を考える対談イベントです。

「キッズデザイン賞 内閣総理大臣賞 受賞記念」と銘打った今回のイベントで、ゲストに招かれたのはキッズデザイン賞審査員の大月ヒロ子さん。大月さんは、内閣総理大臣賞(最優秀賞)を受賞したプロジェクト「VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT」を、「イチオシだった」と振り返ります。

今回のイベントに、ライターの遠藤が参加させていただきました。当日のレポートをお送りします。

受賞作品「VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT」とは?

「VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT」では、校舎の一角にあるものづくりスペース「VIVISTOP NITOBE」の椅子を、小学5年生が多様な大人たちと共創しました。協力したのは、学校の先生だけでなく、林業で有名な高知県佐川町のデザイナーや林業関係者でした。

子どもたちがアイデア発想、図面・模型制作、発注書づくりを行い、佐川町でデザイナーが構造などを考慮してブラッシュアップ。デジタル工作機械を活用して地元の木材を加工し、最後は子どもたち自らの手で椅子を完成させました。

並行して、オンラインを活用して、高知の林業やものづくりについてのレクチャーや、佐川町に移住した方へのインタビューも経験しました。

詳しくはこちら
https://vivistop.myportfolio.com/vivistop-notobe-funiture-design-project

理事長・平岩さんの呼びかけでイベントスタート

「ぜひパジャマに着替えたり、お酒を飲んだり、週末の楽しみを始めていただきながら、ゆっくりとお聞きいただければ」と、平岩さんのリラックスした声がけから始まった金曜日のイベント。

大月さんは、拠点にしている岡山県からの参加です。
「もともとは美術館の学芸員でしたが、その後博物館づくりをして、今は倉敷の西の端にある玉島という場所にいます。コミュニティから出てくる廃材を分類整理して、それを新しいものに作り替えたり、あるいは使われなくなった建物や土地を新しい解釈で利用し直す、そういう実験室をやっています」(大月さん)

山内さんはプロジェクトが実際に行われた「VIVISTOP NITOBE」から参加。背景にはプロジェクトで作られた椅子が見えます。

「僕が新渡戸に来たのは2020年の4月です。それまでは、大学職員としてイベント・ワークショップ企画をしたり、公立小学校の図工の教員をしたりしていました。

いまアートとかクリエイティブに関わる仕事をしてるのですが、出身の大学は思いっきり文系で、不思議な運命だなと思いながら、今を楽しく生きております。まだまだ毎日試運転の状態ですが、いろんな人と繋がって、盛り上げていきたいと思っています」(山内さん)


平岩さんと山内さんは、“学校らしくない”印象を受けます。学校と言えば、決められたカリキュラムを上位下達で教わり、規則を破ったら厳しく指導される場所ーー。そんなイメージは、過去のものかもしれません。平岩さんと山内さんのほがらかな気風は、新渡戸文化学園の先生方がさまざまなバックボーンを持っていることが関係しているでしょう。

民間企業の勤務経験のある先生は41%、学外の組織の肩書きがある先生は44%を占めているそうです。

「分解と分類」「観察」で、新たな価値が見えてくる

大月さんの活動紹介では、岡山県倉敷市の玉島で取り組んでいることや、これまでのプロジェクトについて説明がありました。玉島では、廃材を集めて、整理・分類し、観察したうえで、創作の材料にします。

「町に出て行って、廃材をいただくということは、町の歴史を知ることでもあるし、自分の暮らしに直結している文化を引き継ぐことや、町の産業や技術の理解を深めることにもなります。廃材、マテリアルの一つひとつの裏側にストーリーがあるな、と毎回思うんですね。

一緒に行く子どもたちに何がおもしろかったかを聞くと、やっぱり廃材をくださった人のお話がおもしろかった、と。町工場なんかに行って、いろいろなお話を聞くと、最初はぜんぜん喋らなかった方がだんだん饒舌になっていって、いろんなお話をしてくれるのがすごくおもしろくて。あるいは遠くから送ってくださるときも、一筆入っていたりして、本当にそれをくださった方の気持ちがそこに乗っかっているのを感じます」(大月さん)

大切にしていることは、新たな発見です。「分解と分類」「観察」といった行為を通して、新たな発見が生まれ、違った価値が見えてきます。

「廃材をもらって帰ってきて並べ替えてみると、素材に見える瞬間があります。同じものがたくさん集まってると、すごい見え方が変わってきますよね。あと触って楽しんだり、音を聞いてみたりとか、並べ方を工夫してみるとか、見る方向もあっちこっちから見てみるとか、あるいは覗き込むとか、透かすとか、そういうことをやって、じっくり廃材と向き合う時間ってすごく豊かです。子どもたちもずっと飽きないでやっていますね」(大月さん)

ほかにも、「手の復権」「想像力の飛躍」といったテーマでお話しくださいました。「子どもたちにあまり構わないで、大人も楽しんじゃえばいいんじゃないかな」と、私たち大人へのアドバイスも。大月さんのお話を伺っていると、岡山を訪れたくなってきます。

子どもたちがやりたいことって何なんだろう

山内さんはときおり、プロジェクトで作った椅子を持ってきて、実物を見せながらお話ししてくださいました。

「画面からはみ出ますよね、きっと(笑)。これはオクタゴンチェアと言うのですが、このグループは『とにかく目立つ椅子を作りたい』という思いでスタートしました。途中では、『バランスボールでビュンビュン跳ねるのがいい』など、紆余曲折あって、レーザーカッターでの模型づくりの段階になってもまだ全然この形じゃなかったんです。

ただ、デザイナーさんとやり取りしていくなかで、当初とは違って、八角形(octagon)と背もたれがとても高いというキーワードが浮かび上がってきて。3Dモデルを受け取って、僕は『これは子どもたちが嫌がるんじゃないか』と心配しました。おそるおそる『ごめん、いろいろ考えたんだけど、これこういう形でしか君たちの思いを実現できないんだ』と言ったら、『めっちゃいいじゃん』と。『だって私たちの思いって、一番目立ちたいことなんだから』」(山内さん)


子どもたちと対等な目線に立ってプロジェクトに取り組んでいる様子がよく窺えます。3Dモデルを見せるときには、子どもたちがクライアントのようになって、「これでいかがでしょうか?」「いや、違う」といったやり取りが行われているそう。

「振り返ると、かつては僕が楽しいと感じる授業を提供していました。でも最近は、子どもたちがやりたいことって何なんだろうと、より一歩子どもに踏み込んで授業をしたいという思いが強くなっている感じがします」(山内さん)

「最近では、『“境界線をなくす”|Eliminate Boundaries』という取り組みをしました。廃材でおみやげを作るプロジェクトです。店頭で販売したところ、驚くことに売上が2万円ほど出ました。子どもたちは大歓声で、「どうしよう、どうしよう」って。それも、僕らが使い道を決めるのではなく、『君たちのお金だから、君たちで決めよう』と伝えました。

最初は素直に個人的な欲求が出てきて、『うまい棒100本買いたい』とか(笑)。それから、クラスのために使いたい、学校で使いたいというアイデアもあり、最後には地球環境のために役立てたい、という意見も出ました。今その思いを受けて、寄付先をみんなで考えようと、ボルネオの環境保全をしている方とつないで、子どもたちの使い道のヒントになるように授業を組み立ているところです」(山内さん)

「とても大事だなと思いますね。廃材だったものに、子どもたちが手仕事をして作品にして、そうしたら価値が出て、それにお金を払う人が出てきて、そのお金で誰かが笑顔になる。ただのゴミだったものから笑顔を産んだループの体験は、子どもたちの人生にとって非常に大きいと思いますよね」(平岩さん)

「まみれる」ことを楽しんで

最後に、3人のトークセッションが行われました。平岩さんがまとめた「本日のハピネスワード」を見ながら、振り返ります。

トークの端々から感じられるのは、まず大人が楽しんでいること。新渡戸文化学園は、「月曜日、行きたい学校になる」を目指し、先生たちが幸せに過ごすことで、子どもたちにも幸せが伝播すると考えているそうです。

「組み立てること、探すこと、そして、まみれることは、楽しいんですよね。そこからスタートできれば、あとはクリエイティビティがグンと上がって、学びが深くなっていく。大事なのは、楽しさの追求かな」(山内さん)

「大人と子どもがフラットな関係で、本気でものを作っているのが伝わってきました。これからのキッズデザインでは、子どもを信頼して、子どもの能力を信じて、きちんと待って、対等に協働していくところに、新しいものが生まれてくるのではないかと思っています。

今までの大人社会でうまくいかなかったことを突破していく力がそこにあると、未来を感じました」(大月さん)


今回、キッズデザイン賞・内閣総理大臣賞(最優秀賞)を受賞したプロジェクト「VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT」は、子どもたちの主体性が必要不可欠なプロジェクトでした。

平岩さんと山内さんが醸し出す空気感を見ていると、主体性を発揮できる素地が学校にあったからこそ、このプロジェクトに子どもたちが楽しんで参加し、成功させることができたのだろうと感じさせられます。

大月さんは最後に、「大人も、子どもにあんまり構いすぎないで、好きなこと・楽しいことを追求してほしいです。きっとそれをそばで見ている子どもは、同じようにきっと好きなこと・楽しいこと追求していくんじゃないかなと思います」とまとめてくださいました。

これからも、大月さん、新渡戸文化学園のご活動から目が離せません。

【新渡戸文化学園 公式YouTube】
https://www.youtube.com/channel/UCOP-3nhdmbnunJ5GudLHpHg

【新渡戸文化学園 公式Instagram】
https://www.instagram.com/nitobebunkagakuen/

キッズデザイン賞マーク
文章:遠藤 光太