2025.1.23
経営者による意見交換会【基調講演】株式会社日比野設計
~子どもの主体的な遊び・学び・行動を考える~
経営者による意見交換会基調講演
代表取締役会長 日比野 拓様
1972年神奈川県生まれ、工学院大学卒業。
国内の幼稚園・保育園、認定こども園などのプロジェクトは600件、世界でも40件を超える。
建築デザインの他、 ワークショップやレクチャー、コンサルティング、海外視察ツアーなども行う。
著書「The World Designed for Children」を2024年1月に発売。
デザインの基は子どもたちが抱える問題
「私たちはいつも、”子どもたちにワクワクドキドキをデザインしよう”という想いの元、子どもたちが抱える問題を考えながらデザインしています」
と語る日比野氏。
空間認識能力は言語能力や必須学力に匹敵するほど重要と言われている。
昨今、子どもたちが抱えている問題も空間設計で解決できることもある。
子どもたちが抱えている問題
✔️読書をする時間が短い
全く読書しない子供よりも1日1〜2時間読書する子どもの方が学力が高い
(2017年東北大学研究調査発表)
✔️スマートフォン、タブレット、携帯ゲーム機で遊ぶ時間が長いほど、言葉の発達が遅れる(トロント大学調査発表)
✔️小中学生の裸眼視力は1.0未満が過去最高(2020年文部科学省発表)
そんな中、日比野氏は「本を読む空間」をデザインしグッドデザイン賞も受賞している。
子どもが自分で本を読むだけでなく、大人が本を手にとり子どものために読み聞かせをしてあげる場作りだ。
「子どもたちがその時の自分の気分や興味に応じて、読む場所や読み方を自由に選べる環境を整えることが大切」と日比野氏は呼びかける。
その他の課題としては
✔️世界人口の22億人 約1/3 が標準体重を超える肥満の危険性(世界的な調査により2018年発表)
要因としては、ジャンクフードの食べ過ぎ、 学校給食の見直し、運動不足があげられる。
そこで、日比野氏は食の空間のデザインを提唱している。
事例)スウェーデンのある幼稚園の食事をする場所
ピンクの壁を使い、食事、白いご飯も白いパンも同じようにピンク色になるため、食事が美味しそうにみえない。
「食事の空間は、できるだけ外に面するなど外光を取り入れたり、中間期で気持ちのいい時期には風を取り入れたり、外の空気を感じながら食べるようなことを大切にしています」
と日比野氏は語る。
運動不足も切実な課題だ。
「幼少期に子どもが経験すべき動作は36ある」と言われているが、中々外遊びができない状況、大人が制限をかけることにより、子どもがそういう動きを得られないということが起きている。
日比野氏が関わったこども園プロジェクトでは、たくさんの段差を作り、運動量が自然に増える仕掛けを作ったり、ネット遊具を通して様々な動きが取れる工夫を凝らしている。
不便や不足こそ人間が頭を使うきっかけ
そこで、日比野氏が感動したシーンがあると言う。
まず、子どもたちはスマートフォンを持っていない。持っているのは釣竿と網。安全対策も施されていないような川の中にいる魚を一生懸命取ろうとしている。遊ぶ道具も作られたものは全くない中でも子どもたちが自分で遊びを生み出していた。
こういう環境は、世界中に実在する。日本だと「危ないからやめなさい」と注意する場面も多いが、不便や不足こそ人間が頭を使うきっかけになる。
過保護と安全は違う
「掃除がしやすいように、怪我をしないように、親から文句が来ないように設計して欲しい、など依頼されることがありますが本質とずれているなと思う。過保護と安全は違うということをお話しています」と語る日比野氏。
バリアフリーやユニバーサルデザインは大切なことだが、幼稚園という特定の人たちが使う環境になってくると切り口は難しい。
園舎にいる時だけ安全ならいいのか?園舎から一歩外に出たら誰も責任を取らない世界が待っていたりする。子どもが将来にわたって安全に学ぶことが最も大切なのではないか。
答えを与えるのではなく創造する機会を
最後に日比野氏からのメッセージとして
「私たちがいつも大事にしていることは、過保護にならないこと。
そして、好奇心を奪わないこと、失敗することを恐れないこと、挑戦すること。保育園、幼稚園は遊園地ではない。答えを与えるのではなく、考えたり、創造したりして行動する機会を与えることを大切にしています」
と締め括った。