2026.3.3

【レポート】キッズデザイン探偵団 「GREEN TERRACE表参道」見学勉強会

  • はたなブックアカウント
  • LINEアカウント

GREEN TERRACE表参道
街にひらかれ、子どもと共に育つ“立体の森”
第19回キッズデザイン賞受賞建築の舞台裏

キッズデザイン協議会の会員企業で構成する「キッズデザイン探偵団」は、第19回キッズデザイン賞を受賞した「GREEN TERRACE表参道」で見学勉強会を行いました。 当日は、設計を手がけたツチヤタケシ建築事務所の土屋さん、そして有限会社スリーエフの中澤さんにお話をうかがいました。

子どもが使いやすい建物は、すべての世代にやさしい建物

「子どもが使いやすいということは、どの世代の方にとっても使いやすいということです。あらゆる方が平等に建物を楽しめるようにしたいと思っています」
そう語るのは、GREEN TERRACE表参道の設計を手がけたツチヤタケシ建築事務所の土屋さんです。同事務所は幼稚園・保育園・公園など、子どもに関わる施設を数多く設計しており、キッズデザイン賞の受賞は今回で5回目になります。
今回の建物は商業ビルでありながら、子どもや子育て世帯が安心して過ごせる工夫が随所に散りばめられています。
その背景には、かつてこの地にあった「クレヨンハウス」の存在がありました。
「クレヨンハウスさんの思い入れや、親子が過ごした時間の記憶を、できる限り新しい建物にも継承したいと思いました」
GREEN TERRACE表参道は、“緑の記憶・親と子の記憶・素材の記憶”を未来へつなぐ建築として生まれ変わりました。

街にひらかれた1階──歩行者の安全を守る“セットバック”という選択

建物の1階に立つと、印象的なのは道路から大きく奥まった広い前庭空間です。
「以前のクレヨンハウスさんは道路ぎりぎりまで庭がありました。バギーで来られる方は交通量の多い細い道路を歩かざるを得なかったんです。それをまず解消したいと思いました」
地域全体の歩行環境を改善するため、隣接建物の階段の向きを変える交渉まで行い、表参道の遊歩道からまっすぐ抜けられる歩行者動線をつくり出しました。

1階の軒下には、子連れの方が安心して休めるスペースが広がります。
•ゆるやかな勾配でバギーが滑り落ちない
•道路側には溶岩石を配置し、飛び出しを防止
•角の植栽が“車が入りにくい”心理的バリアに
「右折してくる車が意識的に敷地内に入らないように避ける心理的な効果があります」
安全性と景観を両立した、子どもにやさしい街角が生まれています。

屋上から地下まで続く“立体の森”──緑の記憶を未来へ

GREEN TERRACE表参道のもうひとつの特徴は、建物全体を包み込むような豊かな植栽です。
「もともとのクレヨンハウスの植物が豊かな環境を、新しい建物でも引き継ぎながら、より立体的に、いろんな人が来られる場所にしたいと思いました」
屋上には明治神宮の森とつながるような植栽が広がり、300〜400種類もの植物が四季を彩ります。冬でも“枯れ姿が可愛い”種類を選ぶなど、季節ごとの表情を大切にしています。
さらに、雨水を地下に貯めて循環させる仕組みを採用し、壁面緑化や花壇の水やりに活用しています。
「建物の柱の中にチューブが通っていて、雨水をポンプアップして循環させています」
自然と共生する姿勢が、建物全体の心地よさにつながっています。

子どもの宝物が建物の一部に “親と子の記憶”を刻むテラゾー

屋上でひときわ目を引くのが、特注のテラゾーカウンターです。
「ビー玉などを埋め込んで削り出す仕上げです。。放課後デイサービスで乗⾺体験ができるヒポトピア(※)の子どもたちや愛育学園のお子さんたちに宝物を募って、ここで選んでもらいました」
子どもたちが大切にしていた小さな宝物が、建物の中で輝き続ける。それは、かつてこの場所で育まれた“親と子の時間”を未来へつなぐ仕掛けです。
階段を降りると、各階に設置されたテラゾーベンチにも異なる素材が埋め込まれています。
•4階:ワイン瓶、青いベネチアンガラス
•3階:三日月型のベンチ。⾚いベネチアンガラス、⾙殻、⽔晶。子どもも大人も座ったり寝そべったりできる
•2階:緑のベネチアンガラス •地下:本物のアンモナイトを埋め込んだベンチ
「子どもが座ったときに“あ、これなんだろう”と発見できるようにしています」
階段を降りる行為そのものが“冒険”になるように設計されています。

※「ヒポトピア」は第18回キッズデザイン賞受賞したヒポの森に隣接した、ホースセラピーを通じて児童の発達支援を行う乗馬クラブです。地域に開き、あらゆる世代が障がいの有無に関わらず集い、馬や自然と親しむことのできる憩いの場をつくりたい。 という事業主とその賛同者によって創設されました。

材の記憶をつなぐ──旧クレヨンハウスのレンガを新しい床へ

GREEN TERRACE表参道は、旧クレヨンハウスの素材を丁寧に再利用しています。
「レンガタイルを解体時に回収して粉砕し、階段の床に撒いています。大地をイメージした色です」
過去の素材を新しい建物に還すことで、“ここにあったものが、形を変えて生き続ける”という物語が生まれています。
また、幼稚園・保育園の設計経験を生かし、手すりは二段構造で子どもが握りやすい形状に。階段の隙間や落下の危険性にも細やかに配慮されています。

地下の静かな時間──天候と連動するインタラクションアートと授乳室

地下へ降りると、天井に広がるインタラクションアートが出迎えてくれます。
「外の時間を反映して映像が変わります。夕方はきれいな⼣暮れが現れ、夜には夜景となります。雲はAIで動物の形に変わりながら流れます」
9時から21時まで、三の倍数の時間には1分だけ花火や⾶⾏機が上がるという遊び心もあります。
さらに、地下には子育て世帯にとって欠かせない設備が整っています。
•⼤型ベットも併設された車いすでも余裕のある多目的トイレ
•勾配天井で“おうちのような”落ち着いた授乳室
•おむつ替え台2台とユニバーサルシート(授乳室)
•ハンドルを回すと曲が流れるオルゴール(2〜3ヶ月ごとに曲を変更)
「店舗や屋外のベンチとは異なる、落ち着いた雰囲気にしています」
子どもと保護者が安心して過ごせる“静かな避難場所”のような空間です。

クレヨンハウスの記憶を抱きながら、街と共に育つ建物へ

GREEN TERRACE表参道は、単なる商業ビルではなく、「ここは誰でも来られて、休憩できる場所をつくりたいという想いがありました」
子どもにやさしい建築は、街をやさしくします。
GREEN TERRACE表参道は、そのことを静かに、そして力強く示している建物だと感じました。

参加メンバー(セコム・フレーベル館・LIXIL住宅研究所・積水ハウス・ミサワホーム・)と有限会社スリーエフ 中澤様


建物一階と地下にはキッズデザインマークも!ぜひ探してみてください

参加者の感想

・土地の記憶を新しい建築として今に残すというものが素敵だったなと感じました。 また、記憶だけでなく環境も発展的に再生していく姿が敷地内に表現されており、空間デザインの力を感じました。(フレーベル館 中野さん)
・これまでの記憶を継承し、これからの環境をつくる」というコンセプトがいろいろな場面で散りばめられていて、使う人が快適でありながら、環境にも良い素敵な場所でした。デザインの工夫や雨水の利用など、見た目も設備も整った空間でしたが、何より居心地の良さを感じました。また、行きたいな、居場所がたくさんあっていいな、と思いました。(LIXIL住宅研究所 伊藤さん)
・子どもや子育てをされている方がほっと一息つける工夫が随所に設けられていて、本当に居心地の良い空間でした。また、子どもたちの宝物であるビー玉をベンチに埋め込むなど、細部にまで温かなストーリーが感じられる点も素敵でした。(キッズデザイン協議会 服部)
・外観からは想像できない、土屋さんならではの新しい工夫やユニークな発想が建物全体にちりばめられており、随所に発見がある、とても優しい空間でした。特に子ども目線を取り入れることで、街全体がより親しみやすく、長く愛される環境へと変わり、心地の良さにつながることを、GREEN TERRACE表参道で実際に体感できました。 (キッズデザイン協議会 嵐)
・都会の中で自然を感じられる温かい空間でした。木々の選定などの細部への配慮や、屋上へと続く各階のベンチに込められた以前の建物の継承、地域の方々とのつながりまで洗練された建物とステキに融合されていました。年代を問わず誰もがほっと一息つける安心感があり、また四季を感じに訪れたいと思います。 (キッズデザイン協議会 橘)

■GREEN TERRACE表参道受賞作品ページ
HPはこちら
■ヒポの森受賞作品ページ
HPはこちら
キッズデザイン賞マーク
文章:吉岡 麻衣