2025.7.25

子育て世代のインサイトから見るミライ予測
~妊活・プレコンセプションケア・フェムテック~

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子育て世代のインサイトから見るミライ予測
~妊活・プレコンセプションケア・フェムテック~


「子ども目線のデザイン」を広める活動を行っているキッズデザイン協議会は、「子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン」「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」「子どもを産み育てやすいデザイン」という3つのミッションを掲げています。
なかでも近年、社会的に注目が高まっているのが、“産み育てやすい”という視点です。
これは、単に子育て環境を整えることにとどまりません。妊娠に向けた準備段階から、情報と支援の手が届く仕組みをどう整えていくかという、「未来をつくるデザイン」でもあります。
そこで今回は、『妊活たまごクラブ』創刊編集長をお迎えし、実際に妊活の現場で起きている変化や、読者である現場の声・リアルな体験談、そしてプレコンセプションケア(将来の妊娠に備えた健康管理)の重要性について、お話を伺いました。

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株式会社ベネッセコーポレーション
たまひよ統括編集長(『妊活たまごクラブ』創刊編集長)
米谷 明子(よねや あきこ)様
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青森県出身。弘前大学教育学部卒業後、妊娠・育児系の出版社を経て、2007年に株式会社ベネッセコーポレーションに入社。『妊活たまごクラブ』創刊編集長を務め、現在は『たまひよ』統括編集長として、妊娠・出産・育児を取り巻く社会課題に向き合い続けている。育児情報の発信に加え、自治体や企業向け講演、弘前大学応援大使としても活動中。

『妊活たまごクラブ』創刊の背景

『たまごクラブ・ひよこクラブ』は1993年に創刊して、妊娠・出産・育児をテーマに多くの方に読まれてきました。ただ、2013年に創刊20周年を迎えたときに気づいたんです。

妊娠や育児の前段階にあたる“妊娠を望む人たち”にも、たくさんの課題があると。ちょうどその頃、『妊活』という言葉も徐々に広まり始めていました。NHKの『卵子の老化』特集などもあって、社会的にも大きな関心が集まりましたね。そこで『妊活たまごクラブ』を立ち上げることになりました。あれから10年。今は“妊娠したら読む”ではなく、“妊娠する前から伝えたいこと”が増えていると感じています。

「妊活」を取り巻く世の中の変遷

妊活は「ふたりごと」へ

不妊の原因は、今は男女半々にあると言われています。昔は多くは女性に原因があると思われがちでしたけど、今は夫婦で一緒に向き合うものになってきていますよね。『妊活』という言葉も、当時、大島美幸さんが妊活休業を発表されたことで、一気に広まった印象があります。医療の話だった不妊治療が、夫婦のライフスタイルとして語られるようになったというか。最近は“産まない選択”や“男性不妊”も自然に話題に出るようになって、妊活という概念自体が広がってきているなと感じます。

プレ妊活という新しい視点

『プレコンセプションケア』という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、“妊娠する・しないに関わらず、将来のために自分の健康と向き合おう”という考え方と、私は説明しています。
特に10代〜30代のうちから、生活習慣を整えたり、婦人科に通って体を知ることは、実は妊娠・出産だけでなく、自分のその後の人生にも影響してくるんですよね。
適正体重の維持、禁煙・禁酒といった基本的な生活習慣の見直しに加え、将来の妊娠・出産・子どもの健康、さらには自身の更年期や老後にまで影響を及ぼすことが知られるようになりました。
『妊活たまごクラブ』でも、“プレ妊活”という言葉を使いながら、若い人たちにも届くような伝え方を工夫しています。最近は行政も力を入れていて、社会全体でこの意識を高めていこうという動きが広がっています。

妊娠〜子育て世代のインサイト『子どもを育てにくい時代!?』

正社員ママの時代、そして「孤育て」の時代へ

ここ数年で読者の働き方も大きく変わりました。2018年にはママの読者の正社員率は3割ほどでしたが、2024年には76%に。パパの育休制度も進み、夫婦で仕事と育児を両立するのが当たり前の時代になってきました。ただその一方で、祖父母世代も現役で働いているため、昔のような“里帰り出産”が難しくなり、夫婦ふたりだけで子育てをする『孤育て』が増えてきているのも事実。コロナ禍以降は『子どもが欲しいけど不安』『自分にちゃんと育てられるか自信がない』という声が、よりリアルに届くようになりました。

「産まない」選択肢も大切にしたい

以前は“妊娠に導くためのメソッド”を伝えることが中心でしたが、いまは“選択肢を広げる”という方向に大きく舵を切っています。
『妊活たまごクラブ』は、妊娠・出産をゴールにする雑誌ではありません。“子どもを持つ・持たない”“妊活をする・しない”そのどちらの選択も尊重される社会でありたい。
だからこそ、“妊娠してもしなくてもいい”“知ったうえで自分で選択する”という価値観を大切に、妊活をライフキャリアの一部として捉える姿勢を伝えていきたいんです。いまを生きるひとりひとりが、自分の未来をどう生きたいかを考える。そのきっかけになる情報を、これからも届けていきたいと思っています。

妊活・プレコンセプションケア・フェムテック
~気になるミライ予測ワードやアイテム、トピックス~

子育てをポジティブに捉えられるように

以前たまひよがZ世代に実施した調査で、「将来子どもを持ちたい」と答える大学生は8割。妊娠や育児にポジティブな関心を持つ若者がいることに、私たちは希望を感じています。一方で、「子育ては大変そう」というネガティブな印象も根強く、当事者たちがポジティブな声を発信しづらい空気もあります。
『たまひよ』では、子育てを“社会全体の営み”として捉える「チーム育児」の視点を広めています。支援や共感の輪が広がることで、子育てはもっと温かく、前向きなものになると信じています。誰もが当事者になれる視点を、これからも届けていきたいです。

育児にも“タイパ”と“プチご褒美”の視点を

育児にも「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「プチご褒美」の発想を取り入れることで、ママパパの心に少し余裕が生まれ、笑顔が増える。そんな前向きな提案を紙面でも発信しています。また、フェムテックも“気持ちを軽くする道具”として紹介中。共感を軸に、育児や妊活が少しラクになる視点を広げていきたいと思っています。

『妊活たまごクラブ』が目指す未来

今、若い世代のあいだで“子育てが大変そう”“つらそう”というイメージが広がっているのを感じます。支援制度は整ってきてはいるものの、『育児している人だけが優遇されてる』というようなSNSの声や、24時間見守りが必要な新生児期のリアルな負担、そして人に頼りにくいネガティブな不安などが影響しているのでしょうね。
だからこそ私たちは、妊娠や出産のことだけでなく、その先の育児やキャリア、パートナーシップまで含めて、“知っておいてよかった”と思える情報を、妊娠前の若い世代に向けて発信していきたいと思っています。身体のこと、人生設計のこと、それらを“自分ごと”として考えるきっかけを届けたい。
妊活は“特別な人だけのもの”ではなく、“誰にでも起こりうる未来”の話。だからこそ、“妊娠する・しない”に関わらず、自分の健康や人生に向き合うことが、プレコンセプションケアの本質なんだと思います。
誰かの立場に共感する視点が、社会を変えていく力になると信じています。『たまひよ』も “みんなで子育て”というメッセージを、これからも大切に伝えていきたいです。
上段左より
小山副会長、河﨑副会長、坂井会長、米谷様、森口さん(コンビウィズ)、高橋理事
下段左より
中尾さん(Deep People)、川本さん(大阪産業局)、舟生部会長(セコム)、伊藤さん(LIXIL住宅研究所)

キッズデザイン賞マーク
文章:池尻 浩子