2022.2.24
「体は命令通りに動かない」「心は命令されるとつまらない」
愛する宮崎県をキッズデザイン賞が溢れる町へ
2017年以降、5年連続、計6つのキッズデザイン賞の受賞歴のある豊福さん。今では、コンテンポラリーダンスカンパニー「んまつーポス」代表/振付家・ダンサー・研究者として活躍されていますが、実はダンスは大学から始めたそうです。大学時代は教師を目指し教育文化学部の初等教育コースに通い、大学で出会った恩師の影響でダンスに対するイメージが180度変わり、振付家の道へ。幼少期から常に人から「見られる意識が強かった」という豊福さん。活動拠点の宮崎への想い、子どもたちの未来に対する情熱、そしてキッズデザイン賞との出逢いから受賞後の環境の変化についてお聞きしました。
環境の変化さえも芸術を生み出すヒントに
コロナ禍で世の中が一変しましたが、今は主にどのようなご活動をされているのですか?
コロナ禍になってからは、換気をしなくてはいけないけれど、窓を開けて音楽を流すということが出来ないという騒音問題の壁がありました。
そこで、ワイヤレスヘッドホンを使って参加者全員が音楽をオンタイムで共有しながらダンスを鑑賞する「サイレントダンス公演」というものを実験的に開催しています。換気をしつつ、音楽を聞きながらパフォーマンスを見ることが可能になりました。
また、自分の分身であるキャラクター(アバター)を操作してさまざまな活動ができる「メタバース」で、子どもたちとどんなことができるのか?どんなものを生み出すことができるのか?ということを“共創”する「ちいきメタバースクラブ」という活動もスタートさせました。文化庁令和3年度地域文化倶楽部創設支援事業として実施しています。
バーチャル空間で一緒にダンスを“創る”ことができるのではないか?という試みを子どもたちと実験中です。
子どもと芸術家を繋ぐ新たな役割
コロナ禍で活動が制限されることも多いかと思います。チャレンジされている活動の起点にはどのようなものがありますか?
学校でのワークショップが対面からオンラインへ変更することが増えました。僕たちもコロナ禍になってすぐにオンライン用のダンス教材を宮崎大学と開発しました。2020年のキッズデザイン賞に受賞した「子ども(ポストコロナの主役)の思考回路を逆転させるアートプロジェクトSAKASA」もその一つです。コロナをきっかけにいろいろな新しい取り組みが生まれました。
学会でも発表したのですが、オンラインだからこそ、学校の先生と新しい協働が生まれたと思っているんです。僕たちは、よく学校でも活動していますが、アーティストが入ると、先生方は遠慮されるのか、「お任せします!」と言われたり、引いてしまいがちです。
けれど、オンラインになると、現場にいる先生は本領を発揮されて、画面上で僕たちが何かを言うと「アーティストさんは、こう言っているよ」と復唱してくださったり、子どもたちの反応を僕らに「こう言っています!」と伝えてくださったり、本当に積極的にファシリテートしてくださいます。
オンラインって儚いじゃないですか。突然、電波が途切れてしまうかもしれない。だからこそ、これまでは、「当日が楽しみです!」と言っていた先生が多かったのですが、事前に僕らが何をするのかを教えてほしいと言ったり、活動の流し方を確認させてほしいと言ったりすることが増えました。オンラインになってからは、電波が途切れたら自分が頑張る!という先生方の意気込みを感じます。
▲ダンスカンパニー「んまつーポス」と宮崎大学の恩師高橋るみ子さん
キッズデザイン賞受賞後、活動が大きく展開
毎年応募してくださり受賞されていますが、この賞に応募されたきっかけを教えてください。
「んまつーポス」メンバーのみのわが、「賞がほしい!何か僕らにぴったりな賞はないかな?」と言うので、アンテナをはっていたところ、一般社団法人宮崎県発明協会というところにキッズデザイン賞のポスターが貼ってあったんです。
「僕らが大切にしていることがここにある。これだ!」と思いました。その頃、復興支援事業として福島県いわき市にあるいわき芸術文化交流館アリオスと共同でプロジェクトを継続的に実施していたので、それをテーマにすぐに応募したんですよ。
受賞された後で反響や嬉しかったことはありますか?
まず、取材やメディアに取り上げられることがすごく増えましたね。2019年にキッズデザインの“経済産業大臣賞”を受賞した「昼は保育園、夜と週末は劇場!透明体育館きらきら/国際こども・せいねん劇場みやざき」のことやその劇場プログラムが取り上げられることも増えて、それは本当に良かったなあと思います。
▲2019年 経済産業大臣賞 受賞
また、2018年にキッズデザインの”協議会会長賞”を受賞した「美術館で汗をかこう!」というプロジェクトも受賞後反響があり活動も大きく展開しましたね。
エデュケーションプログラムで子どもたちとアートを繋ぐプロジェクトを展開している美術館は全国各地にあります。受賞前も、美術館での活動はありましたが、ダンスって消えてしまうので、色々な形で説明しないとなかなか伝えられないというのがあったんです。
受賞後は「受賞したプログラムをうちの美術館でやってほしい!」と美術館からお声がかかったり、僕らがプレゼンする時にも「このプロジェクトは子どもの創造性と未来をひらくデザインで、キッズデザイン賞も受賞しています」伝えると、「それは良さそうですね」と伝わりやすい。持続可能なプロジェクトを起こしていく際にキッズデザイン賞というロゴやお墨付きがあるのが良いですね。
自治体や教育関係者の中でここ数年、活動が広がったことはありますか?
全国でみても九州でみてもキッズデザイン賞受賞者が宮崎県には少ないんです。宮崎県の受賞者は歴代合わせて9件。そのうち6件は僕たち。そもそも県内で、キッズデザイン賞を知っている人もそんなに多くない。
そこで、宮崎県にキッズデザイン室ができないかなと行政にかけあっているんです。「キッズデザインのある街・みやざき」を目指して。子どもに良いプロダクトや活動があったら、キッズデザイン賞と結びつけられますよ!ということが出来るような「キッズデザイン室」。
前例がないということもあり、部屋を創設するまでには至ってはいないですが、子どもに良いということは、子育て世代や高齢者にも住みやすい。そして、県外からの移住者、特に子育て世代が増えるのではないか、とすごく賛同してくださる方も多いです。
次に教育関係者とのつながりについてですが、実は、僕らは教職大学院を修了しています。
また、僕らのボスでもある宮崎大学産学・地域連携センター客員教授の高橋るみ子先生は、教育学部在職中に、舞踊教育を担当されていました。それで、県内には先生から指導を受けた、僕らの先輩でもある教員があちらこちらにいます。その中には指導主事もいて、学校や先生方と協働しやすい関係性があります。
これからはキッズデザイン協議会の皆さまと一緒にコラボレーションして宮崎県でイベントも開催したいですね!
海外でもご活動されているようですが、どのような思いで海外発信をされているのですか?
現在、文部科学省のEDU-Portニッポン※の中で日本型教育の海外展開授業を行っています。
一番の動機というか出発点は、僕らが出自としている「創作ダンス」は日本では敬遠されているんですよね。学校現場でも「どう評価すればいいのか分からない」と言われる。ただ、海外で共同している振付家たちに、日本型教育である「創作ダンス」を紹介すると「学校の中で、すべての子どもたちが創るダンスをやっているなんて、日本すごい!」と言われます。海外の反響を日本にフィードバックすることで、日本の「創作ダンス」の再評価をはかるということも目的の一つです。
EDU-Portニッポンでは、相手国とダンス教材を開発したり、海外で生まれたものを日本に持ち帰りフィードバックしていくことで、日本の教育も豊かにしていくことを目標としています。
私の大学院のゼミの先生も「学校で唯一分からないと言っていい領域が創作ダンス」とおっしゃっていました。普段学校で「分からない」となかなか言えないじゃないですか。でも「創作ダンス」は「何だか分からない」と胸張って言える良さがある。教育の中に「分からないと言える場所がある」というのが大切ではないかと思っています。
※EDU-Port ニッポン…官民協働のオールジャパンで取り組む、日本型教育の海外展開を推進する事業です。
▲活動団体「んまつーポス」
キッズデザイン賞は豊福さんにとってどのようなものでしょうか?
僕らの拠点が「国際こども・せいねん劇場みやざき」という名前で、キッズデザインには子どもと青年というワードもあり、キッズデザインの想いそのものが僕らのミッションと一致していて、切っても切り離せないものだと思っています。
そして活動でプラスだと思っているのが、色々な分野の審査員の方々が、評価をしてくれるというところです。顕彰制度というのも魅力ですね。自分たちが行っている活動を自分たちがいいでしょと言ってもなかなか伝わらない。色々な方が外部評価してくださることで、社会的にこの活動はどうなのか?ということが伝わるのもよいと思っています。
今後めざしていきたいこと、展望を教えてください。
宮崎県が九州で一番キッズデザイン賞を受賞している県になればいいなと思いますね。キッズデザインの溢れるまちはきっといい街になる。子どもにいいってことはみんなにいいでしょ!と思っているので、キッズデザインがある町というのを継承していけたらいいなと思っています。