2022.2.28
ジャクエツ「with」開発インタビュー (後編)~子どもの頃のワクワクを詰め込んで~
”with”要素がうまく形になった試作品。しかしそこには課題も?
発想の転換ともいえる新しい試みをされたこのwithですが、開発する上でのご苦労や配慮、工夫をお聞かせいただけますか?
(浅田さん)僕は入社して間もなくの開発だったのですが、このwithが挑戦とかアクティブといったキーワードをコンセプトにしているので、新入社員だからこそのフレッシュさを活かそうと、思ったことは前のめりにどんどん発言していきました。入社していきなりの開発設計でワクワクしていましたから、苦労しながらも楽しかったですし、製品にとってもよかったのかなと思います。やっぱり作り手側が嫌々やっていたらつくれない楽しさもあると思うので。
若手の意見もちゃんと聞こうとして、受け入れられるその気風というか、関係性が素敵だなと思います。
(稲口さん)そういう傾向はあると思います。デザインに関しては年次の優劣はないので、風通しはいいですよ。無理なことももちろんありますけど(笑)こういうのやりたいって言われて、「そこはもうちょっと抑えて」みたいなことは実際ありました。今回は本当に全部の機能を作り変えるくらい新しいことをやっているので、いろんなアイデアが膨大に出ていたんです。
試作品を子どもたちに遊んでもらった時の反応はいかがでしたか?
(稲口さん)反応は思っていた以上によかったです。私たちが予想していた以上に”with”感が出ました。コンセプトが言わずとも子どもたちに伝わってよかったなと。例えばスライダーなんかも、もちろんできない子がでてくるんですけど、同級生が滑るのを見ているうちに、いつの間にかできるようになっていたり。
(浅田さん)子どもたちの様子から製品の課題が見えてきた部分も大きかったです。例えば、パイプクロスという吊り橋があるんですけど、ここは元々屋根がなかったんです。子どもたちが遊ぶ様子を見てつけることになりました。僕たちも思いもよらなかった所に登って立ち上がっちゃう子が出てきたので、それは流石に危ないだろうと。逆に、僕らが想定していたよりも簡単にクリアされてしまう機能もあったりして、その時は「もっと難しい機能を考えなきゃな」と思いましたね。
苦労して試作に漕ぎつけたものの、今度は子どもたちの試作品の遊び方によってまた課題が見えてきた、ということですよね?
(稲口さん)そうですね。それは遊具につきものの悩みなのかもしれないですけど、今回withはコンセプト上かなり挑戦的な設計をしているので、バランスの見極めは特に繊細な作業でした。遊具は年齢で対象をカテゴライズしていますけど、例えば三歳児といっても生まれに一年の幅があるわけですよね。発育上その差はやっぱりとても大きいので、難易度の設定は特に難しかったですね。
自分が子どもの頃に感じたワクワクを大事に
ジャクエツさんはCSD認証(※2)を取得頂いておりますが、それは開発設計をする上でどのように役立っていますか?
(稲口さん)新商品開発においてはCSD認証が安全面のポイントになっていると思います。キッズデザイン目線で、子どもたちにとってどういう遊具でありたいのかを考えるときに、しっかり計画の段階から記録・検証をしていく体制ができたのは、CSD認証をいただいたおかげだと思っていますし、安全性とそれに相反する遊具の遊びについて踏み込めたのではないかと思います。
それから、このプロセスに則って開発された新商品はキッズデザイン賞の方にも応募できるので、我々ももっとワクワクできますね。
withが今年の第15回キッズデザイン賞を受賞したことによる影響はありましたか?
(浅田さん)個人的なことで言いますと、私はまだまだ何もわかっていないような若手なんです。それでもこうして今回キッズデザイン賞をいただくことができたのは、純粋に自信に繋がりました。
それから、部署内で言えば、後輩にとっても刺激になっているのかなと思います。実際に「自分も獲ってみたいです」という言葉をもらうこともあって、僕も負けないようにしなきゃなと改めて思えました。
最後に、お二人がキッズデザインに即した商品開発をするにあたって、心がけていることや子どもたちへの想いをお聞かせいただけますか?
(稲口さん)私自身、子ども時代から続いている想いがあるんです。私が保育園に通っていた頃、ジャクエツの遊具で遊んでいたんですけど、その体験はずっと頭にあります。
それと、その頃に見た、アポロ号が月に行ったときの興奮や、ロケットのカッコよさだったり、打ち上がるときのワクワクだったりは今でも心の中に残っています。そういう幼少期に感じた思いが、今でも商品開発に向かう原動力になっていると思いますし、これから新たに作品をつくっていく上でも大事にしたいです。子ども時代に「こういうものがあったらいいのにな」って感じたことを今つくっている、ということかもしれませんね。おこがましいかもしれませんが、その遊具で遊んだ事がきっかけでこどもたちの未来の夢が膨らむとしたら大きな喜びです。
(浅田さん)私も「自分がどれだけ楽しめるか」ということは意識しています。自分が小さい頃こういうことしたなっていう思い出はやっぱり商品のアイデアやコンセプトを考える段階で出てきますので。まず自分がワクワクできるか、楽しめるか、ということが大事かなと思っています。
それから、特にこういう大きい遊具の開発にかかわる場合は、20年くらいその遊具が残ることになるんです。
だから例えば今withで遊んでいる子どもたちが僕くらいの年齢になったときに、「小さい頃あの遊具で遊んだよね」って話に上がる未来はイメージしながら開発に望んでいます。子どもたちの記憶に残って、何かの種になる遊具をつくっていきたいなと思います。
取材は終始なごやかな笑いに包まれながら進んでいきました。
自分の子ども時代のワクワクを忘れず、子どもたちの未来のために同じビジョンを共有して一つの遊具を作り上げる。二人の間には確かな信頼関係が伺えました。
楽しそうに話すお二人を見ていると、withを前に喜ぶ子どもたちの姿が目に浮かぶようでした!
注解: ※1:CSD認証 企業に対し、子どもの安全性を高めるためのプロセスを経たことを認証する制度。「子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン」に関する安全性のガイドライン(キッズデザインガイドライン)の遵守と、規定のキッズデザインプロセスの導入・循環が求められる。キッズデザイン協議会が本認証事業を実施しており、産業界の安全品質の底上げと平準化を目的としている。 ※2:GAMBAのインタビュー 右記記事参照