2022.3.1

若手中心の発案したプロジェクトで 社内も活性化、受賞もできた~ミサワホーム「SMART Brands WS」~

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2020年12月末に発売されて以来、大きな反響を呼んでいるミサワホーム の企画タイプ住宅「SMART Brands WS」。コロナ禍で2020年春頃から感染症対策が必要になり、在宅ワークが一気に広まるなど、暮らしが急激に変化しました。当時、「これからのwithコロナ、afterコロナという時代を見据え、どのような暮らし方が求められるのかいち早く世の中に提案していきたい」と、ミサワホームでは緊急のプロジェクトチームが組まれたそうです。メンバ ーに選ばれたのは、20〜30代の若手社員。出社が制限されるなか、当時はまだ導入されて間もないオンラインによる打合せを中心にコミュニケーションをとりながら、商品リリースに向けた取り組みがスタートしました。

「SMART Brands WS」のメインコンセプトは「在宅ワーク」×「衛生対策」。
新鮮な発想を持つ新入社員も含めたメンバーで、この2つのソリューションを1か月でアウトプ ットまで繋げていったプロジェクトの背景を、
在宅ワーク設計ガイドラインを担当された中川萌さん
衛生対策ガイドラインを担当された土屋奈美子さん
そして、プロジェクトリーダーの富田直樹さんに伺いました。

「SMART Brands WS」はどのような住宅なのでしょうか。作品の概要・設計コンセプトをお聞かせください。

富田:「SMART Brands WS」は、暮らしを豊かにする3つの「NEW NORMAL DESIGN」をコンセプトに構成された企画タイプ住宅になります。

「STAY DESIGN(ステイデザイン)」
「MY DESIGN(マイデザイン)」
「LIFE DESIGN(ライフデザイン)」

その中の「STAY DESIGN(ステイデザイン)」では、大きく分けて2つ、在宅ワークと感染症対策の提案をしています。

まず在宅ワークについてですが、ミサワホームでは、グループのシンクタンクであるミサワホーム総合研究所が暮らしに関するマーケティングリサーチを行っています。
同研究所が20 20年6月に行った「新型コロナウイルス影響下における住まいの意識調査」において、在宅で仕事をする上での困りごとが見えてきました。

在宅ワークが急激に進んだことにより、「仕事に適した部屋がない」「仕事に適した設備がない」「運動不足になる」などの問題が顕在化してきたのです。
皆さん、ご自身で多少手を加えたりされていましたが、やはり手がかかります。

衛生対策に関する調査では今後住まいで取り入れたい要素について「家にウイルスを持ち込まない工夫」を伺うと、「玄関にコート掛けがほしい」「手洗いまでの導線計画を配慮していきたい」という回答が多く、衛生対策への意識が急激に高まってきていることが浮き彫りになりました。 こうしたエビデンスを生かしてガイドラインを作成しました。

中川:在宅ワーク設計ガイドラインでは、住宅の中にどのようなワークスペースを確保していけば良いかということをまとめていきました。

私達も会社に行けず在宅で業務を行わなくてはいけない状況の中で、各々の気づきや「在宅と言っても一つのワークススペースでは難しい」といった意見を出し合いました。

今までは、「家」は家族と過ごす所や寝る場所であって、そこに仕事を持ち込むことはあまりなかったのですが、在宅ワークが普及し、それに伴う環境の優先順位が変わりました。

働く環境として整備されたオフィスとは違い、自宅には仕掛かりの家事や時には子どもを見ながらなど、色々な状況があります。
そうした、家庭で発生する仕事とは関係ないノイズのようなものも刺激として受け止め、その刺激をプラスに働くようなライフスタイルができないかと考え、

集中したい環境「フォーカス」
リラックスする環境「スイッチ」
ひらめきなどクリエイティブの環境「リチャージ」

仕事環境をこの3つに分けて、どのように住まいにデザインしていくか、体系立ててまとめていきました。

今までは、会社でするものだった仕事が今後は生活と一体になります。そうして「Life」と「Relax」の中に「Work」が入ったときに、その影響がプラスに働いて生産性がより高まるよう、「フォーカス」「スイッチ」「リチャージ」の3つの仕事環境を定義しています。

富田:ミサワホームの中では「フォーカス」「スイッチ」「リチャージ」は今や社内共通のことばになっています。 総合展示場を作る際も3つのワークスペースを必ず設けて提案することが定着しています。こうしたソリューション展開の第1弾として開発した商品が、「SMART Brands WS」になります。

設計ガイドラインはかなり細かく、空間作りから照明計画、空調などの環境、そして家具、吸音対策などの具体的な提案アイテムまでお客さまにご紹介しています。

そして2つ目の「感染症対策」ですが、withコロナ以降、人々の衛生に対する意識は大きく変わったと考えています。
「(コロナ禍以前の)今までの生活でもいい」という方も中にはいらっしゃいますが、多くの方にとって衛生意識は高まっており、そしてその意識は今後も続くか、より高まっていく傾向にあると感じています。そうしたなか、ミサワホームでは衛生対策をガイドライン化しました。

土屋:衛生対策に取り組み始めたのは2020年の夏頃です。まだ新型コロナウイルスが流行し始めて半年経たないというタイミングで、世界中がどのように対策をとればよいか模索していました。
私たちも「こうすれば大丈夫」という明確な答えを持っておらず、住まいにも対策は必要ですが、住宅は子ども達が大人になるまで末永く住むものなので、「新型コロナウイルスに特化した住宅」にはしたくありません。そこに縛られずに出来ることを検討する中で、人々は新型コロナウイルスだけではなく、ノロウイルスやインフルエンザなど、年中様々な感染症に脅かされているということに気づきます。
結局のところ、ウイルスに関する対策は、新型コロナウイルスが流行していない場合であっても重要だと考えました。

しかし、家中に対策をとろうとするとコストがかかってお客さまに受け入れていただけません。ポイントをしぼった対策が重要です。
どうしたら良いか悩みながら検討していた頃に、クルーズ船での感染拡大を受けて「ゾーニング」という感染防止策が話題に。その考え方を住宅の感染対策にも応用できるのではないかと考えました。

住宅の中では玄関が一番ウイルスや細菌を持ち込みやすいのですが、他にも窓の近くや水回り、換気扇の近くを含めた4か所が、ウイルスや細菌が集まりやすいことが分かりました。
こうした情報をもとに、住宅の中を、ウイルスや細菌の侵入を前提に考える「レッドゾーン」、病気になった家族も使用する「イエローゾーン」、安全な「ホワイトゾーン」に選別して対策するマニュアルを作成していきました。

そして、家の中に「持ち込まない」ための対策、持ち込んだものを「放っておかない」対策、「かからない」ための健康な身体づくりの対策、この3つのフェーズに分けて予防策を打ち出すことにしました。

富田:今までミサワホームの中には衛生環境を訴えるようなソリューションはありませんでした。これを機にミサワホームの建材では、抗ウイルス・抗菌建材の導入が進んでおり、玄関のハンドルや壁のクロス、フローリングなど様々な部品でラインアップが充実しているので、衛生対策への意識が高い方々にも安心していただけると考えています。

今回、コロナ禍において行動が制限される中、チームでプロジェクトを進める上での印象的なエピソードがあれば教えてください。

富田:今回のように、部署横断的なチームでプロジェクトを組んで新商品を開発するケースは少なく、それ自体が印象的でした。通常は、決められた部署でデザインチームが企画・構想やプランを作り、設計チームが技術開発を行います。

今回は、いち早く、新しい生活様式で豊かに暮らすことのできる提案をする必要があり、「一ヶ月という短期間でまとめる」ということがポイントでした。
社歴や年齢に関わらず率直な意見交換でブレストを繰り返し、各自のさまざまな経験や知見をもとに、部署の垣根を越えて連携をとりながら進めていきました。
その結果、商品開発とあわせて2つの設計ガイドラインを新たにつくる上でもスピード感を持って取り組むことができ、良い提案に繋がったと思います。

中川:ZoomなどWebでの打ち合わせもまだ新鮮で定着していない中でしたが、年齢が近く意見を言いやすいメンバーでの打ち合わせだったため、臆することなくざっくばらんに意見をぶつけ合いながら進められました。始めから役割分担が決まっていたわけではありません。一つのものにまとめ上げるにはどうすればよいか考えながら、各々が出来ることを「どのように調査していくか」「色はどうするか」「まとめ方はどうするか」と、細かいところまで相談できたのが良かったと思います。

土屋:今回のプロジェクトは大変でしたが楽しくもあり、良い経験になりました!ふだんは上司や先輩に明確なコンセプトや方針を示していただいた上で発展させていくことが多いのですが、今回は何もない状態からの検討に携わることができました。
また、同世代であっても、独り暮らしや夫婦、家族で暮らしているなど、立場や環境の違うさまざまな意見を聞くきっかけに。特に、SNSが生活の中に入り込み重要な情報源になっている年下の若手メンバ ーの視点は新鮮で、新しい情報源がまだまだあると刺激を受けました。

今回のプロジェクトで、新たな発見など日頃には感じられないことなどがありましたか?

富田:「フォーカス」や「リチャージ」といった表現の選定について、皆で何度もワードの候補案を出していた時のことです。提案する働き方のコンセプトが分かりやすく伝わる一言。
このワードの選定で、なかなかピタッとくるものが見つかりませんでした。
その時に「フォーカス」「スイッチ」「リチャージ」と、チームメンバーの帰国子女の新入社員の子が、ぽんぽんとアイディアをあげてくれて決まったのですが、改めて、若手社員のワードセンスはすごいなと思いましたね。この仕事を長く続けているなかでも、固い表現になったり、崩そうとしてチープになったり日々苦労しているのですが、新入社員は新鮮な考えで簡単に飛び越えてくるのだと感心したことが印象深いです。

中川:私も同様の気づきがありました。今回の住宅では天井高の使い分けを提案しています。天井の高いところと低いところがあることで気分を変えられたりすることを「カテドラル効果」といいますが、打合せ時、それを知らずに新入社員に提案された時には腹落ちする感覚を受けました。調べることもなかったワードや視点など、上下関係なく情報交換ができたことが新鮮でした。

土屋:私達のチームには、たまたま子どもがいるメンバーがいませんでした。例えば、衛生対策ガイドラインを作る上で、知識として子どもが学校からウイルスを持ち帰るリスクに関しては把握しているけれども、実体験としての経験を持っている社員がいない。
そこで、部内には子育て中の社員や子育てが一段落した社員も数多くいるため、多くの方々にインタビ ューすることに。工程は増えたものの、結果的に、より客観的な目線で子どもに関する感染症対策が打ち出すことができて達成感がありましたね。

富田:第三者的な観点はとても大切だと常日頃から思っています。子育て中の人による子育て提案は自分の実体験をもとに考えてしまいがちで、どうしても先入観が入り客観性が乏しく、決めつけてしまうことが多くなると感じています。 極力、エビデンスや客観性をもった目線をもつことが、結果的に多くの方に伝わるポイントだと考えています。

キッズデザイン賞を受賞されたことで、何か反響はありましたか?嬉しかったエピソードなどありましたらお聞かせください。

富田:社内外からの反響が大きいことでしょうか。私たちは今後もキッズデザイン賞の連続受賞につながるような提案を続けていきたいと思っています。ミサワホームでは、キッズデザインは住まいづくりにおける大切なソリューションだと考えており、またお客さまも、ミサワホームを選んで頂くときに、当社の子ども子育てに対する提案を評価いただくご家族がたくさんいらっしゃいます。
お子さまが生まれたことが住宅購入のきっかけとなるご家族も多く、キッズデザイン賞の受賞を通して私たちが考えている思想がお客さまに伝わり、共感いただいた上でミサワホームを選んでいただくこともあり嬉しく思っています。
また、キッズデザイン賞はミサワホーム社内での認知も高いですね。連続受賞の実績はとても嬉しく、社員のモチベーションにもつながっていますし、キッズデザイン賞の受賞発表前後には色々な部署から問い合わせがきます。これからも社内外にしっかりとアピールしていきたいと思います。

最後に仕事を通して大切にしていることなどを教えてください。

富田:商品を作る上では、「実際にそこに暮らす方々のことをよりリアルに想像する」ことを常に大切にしています。
私自身、過去に数年間、実際にお客さまと直接向き合い、住まいのご提案をさせていただく業務を行ってきました。今の仕事でもその時の経験がベースになっており、どれだけ暮らしが多様化し、コロナ渦のように突然急激な暮らしの変化が起きたとしても、普遍的な家族の絆や繋がり、自然と家族が寄り添いながら暮らす豊かな家族の風景を想像しながら、安らぎに満ちた暮らしをご提供できるように心がけています。

中川:私は普段、主にインテリアコーディネートを担当しています。住宅展示場の新規オープンに携わることが多いのですが、表現したい世界観をつくりあげ、お客さまが足を運ばれた際に「何となくいいね」ではなく「記憶に残るような空間」を作ることを意識しています。
生活とインテリアは切っても切り離せないものです。生活ありきの場だと思っているので、「そこでは何をする空間なのか?」「どのようにしたら心地よく過ごせるか?」 その2つの視点を大切にしながら仕事をしています。

土屋:近年、人々のライフスタイルは多様化しており、住宅メーカーからすると生活提案や住まいの提案が難しくなっている状況にあります。そうした中でも「自然災害から住まいと命を守る」「家族を育む」「自然で心地よい暮らしをつくる」といった住まいづくりの本質は変わらずあります。企業としての主張が強すぎてもいけませんが、大切な要素として住宅性能も提案しながら、お客さまのニーズに寄り添い応えながら、商品開発に繋げていきたいと思います。

キッズデザイン賞マーク
文章:池尻 浩子