2024.6.13

子どもの遊び場・スポットのご紹介! 立川PLAY! PARKの裏側(後編)
〜こまもりプロジェクトvol.5〜

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雨の日は立川PLAY! PARKへ行こう!!(後編)
自由が創造に繋がる!
子どもたちが次々に遊びを考える仕掛けとは?

前回お伝えした〜雨の日は立川PLAY! PARKへ行こう!!大人も子どもも夢中になる!「屋内広場」のご紹介〜へ、キッズデザイン「こまもりプロジェクト」のメンバーが潜入調査をしてきました!

※こまもりプロジェクトとは
「子育てに関する安全・安心の適切な情報を、保護者に提供したい」という目的から発足した子どもを守る情報の森プロジェクト。 詳しくはこちら

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一番後ろ:渡邊さん
2列目:左から大川さん、加賀谷さん、舟生さん、水野さん、森口さん、大橋さん
前列:左から小栗さん、吉岡さん

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●こまもりプロジェクトメンバー
コンビウィズ株式会社 森口 優子、ミサワホーム株式会社 大橋 絵里子、秋草学園短期大学地域保育学科教授 加賀谷 崇文、キッズデザイン協議会理事/研究開発部会 部会長、セコム株式会社 舟生 岳夫、キッズデザイン協議会 吉岡 麻衣、渡邊 洋己、大川 誠
●PLAY! PARKスタッフ
キュレーター 小栗 里奈さん
広報 水野 宏美さん

今回、お話を伺ったのは、PLAY! PARKキュレーターの小栗さん。大人も子どもも、何度も訪れたくなる人気の秘密を伺いました!

未知との出会いを求めている人のための施設

Q:PLAY! PARKはどのようなコンセプトで作られたのですか?

小栗さん:テーマは「未知との出会い」なんです。
PLAY! PARKを内装設計した手塚建築研究所の手塚貴晴さんも「大人と子どもが一緒にいられて楽しい施設にしたいね。既存の遊具製品は置かない、ありそうでなかった遊び道具を作ろう!」と言っています。

施設の真ん中にある”大きなお皿”がまさに「未知との出会い」を表現してくれています。
”大きなお皿”では、中の具材を自分達がメニューを作っていくイメージで、遊具も作らず何もない状態で建設しました。

遊具は、東京都市大学の手塚研究室の学生さんや武蔵野美術大学の学生さんと一緒に一から企画し開発していきます。大きなお皿の中で、遊びながら作り、どんどん設置していきます。

子どもたちも制作に参加してくれます。遊具は、完成品をあえて出していない。出来上がった滑り台などは施設にはないんです。一瞬、「これ、どうやって遊べばいいの?」と大人が思うような遊具も、子どもたちがどんどん新しい遊びを発見していきます。

「これは乗るもの」「これは引きずるもの」という固定概念に縛られずに、「走ってみよう!」「揺れてみよう!」と子どもたちが先導して遊び方を教えてくれるんですよね。それが「未知の世界」に繋がっています。
”常識に囚われない=いけないこと”ではなく、新しい遊びを探していく過程を大切にしています。

▲施設真ん中にある25メートルプールほどの”大きなお皿”

小栗さん:ご来場いただく親御さんの中には、時には「ここで何ができるんだ…?」と新しいものとの出会いにちょっと不安そうな顔を見せる方もいます。ですが子どもと遊んでいるうちに、その「?」が不安から好奇心へ気づかぬうちに変わっているのです。
実際、ここは走り回ったり、物を作ったり、楽器を演奏したり、とにかく好きなことを思う存分やる場所なので、大人も子どももクタクタになって気持ち良い疲労感が生まれます。お客さんだけでなく、出迎える私たちも含め、みんな遊びに真剣なのです。

▲新聞用紙で作った「くしゃくしゃおばけ」に乗って遊ぶ子どもたち

子どもにも伝わりやすい安全面の工夫

Q:既成のものではないからこそ、安全面に配慮されていることはありますか?

小栗さん:もちろん安全性にはものすごく気をつけています。専門家にも助言をいただきながら、溢れんばかりの力と好奇心旺盛な子どもたちに対応できるよう、日々遊具の形も更新し続けています。

また、商業施設だと、遊び方やイベント情報、注意事項などの文字情報が多く見られますが、PLAY! PARKには文字情報が極端に少ないんです。

▲新聞用紙で作った「くしゃくしゃおばけ」をブランコにして遊ぶ子どもたち

小栗さん:なぜなら、注意することっていくらでも出てくるんですよね。特に、私たちの遊具は、設計上ギリギリ登れる高さだったりもするので想像もつかない遊びを子どもたちがしたりします。

正直、たくさん細かく説明を書いた方が楽なんですが、子どもたちは注意事項をあまり読まないですよね。だから、最低限に絞って必要と判断した情報を、文字ではなく絵で示すようにしています。

それ以外の注意事項はスタッフが必ずいるので、人と人とのコミュニケーションで解決したり、子どもだけで遊ぶのではなく必ず家族で遊んでくださいねと伝えています。安全の確保の意図もありますが、保護者の方にも一緒に楽しんでほしいという思いもあります。

▲イラストで子どもにも伝わりやすくした、遊び心のある看板

大切なのはコミュニケーション

Q:運営スタッフの方とはどのような連携を取られているんですか?

小栗さん:私たちスタッフは常に”完成していない”という意識で動いているので、「決まりだから」「これが正解だから」と決めつけないようにしています。

皆で話し合うことも定期的にしていますね。研修などの場を設けるのではなく本音が聞ける場を大切にしています。スタッフも「今日、こういう過ごし方でした」という報告だけでなく「危ないからこうした方がいい」など、子どもたちと一番多く接している立場から、今、一番必要だと思うことを率直に話してくれているからこそ、新しい遊びを常にアップデートしていく上で、理想論では終わらない手触り感のある議論ができています。

そのおかげで、遊具も、掲示も、過ごし方も常に変化しています。

▲工作ができるファクトリー横には、子どもたちの作品が並ぶ

「一緒にやる」「見守る」という考え方

Q:子どもたちの遊びの中で意識されていることはありますか?

小栗さん:最初は、お客様の中には「完成していない」ということに戸惑いを感じる方もいらっしゃいました。

次の遊具に関してもわざと制作過程を子どもたちに見せているので、ただ散らかっているように見えることもある。その中で、スタッフが作っている様子を見せたり、子どもたちと「こうして作るんだ」と一緒に作ったり、体感を通して少しずつ私たちが伝えたいメッセージが伝わってきたように思います。

▲制作過程の様子

小栗さん:大人が教えたり先導するという考え方はなく、「一緒にやる」「見守る」ことを大切にしてます。むしろ、ここでは子どもたちがたくましく先導してくれる。

保護者の方も「普段はやらせていなかったけれど、ハサミを使わせてみようかな」と思ったり、スタッフも声かけたり助けたくなるけど、信頼して待つことを意識しています。だからこそ、子どもたちが達成感を持って満たされて帰っていくのも感じるんですよね。

大人が子どもから学ぶことの方がここでは多いから、大人がそばで見守るという感覚よりも、大人もプレイヤーとして一緒に遊ぶという感覚の方が近いかも。親御さんにも一緒に楽しんで充実した時間を過ごしてもらえたら嬉しいです。

▲ ▼工作ができるファクトリーでは、大人も一緒に作ったり見守ったり

現実と非現実の間にあることを作る

Q:キュレーターとはどのようなお仕事なんですか?

キュレーターはクリエイターと現場の中間にいるイメージです。館長の手塚さんは、遊びに来る(仕事をしに来る)度に、そんなこと実現できるの!?と思っちゃうような奇想天外な新しい遊びの話を次々とする。スタッフとは、ちょっと落ち着いて…実際に安全に遊ぶための話をする。約4年間、ずっとこの繰り返しです。

現実に寄りすぎると、前に進まなかったり新しいことができない。現実とかけ離れすぎると、事故に繋がりやすくなったり、運営が難しくなる。夢の話で終わっちゃいますよね。それを、どのような手段で行えば新しいことが実現するのかを模索していきます。

遊具の在り方、お客様の迎え方、環境のことなど、色々な方法を考えたり、学生さんと一緒に遊具を作ったりワークショップをしたり、私が一番楽しんで遊んでいるかもしれないですね(笑)

子どもたちも「次はどんな遊びがあるのかな?」と楽しみに足を運んでくれます。それが何より嬉しいです!

▲入口付近にある手軽に遊べる工作コーナー

~こまもりプロジェクトメンバーより~
●通常お子さまが使うものには注意表示が多くみられますが、表示を最低限にするための見守り・コミュニケーションなどの努力が印象的でした。ボール遊びができる公園も少ない現代、ダメ!と言われず肯定される空間でお子さまのやりたい!が無限に広がっていくと思うとわくわくします (コンビウィズ・森口)

●子どもの遊びにもデジタルが浸透している現代ですが、ここではアナログ・手作りにこだわって子どもが好奇心や発想力をフル活用して全力で遊べる仕組みがつくられており、枠にとらわれない自由な遊びかたをする子どもたちと、そこから得られるパワーやイメージを新たな遊びの道具につなげるスタッフの心意気が伝わる施設でした(セコム・舟生)

●色を抑えた内装、反響音が少なくBGMも工夫されて控えめな点、自然光がたっぷり入り、強すぎない照明など、おもわず長居したくなる空間でした。ミサワホームの保育施設設計においても保育者のストレス軽減を意識した内装を採用しているのですが、同様に保護者への配慮を感じました。(ミサワホーム・大橋)

●子どもにとって楽しめる施設に共通しているのは、大人が楽しんで工夫している施設だと思います。PLAY! PARKは遊び場はもちろんのこと、かけられているBGM(本当は音楽というよりは音なんですが)まで遊び心で工夫されていて、大変楽しかったです。(秋草学園短期大学・加賀谷)

▲施設外観(写真提供PLAY! )

編集後記:親として、理想はあっても普段なかなかできない”子ども自身の力を信じて、やりたい事をやらせてあげられる”を思いっきり叶えられる場所でした。建築だけで完成ではなく、利用者にゆだねる余白が、どこか利用者を置いてけぼりにしない人の温かさを感じる施設のように思います。また、スタッフの方の1つ1つの拘りと意図設定が子どもたちの本来持っている独自性や創造力を引き出していってくれているようにも感じます。ぜひ、一度足を運んでみてください!

キッズデザイン賞マーク
文章:池尻 浩子  写真:池尻 浩子