2021.12.16
聴こえない方々に、音をどのように伝えるか? 「Ontenna(オンテナ)」開発者・本多達也さんインタビュー(後編)
子どもたちが、知らなかった世界に触れられるように
Ontennaの動画『ストーリー「ろう学校」篇』を見ると、子どもたちの生き生きとした表情が印象的でした。
耳の聴こえないお子さんのなかには、打楽器などに興味を示さないお子さんが多いと聞きます。しかし、Ontennaをつけていると、太鼓を叩けばデバイスが振動するので、身体にフィードバックがあることによって、積極的に太鼓を叩くようになることがあります。 また、自分が声を出したときに何かが発せられているという、その音の存在を知らないお子さんが多くいます。Ontennaでその音の存在を感じることができることによって、ろう学校では普段声を出さない子が「『あー』って積極的に声を出しています」と先生がおっしゃってくれていて、すごく嬉しく思いました。
子どもたちが知らなかった世界に触れられるようになるのは、デザインやテクノロジーの力であり、いろんな可能性を感じた瞬間ですね。
聴覚障害のある方には、途中で聴こえなくなった方もいれば、最初から聴こえない方もいるし、大人もいれば子どもたちもいます。「Ontennaは誰のもので、一番は誰に届けたいのか」を考えるタイミングで、ろう学校の子どもたちを笑顔にしたいと考えました。子どもたちはいろんなものに興味を持っていて、新しいものに対しても積極的に使ってくれます。
デザインやテクノロジーにできることとは
本多さんのモチベーションや原動力はどんなところにありますか?
「どのように違いを認め合って、一人ひとりが自分らしく生きられるか」をいつも考えていて、これはデザインやテクノロジーが貢献できることだと思っているんですよね。
「xDiversity(クロスダイバーシティ)」といって、落合陽一さんたちとやっている活動があるのですが、そこでOntennaを使って最近実施したワークショップの事例でも、デザインやテクノロジーの力を実感したところです。
作家のクリスチャン・ボルタンスキーの作品『心臓音のアーカイブ』が、香川県の豊島に展示されています。世界中の人の心臓音を採録してあり、そこで聴くことができ、希望者はその場で自分の心臓音を採録することもできます。
違いを認め合い、一人ひとりが自分らしくいられる世界へ
違いを認め合えるようになるために、Ontennaで大事にしているのはどんなところですか?
耳が聴こえる人でも、Ontennaを見て「かわいい」「つけたい」と思ってもらえるのは重要なことです。補聴器や車いすの中には、障害のある方が使っていて、あえてそういう風に見せている部分もあるのですが、一方で「それを使うのが嫌だ」と感じてしまう方もいると思います。
僕らが大事にしているのは、Ontennaを使って卓球、映画、タップダンスなどのイベントを開いたり、能楽協会とコラボレーションして「能」のイベントをしたりと、テクノロジーや障がいとのタッチポイントを増やしていくことです。プロダクトデザインだけでなく、プロダクトに至るまでの体験や広げ方のグランドデザインが大事だと思います。
今後の展望を教えてください
全員を一気に幸せにすることはできなくても、デザインやテクノロジーを使うことによって、一人一人に寄り添って、違いを認め合い、一人ひとりが自分らしくいられる世界にしていきたいと思っています。
【キッズデザイン賞】
第13回キッズデザイン賞TEPIA特別賞 Ontenna