2026.3.23

【レポート】インクルーシブ・キッズデザイン
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」へ行ってきました

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暗闇の中でひらかれる感覚とつながり
― ダイアログ・イン・ザ・ダーク体験レポート

キッズデザイン協議会の調査研究事業で活動しているインクルーシブ・キッズデザインプロジェクトのメンバーが東京・竹芝で開催されている『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』へ行ってきました。
真の暗闇の中を、白杖を手に、声を頼りに進んでいく——そんな特別な体験が、ダイアログ・イン・ザ・ダークです。
 案内役は1名のほか、参加者が6名。最初はまだ光のある空間で顔合わせを行い、その後、完全な暗闇に入ります。次に「暗闇の中で呼び合う名前」を決めます。正直なところ、「声だけで相手を認識できるのだろうか」と強い不安がありました。

 しかし、いざ暗闇に入ると、その不安は次第に変化していきます。声を掛け合いながら、時にはそっと手の甲で相手の位置を探り、あるいは手を取ってもらいながら、一歩ずつ進んでいきました。
足元の感覚、周囲の音、かすかな匂い——視覚以外の感覚に意識を向けているうちに、少しずつ暗闇に慣れ、恐怖心も和らいでいきます。同時に、不思議な安心感や解放感も生まれました。「見られていない」という状態が、心を軽くするのかもしれません。

 暗闇の中でグループのメンバーと会話をしていると、普段以上に深いつながりを感じます。相手の声やその場の空気に、自然といつもより集中している自分に気づきました。

 今回のプログラムは、2024年に発生した能登半島地震の被災地支援・復興応援を目的とした特別企画「暗闇の夏祭り」でした。案内役の方は実際に現地を訪れた経験があり、隆起した海岸線や、今も残るがけ崩れの様子について語ってくださいました。その言葉は、暗闇の中で一層リアルに響きました。
 体験の最後、「灯りのある世界に戻りましょう」と声をかけられたとき、正直なところ「まだ戻りたくない」と感じました。そう思ったのは、私だけではなかったように思います。

 視覚のない世界は、私にとって「静かな世界」でした。
光や映像、文字は確かに重要な情報ですが、それらから離れることで、かえって落ち着き、周囲の環境や一緒にいる人、そして自分自身と丁寧に向き合うことができたように感じます。

 この体験は、子どものインクルーシブデザインを考える上でも、多くの示唆を与えてくれます。
 見える・見えないといった違いにかかわらず、声や気配、安心できる関係性を手がかりに人とつながることは、誰にとっても大切な基盤です。子どもたち一人ひとりの感じ方や関わり方を尊重し、多様な感覚やコミュニケーションのあり方を前提にした場や仕組みを設計していくことの重要性を、改めて実感しました。

中村 奈津枝(東京大学大学院・キッズデザイン協議会フェロー)

▼参加者の感想

ダイアログ・イン・ザ・ダークでの体験は、私にとって非常に貴重な時間となりました。真っ暗闇の世界では、普段意識しない音が鮮明に響き、わずかな香りの変化にも驚くほど敏感になります。人の声だけでその人の居場所がわかるという発見は、新鮮な驚きでした。
一方で、安全が保証されている室内であっても、視覚を奪われることへの不安は拭えませんでした。日常を過ごす視覚障害者の方々が、どれほど大きな不安を抱えて街に出ているのかと思いました。
しかし、案内をしてくれた視覚障害者の女性は、旅の思い出を生き生きと語り、手際よくお茶を淹れてくれました。その姿から、私は気づかされました。「目が見えない」ことは決して「できない」ことではないのだと。他の感覚が研ぎ澄まされ、楽しい日常を築ける力があるのだと知りました。
特別な助けが必要なわけではなく、大切なのはそれぞれの特性を理解し、そっと寄り添うことなのかもしれません。そんなシンプルで本質的な心のあり方を学んだ、かけがえのない体験でした。(LIXIL住宅研究所 伊藤さん)

実際に完全な暗闇に足を踏み入れると、想像していた以上に“別世界”が広がっていて、思わず気持ちが引き締まりました。 視覚が奪われると、普段は背景のように存在している音や風、足音、そして人の気配が一気に主役になります。また、暗闇ではコミュニケーションの質が自然と変わります。視線や表情に頼れない分、言葉の選び方や声のトーンがとても重要になりました。仲間同士で声を掛け合ったり、そっと手を添えたりする動きが自然と生まれ、そこには“支え合うこと”が当たり前のように存在していました。今回の体験を通して強く感じたのは、インクルーシブな環境をつくるうえで大切なのは、物理的なデザインだけではないということです。安心感は空間そのものから生まれるのではなく、そこにいる人のコミュニケーションによってつくられる。これは、子どもを含む多様な人々が安心して参加できる場づくりを考えるうえで、とても大きな学びになりました。(キッズデザイン協議会 吉岡)
キッズデザイン賞マーク
文章:中村 奈津枝(東京大学大学院)